PandoraPartyProject

SS詳細

The road to hell is paved with

登場人物一覧

ロード(p3x000788)
ホシガリ

●無回答の棺
『――どうだったでしょう?』
 
 空白を埋めるクロスワード。
 べつに、意地悪に聞こえたりはしなかった。ただ、試されているような気がした。
 いったいどういう約束をしたんだっけ?
 考える。
 テストを受けているみたいだ。でも、もしかしたら、正解なんてないのではないか、と不安になった。心がざわざわとする。
 とても、嫌な約束だった気がする。自分自身のすべてを明け渡してしまうような、致命的な約束だった気がする。
 自分の存在に深く根差したものだった気がする。
 沈黙していればしているだけ、時計の針が進み、責められているような気がする。
 耳飾りが鳴り響いていた。
――煩い。
 思わず耳を押さえる。
 急に、ランドウェラは、相手の言うことが分からなくなった。
……誰だろう?
 ソラというのは、本当の名前ではないはずだ。
「本当は、どういう名前?」
『███』
 急に世界は色彩を失う。
 言葉が通じなくなった。
 相手が何を言っているかわからない。
(約束?)
 ゆっくりと手が伸びてきて、ランドウェラの首元に添えられた。
(死ぬときは、一緒だという約束?)
 敵だ!
 命彩で視認した色はゆっくりと赤に変化していた。視認したくない存在。敵だ。R.O.O内でのギフトであり、第四の感覚だった。
 ランドウェラは考えるよりも素早く行動していた。
(殺さなきゃ……)
 思考回路が白い刀に乗せられて素早く振るわれる。コンマ1秒の正確さで。

 滝のような水が降ってきた。
 いつかのようなひどい天気だった。飛び散る中には鋭い歯を持つ魚も紛れ込んでいる。そしてこれは……。
(あ、――棘だ)
 これはいやだ。痛い。
 だから、当たっちゃいけない。
 いやな思いはしたくない。傷つきたくない。そう思うのは、当然のことだ。
 雨あられのように降り注ぐデータのつぶてにはレアエネミーを模した姿の影がゆらゆらと揺れていた。
 今までやってきたことの復習――復讐。
 殺した一つ一つを覚えているか、と、問うようにそれは降り注いでいた。
 手を変え、品を変え、ランドウェラに問いかける。
 対処できた。
 ランドウェラはたくさんの経験を積んで、すっかり強くなっていた。白い刀を携え、相手のコードを無効化する。
 あの逃避にも思えた寄り道にも意味があったのだ。
……既視感がある。
(今まで倒してきた敵だ、わかる)
 そうだっけ、と深層心理がささやいている。ほんとうにそうだっけ?
 口をきこうとして開いたけれども、洪水のような水が入ってきた。
█████覚えていないの?』
 レアエネミーは手ごわい。何度HPゲージを0にしても、再び起き上がってきた。でもそのたびに、心のどこかでほっとしていた。死なないでほしい。それは、殺意とは矛盾している。
 でも死なないでほしい。いなくならないでほしかった。
(どうしてこんなこと思うんだろう)
(どうして、さみしいって思うんだろう)
(前にもこんなことがあった気がする。いや……)
 少しずつ、相手から色彩が失われていった。血を流して、黒に。真っ黒に染まっていった。
(考えてはだめだ、手を動かさなきゃ)
 そうしないとひどい目に逢ってしまう。それはいやだ。……帰りたい。帰らないと。

 敵は圧倒的に多数ではあったが、状況はランドウェラに味方している。ランドウェラの攻撃は最後の核をとらえる。
(あ)
『ソラ』が、最期の一撃を放たなかったように見えたのは錯覚なのだろうか。
 ランドウェラは静かにとどめを刺した。一撃は、致命的な部分を貫いたのだとわかった。
「ソラ」
 もう一度問いかけていた。
「ねぇ、ソラ」
 悲鳴に聞こえたのは、きっとそういうきもちだったからだ。
 水風船が破裂するように、あっけなくいなくなってしまった。

 ぱあん、と。

 それは白。色彩を失った白。生命があふれる海はたゆたいすべて残らない。
 世界を彩る呪術は、視界に映る全てを侵蝕していった。

(やっぱり、これ、はじめてじゃない……)
 ランドウェラは、初めて彼女を殺したときの感触を思い出す。いやな感情でいっぱいになった。
(もしかして……?)
 もしかして。動悸が早くなる。きもちがわるい。楽しくはない。怖い。
「ソラ」
「……ソラ」
 返事はなかった。
 胸に後悔が満ちている。
 涙のように、雨が降り注いでいる。
 終わったんだ。
 クエストのクリアを告げるダイアログが消えない。ずっと消えない。派手なエフェクトとともに、アイテムボックスには報酬が振り込まれている。
 白斗からも通信が来ている。出ないと。いや、まって、もう少しだけ時間が欲しい。

>ログアウトしますか?

 ランドウェラははそれを拒絶すると、ただその場に佇んでいる。

>コンティニューしますか?

 コンティニュー。できることならもう一度、会いたかった。願うようにもう一度。
 思い出した。
 雨は再び集合体に戻っていく。逆再生のようにしてすべてが元通りになっていく。R.O.Oでよかった。
 もう一度起き上がってきたそれは、今度はランドウェラを貫くように手を伸ばした。それはそれでよかった。殺されてもよかった。さっきまで必死に戦っていたのだ。
 透明な存在がランドウェラの胸を貫いた。
 ランドウェラは目をつむったのだ。そうすると、目の前にはまた『ソラ』がいる。

『死ぬときは、一緒だと約束したね』
 言葉に詰まる。息ができなくなる。感情があふれ出した。
 ずっと一緒だ。そう思った。
『ついてきて』
 もう一度いった。
『ここは作り物の世界。別のセカイ、だから、失われることはない』
 FPSファーストパーソンシューティングTPSサードパーソンシューティングになる。
(あ)
 ランドウェラの一部、ロードは引き寄せられていった。それをランドウェラは三人称で見ている。ただ見ている。どうしてかわかった。
(彼女になら何でもしてあげれる)
 ランドウェラはそう思っていた。
 ロードの体は泳いでいった。
 自我が競い合うようにして、制御を離れていく。「ロード」と記されたキャラクターは勝手に意思を持ち、ソラといなくなってしまった。ぽっかりと何かがいなくなったような喪失感があった。

●自身との決別
 R.O.Oには、それ以来行っていない。
 レアエネミーはもうどこにもいない。

 強制的な切断からは、ずいぶん長いこと寝ていたらしかった。
 ランドウェラは子守唄を覚えている。
 子守歌に抱かれるようにしてあやされるのは、悪くないようにも思われた。ここには滅びがない。問いのほうが先だった。
 ランドウェラは、それも悪くないような気がした。

 じぶんの一部は、いま、どこかでソラと一緒にあるのだろうか?
 ランドウェラは現実で目を覚ました。大丈夫か、と心配そうに白斗が見ている。妹のほうは泣きそうだった。けれども自我の一部は失われてしまったのだ。ぽっかりとあいた心。震えたイヤリングから、誰かと誰かが楽しそうに話している。それは自分であって、自分ではない物語に閉じ込められている。
 もう殺さなくて済んだんだ、こんどこそ。けれども他人事で寂しかった。

 耳を澄ませてみる。楽しそうなせせらぎが聞こえてくる。それが聞こえることはもうないかもしれない……。
 ランドウェラの一部はずっとあそこにあるのだ。
 ランドウェラは無意識のうちに子守唄を口ずさんでいた。La la......。
 揺蕩う光はまぶしい。とても透き通っていて静かだ。

  • The road to hell is paved with完了
  • GM名布川
  • 種別SS/IF
  • 納品日2024年04月02日
  • ・ロード(p3x000788
    ※ おまけSS『あいづち』付き

おまけSS『あいづち』

イヤリングはゆらゆら揺れている。もう聞こえない言葉だけど、でも、ずっと相槌を打ちつづけていた。

危なかったね。
とってもしんぱいした。
でも、大丈夫だと思っていた。

約束、したね。
いってらっしゃい。
待っているから。待っているから。

【ログの解析】
R.O.Oでの一件から、応答に別のパターンが加わったことが示唆されている。

うん、大丈夫。ありがとう。
心配かけてごめんね。
もう大丈夫。
殺したりしてごめんね。

いいのよ。

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