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【RotA】調査記録・海洋編~あるいは突撃!小島の幽霊船~

登場人物一覧

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
日向 葵の関係者
→ イラスト

 海洋――ネオ・フロンティア海洋王国。
 海の見える家を借り、のんびりと過ごしていた幽谷 霊路の平穏な日常は。
「おいゴースト、依頼だ!」
 依頼書片手に飛び込んできた日向 葵 (p3p000366)によって華麗に吹っ飛んで行ったのである。
「年中霧に覆われた島があって、そこで停泊してる幽霊船を見かけたんだってよ。もしどっか行っちまったら探しようもなくなるし、今のうちに調査してほしいってことだ」
 混沌に来る前から霊路の先輩だった葵は、誘いを断れない相手でもあるが。
「まぁ……構いませんよ。いつ行きます?」
「お前がいいならすぐ出発しちまおうぜ」
「……そうだと思いました」
 この世界でも間違いなく頼れる『先輩』で、その背を躊躇なく追いかけていける存在でもあるのだ。

「ええと……沿海からは、出なくて問題ない……ですね……」
「まぁ外海まで出るならこのボートじゃ足りないしな」
 借りたボートを走らせつつ、海図を確認する霊路に舵を握る葵は頷いた。海洋王国は大小さまざまな諸島を有し、その中にはルタヤ島やスペクルム島のように観光地や居住地として開発されている島も多いが、名前すらない無人島もまた数え切れないほどある。幽霊船が停泊しているというのもその無人島の一つであり、常に霧で覆われている上にさほど大きい島でもなく、特に不穏な減少も起きないので放置されていたらしい。
 しかし幽霊船が現れたとなれば別である。何らかの要因でこの島によって生み出されたか、それとも他の場所から流れ着いたものか――いずれにせよ多数のアンデッドモンスターの巣窟となっているであろう幽霊船の調査は不可避、そして必要であれば島自体の調査もすることになるだろう。葵と霊路だけでは手に負えないとなればその情報をローレットへと持ち帰り、改めて調査隊が組まれることにもなるはずだ。
「……流石に、普段漁に出る場所からは……かなり、離れますね……」
「すぐ近くに観光地とかある島でもないからな。ま、その分まだ周辺の住民の避難とかは考えなくていいのはありがたいとこだ」
「確かに……人を動かすと、なれば……一気に、大事になりますから……」
 耳元で海風が鳴る。天候晴れ、視界は良好、海図によればもうすぐ目的の小島だが、霧は本当に島のごく周囲だけに留まっているらしく、幾つかの島を迂回してようやく少し離れた海面に見えてきた。
「放置されたのもわかりますね……不気味というほどでも、ないというか。……流石に船の方は、一見して幽霊船、ですが」
「ゴーストから見ても幽霊船なのか……」
「その……別に、仲間ではないんですよ、先輩」
 存在感は薄いですけど、と肩を竦める霊路、サッカー部時代からのあだ名は『ゴースト』。
 近づけば近づくほどに、あちこちに穴の開いた船体やボロボロになって風に吹かれる帆、どうしてこれが未だ浮かんで航海できているのかと思う姿が霧の合間から浮かび上がる。停泊といっても港もない無人島、とりあえず甲板と高さの合う岩壁に身を寄せるようにしているだけだ。
「あの穴なんか絶対に水入りそうなのに、こんなにちゃんと浮かんでんのってなんか不思議なもんだよなぁ」
「……何か不思議な力で、守られている……かもしれません」
「ま、確かに幽霊自体もそんな感じだろうし、幽霊船も同じように守られててもおかしくないか」
 霧に遮られることなく船全体が視認できる位置まで近づいてみたが、幽霊船から何か出てきたり顔を出したりということはない。双眼鏡を使ってみたが甲板にも何の姿もないのは、まだ昼間だからだろうか。
 このままボートを横付けするかとも葵は考えたが、葵も霊路も特別に水上や空中での行動をたやすくするようなスキルは持っていない。少し離れた砂浜にボートを引き上げ、そこから幽霊船まで行って乗り移るのが確実だろうと葵と霊路の意見は一致した。ボートは軽量かつ頑丈に作られていて喫水線の位置も低く、砂浜に乗り上げることもできるしそのまま降りて手で引っ張れば簡単に陸に上げておくことができる。満潮も加味してそれなりに離れたところまで引っ張り込み、さらにアンカーを砂浜に打ち込んでおいた。何せ帰りの足もこのボートしかないのだ、もしも迂闊に流されてしまったならば霧に覆われた島でのサバイバル、或いは有人島までの遠泳大会が幕を上げることになる。
「借りもんだからなくすのはマズいってのもあるが、何より戦闘するかもしれねーのにその後泳いで帰るのはな……」
「……試合後に帰りはランニングでって言われるのと、近いものが……」
「あーわかる、それすっげー身に沁みるわ……」
 ボートの安全を確保してしまえば、そこから幽霊船までさほど距離はない。霧は深いが互いの姿すら見えないというほどではなく、緩い上りのどこかハイキングコースのようにも感じられる道。けれど船が見えてくるにつれて接舷した甲板の古びた木、破れた床が目に入るようになれば、一気に冒険らしい緊張感が葵と霊路の間に走る。
「灯り持ってきてるよな? ……あー、いきなり連れ出しちまったから持ってないか?」
「いえ、……大丈夫です」
 家を出る時に背負ってきたザックからカンテラを取り出した霊路に、用意がいいなと葵は目を細めた。
「まぁ……こうして急に連れ出される時用に」
 あと霊路も海洋王国を中心に依頼を請けることがあるので、必要な冒険道具は纏めてある。そんな話をしつつ葵もカンテラに火を入れた。一度付けてしまえば持っても置いても安定する優れものだ。
 ひらりと身軽さを活かして葵が甲板に飛び乗る。かたりと床板の動く音がして身体が僅かに沈んだが、振動の余韻に少しばかり船が揺れる他は無事だ。その間にロープ付きの杭を地面に固定しておいた霊路が、大丈夫だと手を挙げた葵に頷いてロープの端を手に飛び移る。
「気休め、かもしれませんが……」
 傷んだ床板を踏まないように慎重に足場を選び、ロープをマストの一本の根元へと括り付けた。切られてしまえばそれまでとはいえ、咄嗟に船を動かそうとした時の妨害くらいにはなるはずだ。もう一本のマストからも念の為ロープを伸ばして地面と繋いでおく。
 霊路がその作業をしている間に先に甲板の上を探索していた葵は、船内へと下りる階段を確認し、さらに覗き込んだ限りではそこに人影がないのも確かめて霊路とまた合流する。
「下への階段は2つ、船首側と船尾側からどちらも中央に向かってる。内側からスライドさせる扉があるみたいだがどっちも開いてたな」
「了解、です。……それぞれ別の階段から行くか……一緒に行くか、どうします……?」
「一緒でいいだろ、大きい船でもないしその方が安全だしな」
「ん、では……行きましょうか、先輩」
 足を下ろせばぎし、と古い木の軋む音がする。体重を乗せて平気か慎重に確認しつつ、一歩、また一歩と歩むたび、霧に阻まれつつも島を穏やかに照らしていた陽光が遠くなっていく。二つのカンテラだけを頼りに、暗闇の中へと葵と霊路は踏み出していく。
 階段を降りるとそこにも扉。錆の目立つドアノブに手を掛け、捻ろうとするも動かない。
「鍵、ですか……」
「いや、これは……油だな」
 おそらくは練達あたりで開発されたのだろうが、スプレー式の潤滑剤は冒険グッズの一つとして手に入れることができる。葵がドアノブと蝶番に油を差している間に、ぽつりと霊路が呟いた。
「……このドアが開かなかったから、幽霊船のアンデッド達が甲板に出てきてなかった、ということは……」
 ――沈黙。
「……まぁその気になったらドアを蹴破って出てこられるかもしれないし、その時に被害が出てたらたまったもんじゃないだろ」
「……確かに、それで暫定的に安全、という調査結果を出すのは……流石に、無責任ですね」
 どうせこれは調査依頼、乗りかかった船である。いや実際船に乗っているのだが。
 油を差したドアノブは音もなく回り、施錠されているというわけでもなく静かに開いた。
 その先もまた闇――通路が続いている。床のところどころに傷みがあるのを確かめて「気をつけろよ」とすぐ後ろを歩く霊路に声をかけ、慎重に傷んだ場所を避けて進む。それでもギチギチと踏みしめるたびに木板が鳴るのが床が抜けそうで不安でもあり、カンテラに照らされて自分達の影がやはり傷んだ壁に浮かび上がり歪に揺れるのが不気味さを煽る。
 白から紫へと色の移り変わるガントレットを嵌めた右手を握り締め、相棒であり武器でもあるサッカーボールを左腕に抱え直す。しっかりと戦闘用の魔力を付与し、葵の左足から放たれれば砲弾に匹敵する威力で敵を穿ちてなお傷つくことなく手元に戻る逸品だ。抱える腕に力が籠もり、無意識にトントンと左の爪先で軽く床を蹴って体勢と呼吸を整える。自分の呼吸の音がやけに大きく響くように思えた。後ろを歩いているはずの霊路の気配は感じられない――とはいえそれはいつものことだ、サッカーでも強力な武器であった霊路の気配の薄さは、イレギュラーズとして得た力と結びつき鍛えたことでもはやモンスターやこの世界で出会う敵にも通じる超常の能力となっている。まさに葵のシュートと同じように。
 だからこそ通路の行き当たり、右の壁に設けられたドアの向こうへと耳を澄ませ、念の為油を差してからゆっくりとドアノブを回し扉を開いたその時に、霊路の気配がすぐ後ろになかったことを不自然と思わなかったのだ。
「っ!」
 ドアを開けた位置からは見えない、けれど数歩踏み込めばずらりと並んでカットラスの切っ先をこちらに向けたスケルトン達。その後方にゆらりと濡れたような半透明の影となって浮かび、恨みがましげな目を向けるのはゴーストだろうか。さらには海に沈んだ無念をそのまま宿したか、錆びたフルプレートアーマーが蒼い炎のような光に包まれ目が見えずともわかるほどにこちらを睨みつけている。天井近くに浮かぶ長い髪を垂らした女の霊はバンシーと呼ばれるものか――彼らの先頭に、漆黒の三角帽に無惨に裾がちぎれて襤褸のようになったフロックコートを纏い、左手に義手代わりにか三又の鉤爪、右手には刃こぼれした刀身に似合わぬ壮麗な装飾のカットラス。葵のカンテラの光に照らされ、柄に象嵌されたルビーがぎらりと睨むかのように光る。
「くっ、これは……」
 カチ、カチ、カチ。
 威嚇するようにスケルトンの一体が歯を鳴らせば、それが伝播するかのように次々に歯を鳴らす音が増えていく。
 カチカチカチカチ。
 カチカチカチカチカチ――!
 まるで良くできたホラーハウスのような、けれど確かに現実たるアンデッド達に圧倒され、退くかいっそ突っ込むかと息を呑んだ、その時。
「……先輩、大丈夫ですか?」
「ゴースト!」
 振り向けば既に魔力でナイフを生成しつつ、油断なくアンデッド達の様子を伺いつつも葵を気遣う霊路の姿。
「ひぇっ!?」
 そして全く別の声。
 葵でもない、霊路でもない悲鳴がどこからしたのかといえば――ずずず、と下がったスケルトン達である。
「え、あの人いた?」
「一人目の隣にいきなりいたよな?」
「えっちょっとやだ怖い助けて船長!」
 緊迫した雰囲気がなんか一気にわちゃわちゃした。慌てるゴースト、幽霊船長の腕にしがみつくバンシー、スケルトン達といえばわたわたした挙げ句ごつんと頭をぶつけて転がる頭蓋骨、なんてコントみたいな状況になっている。
「ちょ、頭、俺の頭!」
「あれっこれ俺のじゃねぇな?」
「俺のだよ返せ!」
 なんだこの状況。
「ってアンタらがビビるんスか!? いやいやいやそっち側じゃないだろ!?」
 思わず恐怖を忘れてツッコミを入れた葵の肩を、ぽんと霊路が叩く。
「幽霊だって、驚きます……大丈夫です先輩」
「さらっと順応してんじゃねーよオメーは」
 そもそもこの状況招いた本人である。
 そしてバンシーを腕に引っ提げたままやれやれ、みたいなジェスチャーをした船長は。
「まぁうん、ちょっと話し合わねぇか。酒も茶もつまみもねえがテーブルと椅子はあるし、な」
 生者二人を促して、自分もどかっと椅子に腰を下ろしたのである。

 ぶっちゃけるとこの幽霊船、「無念でアンデッドにはなっちゃったけど別に人間恨むほどじゃねーな……」と微妙な感じで現世に留まっちゃった元海賊達と、彼らが海や無人島で拾ったアンデッド達がダラダラ航海しつつ交流したりして、無念が消え成仏(?)するまで過ごしているだけ、らしい。
「ちなみに俺ぁ三代目船長だ、一代目は直接知らんが二代目も昇天しちまったんでな」
「お、おう……」
「生きてた奴が来たのは初めてだな、なんせ生きてる船がいたら逃げてたからな」
 今回は停泊してるところに気付いたらもう着陸して近づいてきていた葵と霊路に対応できず『脅して帰ってもらおう作戦』に出たとのことである。
「まぁこっちが脅かされちまったけどな!」
「そうだよ何でビビんねぇんだよ、おかしいだろ」
「いや……その、こういう世界ですから、ホラ」
 ちなみに船長以外のアンデッド達はすっかり緊張が飛んでいって、カードゲームしてたりカットラスを磨いていたりボロいバイオリンを弾いて歌ったり踊ったりしている。だいたいこれが日常らしい。
 バンシーは船長の腕にまだしがみついている。船長に惚れてるだけなんじゃないかこいつ。
「そういや船倉とか手つかずなとこ結構あるんだよな、見てっていいぜ。おい、わかる奴案内してやれ」
「お、では拙者が」
「あーワシも行くワシも、お前じゃドア開けられんだろ」
 集団から出てきた幽霊とフルプレートアーマーさん。さ、こっちこっち、みたいなノリで手招きされて、霊路と顔を見合わせた葵は。
「……ま、善意には乗っとくもんか」
 いろいろと考えるのをやめて、とっくに順応している霊路と一緒に本当にほぼ手つかずだった船倉、ついでに船全体を見て回り、劣化を免れていたアンティークの宝飾品や未開封のシェリー酒をありがたく持ち帰ることにした。飲める状態かは不明だがコルクは見た感じ風化せずしっかりしており、飲めるのであればかなりの掘り出し物である。何せラベルを見たところ80年ほど昔のやつだ。
「んじゃ、ここに来るような姿にはなるんじゃねぇぞ!」
「元気でなー」
「あ、お前らが生きてるうちにまた会っちゃったらよろしくー」
 こうして愉快なアンデッド達に見送られ――
「やっぱあれアトラクションだったんじゃね?」
「……まぁ、これを鑑定してもらえば、わかることかと」
 首を傾げつつ霧に覆われた島を出発して、翌日にはまた幽霊船はしれっと消えていたらしい。
 なお持ち帰った宝飾品や酒は鑑定したところかなり古い品で(ちなみにシェリー酒は飲める状態だった)、依頼の成功報酬も合わせていい収入にはなったもののやはり思い出すたびに首を傾げる葵なのであった。

  • 【RotA】調査記録・海洋編~あるいは突撃!小島の幽霊船~完了
  • GM名旅情かなた
  • 種別SS
  • 納品日2024年03月29日
  • ・日向 葵(p3p000366
    日向 葵の関係者
    ※ おまけSS『ちょっとした余談』付き

おまけSS『ちょっとした余談』

●あの廊下の真相
葵「そういやゴースト、船に入ってすぐ遅れて来てたけど何してたんだ?」
霊路「……ああ、あれ、床が破れてましたけど……もしかしたら、船体と同じように守られていて、穴の上も普通に歩けるんじゃないかと思って……いろいろ、試してました」
葵「お、おう……どうだったんだそれ」
霊路「やっぱり、普通に穴に足は嵌まりそうでしたね……船そのものの維持とは、関係ないからかもしれません……」
葵「わざわざ足突っ込んで確かめたのか?」
霊路「爪先くらいは……完全に体重掛けたりは、してませんよ」
葵「そ、そうか……」

●待機中のアンデッド部屋
スケルトンA「やっぱアイツ生霊じゃね?」
ゴースト「あの存在感はこっちサイドの可能性……」
スケルトンB「でも生霊だったら肉体もどっかにあるんじゃ……」
スケルトンC「満足したらちゃんと肉体に戻れるかも!」
スケルトンA「どうする? スカウトしちゃう?」
船長「連れてくなら隣の男に一声かけろ」
皆「せ、船長!」

スケルトンA「あ、あの……そちらの方、もし生霊さんだったら一緒にこの船で無念が晴れるまで」
葵「いやコイツ生きてるッスからね! 順応してますけど!」
霊路「……順応は関係ないかと」

●魔力式ランプ
霊路「……あ、これ……魔力で動くランプですかね」
フルプレートさん「うむ、ワシらの力じゃ動かないんじゃがなー」
霊路「ええと……ここに、魔力を……」
フルプレートさん「おお! こりゃ明るい、なんせもう数十年はこの船真っ暗での」
霊路「いえ、いつまで保つかはわかりませんが……けれど、皆さんなら、暗視があるのでは……?」
フルプレートさん「それがスケルトンだと暗視が苦手な子もいてのー、日常生活はいいんじゃがカードゲームしてると色が見えんくてたまに困るらしいんじゃ」
霊路「な、なるほど……」

フルプレートさん「どうじゃ明るくなったろう!」
ゴースト「そなたの功績ではないでござろうに」
スケルトンA「しかし、このランプ付けれるってことはやっぱこっち側じゃないってことですかねぇ」
バンシー「アンデッドの魔力じゃ付かなかったものね、このランプ」
船長「そりゃ隣の男も断るわけだ」

葵「へぶしっ!! ……なんか今、全然怖くない感じにぞわっとしたような……」

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