PandoraPartyProject

SS詳細

グリッジ・オブ・ザ・ブルー

登場人物一覧

ロード(p3x000788)
ホシガリ

●OP、幕間、あるいは予兆、プロローグ
 固定された乱数テーブルによってあらわされる必然は計算可能な必然だと白斗は言う。
 疲れた顔で、いつもの白衣を着ている。ランドウェラは難しそうな話だな、と思って、口の中でこんぺいとうを転がしていた。寝てないの、と聞くとゆっくりと首を横に振り、「大丈夫です」と答えた。
(答えになってない。でもまあいいか)
 それは冷血さがおもてに現れたためではなく、白斗が大丈夫というからには大丈夫だろう、という信頼からくるものだった。怠惰かもしれない。ランドウェラは、あまり多く定義をもたない。白斗は、最近は特に気合いを入れて調査を進めているようだ。
 そもそも、R.O.Oという特殊環境がどこまでもつかという話になってきた。
「テーブルは固定されている。けれども、抽選すること、それ自体がとても困難なのです。藁の山から針を拾うようなもの。……なら、磁石とでもいうべきでしょうか」
 ランドウェラが頷くと、イヤリングが揺れる。
 外れたことはない、外すことはできないこのイヤリングは、何かを訴えているのだろうか?
 これはいったいなんだろう?
「……子守唄かな?」
「?」
 ふと、そんな言葉が口から出た……。

●「再会」シークエンス
「……降ってる」
 フィッツバルディ領、某所の森……「だった場所」はすっかり湖を通り越して海になりかけていた。
 しかし、これがバグの産物だと気が付く人間は少ないだろう。遠目から見れば、ただ広い湖である。マップ上の表示にも違和感はなく、もとからそうだったかのように振舞っている。
 ざわつくエフェクトと、存在しないはずの植生。急に上昇する「負荷」が、かすかに異常を訴えるのみだった。
 天候「雨」。
……白斗が言っていた。ここの天気予報には規則性がある。そして、それこそが今日である可能性が高いと予測した。
「……白斗が、ここにも、何人か近くまでやってくる人たちはいたそうですが、異変に遭遇する人はなかなかいなかった、って」
「心配するなって」
 ランドウェラ、いや、ロードには確信があった。
  lala layla layla...。
 さっきから子守唄のような歌声が頭を揺らす。……透き通った声だった。この声と、何か、した。なんだったかな……と思うと思い出せないのが不思議ではあるが、決していやなものではなかった。
(前にも聞いたような気がする?)
 これは、朝乃には……いや、「ほかのひと」には聞こえないようだった。
 呼んでいるのだ。
 ごくか細い、運命の細い道の、先へ先へ先へ……。
「バグってるって事は、いる、って事だろ?」
「……え?」
 バグ。
 ゆらり、背景でしかなかった魚たちがゆっくりと動き出していた。
「いつのまに……っ。よく、分かりますね!?」
「見ればね」
 ロードの視界には、それがわかる。命彩が。あれは赤い。なら、「敵」だ。その判断は即時に行われた。鋭い稲妻があたりに火花を散らした。
(これも使える)
 これは、あの世界のものだ。
 G01-0001-b『裏世界』。コピーされた不完全な権能は、混沌の技術によって蘇り……そして今、この場においては、ロードと共鳴し、かすかに「あるべき姿」をなぞりだす。
 朝乃は一瞬気をそらしたものの、すぐに武器を構え、敵に向き直った。まっすぐな太刀筋が魚をおろす。
 朝乃もまた、強くなっている。
 ロードは魚を串刺しにしながら、連れてきてよかった、と思った。もともと、ここの攻略には仲間が8人も必要だったのだ。一人では対応できないと思っていた。勘を取り戻した朝乃は強い。
 こいつらは強くはない。
(うん、調子が良い)
 ロードの白い刀はひらめき、泳ぐように人喰い人魚を真っ二つに切り裂いた。数式を追いかけて、ひとつひとつ、ほころんだメッシュにバッチを当てる。穴をふさいでもまた、どこからか漏れだすように敵が零れ落ちてくる。
「敵が、多いですね」
「待たせ過ぎて怒ってるかも?」

 波が去るように敵が少なくなった。くらい、昏い海底トンネル。黄昏のようにあたりはたゆたっている。敵を減らしながら二人は何とかそこに至った。
「水族館、みたいです」
「朝乃は――「紫の鏡」って知ってる?」
「え?」
「大人になる前に忘れちゃわなきゃいけないとか、逆に、覚えてなきゃいけないとか。とにかく、ある年齢になったら、死んでしまう運命の因子だって。……白斗はね、ずっとそれを研究してた」
「……」
 朝乃はそっと胸に手を当てた。ロードが口にしなくてもわかる。あれだけ兄が必死になって何かを探していたのは、自分のためだったのだ、と。
「そっか、そうなんですね……」
 つまりは死の運命を背負っていることになる。
 けれども、不思議と怖くはなかった。
「これは、もってた因子による運命のいたずらかも」
 因子はふたつ。
 ロードと、朝乃。朝乃の因子はランドウェラのようなものではなく、そして直接的なものではないが、こうしてロードをここに導くものだった。白斗の研究が、ロードをここに導いたのだ。
「休憩終わり」
 つかの間の静寂だったが、再び、敵が押し寄せている。
「色は、どうですか?」
「真っ赤だよ」
 けれど、……このための色だったのかもしれない。
 点々とともった『白い』明かりは、まるで誘蛾灯のようにロードを誘っていた。
 それは、道になっている。

 白斗があの日、言っていた。
「危険にさらされた子供は、急速に大人になります。大人にならざるを得ない。モラトリアムを享受できるのは、安全な環境で、安心できる場所にいられてこそ。現代の前において、子供でいられる日は短かった。なら……」
「朝乃の、猶予も短くなっているかもしれません」
「可能性なんだよね?」
「ええ、可能性にすぎない。そもそもが、全て妄想で、そんな因子なんてなかったとしたらどうでしょうか。……そう思いたい自分もいる。でも……」

 青、赤。

 信号が、
  点滅するように、教えてくれる。

 一度は死ぬ定め、生き物はすべて。人魚たちが歌うように嗤っているのがわかった。作り物の世界でも、別の世界でも、そこから逃れることはできない……。
『その子は、█いていき██』
「どうして?」
『その子たちの運命だから』
「いや」
「行って!」
 ロードは朝乃の、その声に従ったような気がしたけれど、本当は、ほんとうは、心を決めていたかもしれない。
 大きなそれは、海のすべてのような存在。
 触手を伸ばして、周りの魚たちを取り込み始める。
 大きなそれは、死を取り込んでいるのだ。
 死。
 因子を持たないものにとっては、避けようのない死。
(ああ、そうか)
 一つ思いついた。
 ここは、PvPエリアだ。今、ここで、そうしなさいということだ。一度死ねばいい。運命を断ち切ることができる。そのために自分はここまで来たのだと、ロードは思った。
 朝乃の中に、赤い糸が見える。
 その糸は死の運命だ。
(貫く)
 決断よりも、ロードの攻撃の方が早かった。稲妻が早かった。理屈を置き去りにして、その鋭利なひとつきは運命を断ち切った。
 これで、大丈夫。

 さかさまに雨が降っている。雨が天井に向かって降っている。ここは水の中だろうか?
 水が取り払われていくと、大きな塊が、残る。
『赤』はゆっくりと呼吸して青にも染まっていくのだった。
 大きな耳元のイヤリングが蒼色に揺れた。
「行ってきます」


  • グリッジ・オブ・ザ・ブルー完了
  • GM名布川
  • 種別SS
  • 納品日2024年03月02日
  • ・ロード(p3x000788
    ※ おまけSS『20YY.MM.DD HH.MM.SS.log』付き

おまけSS『20YY.MM.DD HH.MM.SS.log』

【!】不明なエラーが発生しました【異常存██認定】。
【!】無効なサーバーです。

->Enter:██████
->User:██
->ID:██████

[info]有効なサーバーであることを確認しました。

->管理者権限で続行。
->認証プロセスを開始……。

[info]正常に実行されました。
……処理を続行します。
この処理は正常です。
世界は、全て、正常です。

おかえりなさい。
約束を覚えていますか?

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