PandoraPartyProject

SS詳細

遅延行為にピリオド

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ランドウェラ=ロード=ロウスの関係者
→ イラスト
ランドウェラ=ロード=ロウスの関係者
→ イラスト

●終焉Update
「rare」。
「珍しい、滅多にない、特別な、素晴らしい、最高の、(空気が)希薄な」あるいは「肉などが生焼けの」という形容詞の意味を示す単語。
 バベルの塔で砕け散ったことば、混沌世界では正しくことばを指し示す。

 レアエネミーとは、すなわち珍しい敵である。

 武器、防具、素材。イベント。レアを追い求めてやまない人間は数多くいる。ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)の場合は逆だ。レアエネミーに好かれる。
 どうしようもなく、運命を引き寄せてしまうのだった。
 どうしてなのか?
 ランドウェラ自身にもわからない。イヤリングは決して外れなかった。

……もうすぐ終わりが近いらしい。
 外の世界のゴタゴタは、日々苛烈さを増している。
 世界は終わるのだろうか、はじまるのだろうか……。

 今いるのはどっちだったっけ?
 ランドウェラは静かに物思いにふけっていた。
 R.O.Oだ。
 ステータス画面がその証。『ホシガリ』ロード。そうだ、人らしくしないと、と目標を定める。
「ランドウェラさーん! あと少しです!」
 ランドウェラは六逸 朝乃と一緒に、今日も今日とて、レアエネミーを探していたのだ。
 晴れ渡った空は急激に曇り、パラパラと雨が降っている。頭上を横切るのは、大きなクジラ。ひげで空中にパーティクルに散ったプランクトンをこしとり、貪っている。そしてお腹には色鮮やかなホシ模様を蓄えていた。雨の日にだけ現れるクジラは、間違いようもなくレアエネミー。体力を示すゲージはあとわずか。
 赤、点滅、ピンチ。
 数式をなぞるようにして、ランドウェラはさいごの一撃を加える。
 ばらばらばらと、派手なエフェクトが飛び散った。
「やった、やりましたね!」
 朝乃は無邪気に喜んでいる。
 けれども今回のエネミーは、探している「それ」ではない。
(バグもない。それに、水槽じゃないからね)
 巨大なクジラのお腹の模様はキラキラと輝く星のようだった。クジラははじけとび、ざらざらと雨が降った。地面は濡れて色を濃くしていくのだった。
 あ、そうだ。白斗に報告しないとならないと、ランドウェラは端末を操作して記録する。備考。備考? うーん。
(おなかの模様がこんぺいとうに似ていた)
 朝乃の金色のヘアピンが揺れる。報告の向こう。六逸 白斗は話を聞き、深くため息をついた。
「どうしてこうも会えないんでしょうか?」
「乱数調整ってやつになるんじゃあないのかい?」
 こういう風にレアエネミーを出すんだろ? と、ランドウェラはキョトンとしている。人の好い白斗は疑いもせず、少しため息をついて、「そうですね」といった。
「苛立ってすみませんでした。お疲れさまでした」
「甘いもの食べなよ」
「琥珀糖、おすすめですっ!」
「おすすめだよ」
「白斗、ちゃんと食べてますか?」
「……。食べています。あなたたちは」
「あ、切るね」
「こら」

●深い理解
「レアエネミーの持つ未確認データ」のために、六逸 白斗はレアエネミーを追い求めている。
 R.O.Oでのランドウェラからの報告書を読み、解析しているが、こちらのほうの成果はなかなか上がらない。普通であればこのような頻度で「遭遇はできない」のであるからそれからすれば異常に良い数値といえる。
 そう思って、はやる気持ちを抑えていた。遭遇率は悪くはないのだ。いつかはきっと本命にたどり着くことができる。
 ランドウェラについて、よく知らなかったからともいえる。
 いや、まさか。
 しかし……。
 疑念が芽生えて、しばらくそのことについて考えていると、まさに「そう」なのではないかと思えてくるのだった。
 意を決して、ランドウェラを呼び出した。
「何の用だろう?」と不思議そうな顔をしているランドウェラに、白斗は話を切り出した。
「本命のとこ行ってないですよね?」
「あ、ばれた?」
 ランドウェラは悪びれもせず言った。
 思わず虚を突かれ、白斗は瞬いた。
 根拠はなかった。確率論だった。いくらでも「偶然」で済ませることができる、勘のようなものだった。
 ランドウェラのことが、一瞬、わからなくなる。悪い人物ではないと思いたいのは情だろうか、ランドウェラに対しての不理解だろうか。
……いや、違う。理由がある。
 白斗に理由があるように。朝乃に理由があるように。ランドウェラにも理由があるはずだ。
「なぜですか?」
「なぜ?」
 なぜ。
 ランドウェラは己の中で理由を探すように、目を閉じる。それから、小さな声で、しかしはっきりと告げた。
「……なんだかすごく怖いんだ」
 怖い?
 白斗はランドウェラの恐怖について、あまり考えたことがなかった。
 R.O.Oは本質的にゲームで、きっと、ランドウェラも楽しんでいるだろうと思っていた。あるとすれば「面倒くさいけど、寄り道しようかな」というものではないかと思っていたのだ。
 それも、きっと間違いではない。ランドウェラは楽しさを追い求めていて、そうでないものはすべて嫌だと思っている。
 白斗は額を押さえた。
 R.O.Oに携わる立場だったからか?
 R.O.Oは安全な場所ではないのに、感覚がマヒしていたのだろうか?
 いや。
 きょとんとしているランドウェラをみて、少し思考を整える。
 ランドウェラのことは、自分にはわからない。聞いてみなくてはわからない。
「何が、怖いですか?」
「見つけるのが怖くなったから」
 見つけるのが? 戦うのではなくて?
 思いがけない答えに、白斗はじっとランドウェラを見た。ランドウェラが見つめ返してくる。
「いつもなら、よしやるか! ってなるのに、今回はどこかぞわぞわして動く気にはなれなかった。それだけ」
 感覚的なものであるのだと、ランドウェラは語った。たったそれだけなんだ、と。すさまじく嫌なわけでも、つらいわけでもなく、ただ「しっくりこない」のだと……。
「もし、もしですが。仮に今すぐ行けと言われたらどうするんですか?」
「行くよ」
「行くのですか? それなら、いや……」
 お願いします、という言葉は白斗からは出てこなかった。ランドウェラは依頼を受けてくれる都合の良い人物ではない。大切な協力者で、それから、かけがえのない存在になっていた。行きたくなかったのは、ぞわぞわするのは。行けなかったのは理屈があるのだ。数式やパターンでは理解しがたい、きっと、何かそんなものが。
「それは、本当にしたいこと……なのでしょうか」
「え?」
 行けと言われたら行くのに。言われなかったら……わからないけれど。きちんと行くのに。それが正しいなら。そうしてほしいと白斗がいうのであれば。朝乃が喜んでくれるなら行くのに。ちょっといやだけど、甘いものでももらえればいい。それからどうすればいいか指示をもらえたらいい。
 すう、と気持ちの良い風が吹いたような感触があった。
 イヤリングが、かすかにふるえる。
 それじゃあ、行けと言われなかったらどうするんだろう?
 行かない。行かなかった。空っぽだ。だって行けと言われていないからだ。
 自分の意思がないことに、ランドウェラはようやく気がついた。わかりやすい指示の代わりに空白をもらって、そこに何が入るのか、当てはめるべきか少し考えたのだ。
 ぞわぞわは消えない。消えていない。でも、小さくなった。
 今なら。……今なら、そうしてもいい。自分の意志で。
「行くことにする」
「そう、ですか?」
 白斗はとても申し訳なさそうに視線をさまよわせる。暗に、自分の態度がランドウェラに選択を強制したのではないかと迷っているのだ。
 そんなことはない。ランドウェラは、今ならはっきり言える。
「ああ、そうだ。朝乃。彼女を借りても良いかい?」
「! それは……」
「白斗、問題ありません」
「朝乃」
 いつの間にか、部屋に入ってきた朝乃ははっきりと返事をする。
「わたしも行きたいと、思っていますから」
「ありがとう」
「必ず帰ってきてください、無事に」
「わかってる」
「わかるだけじゃダメなんです」
 ランドウェラは考える。約束は重すぎる。
 頑張る、ならどうだろう?
 努力目標。
「心配いりませんよ。とっても強くなりましたから」
 ああ、それと、これは役に立つかな、と、ランドウェラは差し出した。

[座標を取得しています]
[Error:送信先が見つかりません]

 いつも通りのログに、変化が訪れる。

[Info:]送信成功。

 終わりはすぐそばに近づいている。

●未知の世界と好奇心
 心と考えは、よく矛盾する。
 動かすと痛い右腕も、我慢すれば動いてくれるようになった。我慢して動かすと右腕は、痛い。いやなことだ。甘いものが食べたい。
 一生懸命考えても、やっぱり反対のことになる。思考を閉ざして、命令を待つ。甘いものがもらえたら頑張れるかも。……。
 目を開いてみた。
 指示をくれるものは、今はない。色がないと……。色彩はどこだろう……。
 レアエネミーのいる地点を示す座標は、現実世界と重なり合っているのがわかる。ぞわぞわとした予感が消えない。
 さて、この先には一体何が待っているんだろう……。ランドウェラは気を引き締める。
「僕は強くなれたのかな?」
「え?」
「怖くなったのに、強くなったのかな。どう思う?」
 ランドウェラは、くるりと振り返り朝乃を見た。長い髪が揺れる。
「そうですね……。『故に曰わく、 彼れを知りて己を知れば、百戦して殆うからず』 らしいですよ。あ。授業で習ったんですけど。えーと」
「……」
「相手を知れば、百回戦うのも怖くはないそうです。だから、知ることは、きっと、第一歩ですよ」
 好奇心というのはどうしてこうもキラキラしているんだろう。その先に行きたい、と思えるような未知の世界がある。

おまけSS『白斗と朝乃』

 ランドウェラが「準備をしてくるね」といって去っていく。
 二人取り残された兄妹のうち、白斗が長い溜息をつき、ぽそりとつぶやいた。
「朝乃は怖いと思ったことはありますか?」
「え? それは、ありますよ! ケーキバイキングの次の日の体重計とか……」
「そういう話ではないのですが」
「えへへ」
 朝乃はごまかすように笑った。白斗は追及しなかった。
「朝乃、星には寿命があるそうです」
「え? 何の話ですか?」
「それは、人からすれば途方もない、途方もない時間ではありますが、星には寿命があります。それがたまに怖い。なにもかもが滅びの運命を内包しているというのが、こわいです。R.O.Oだって永久ではない……。この世界は……とくに練達にいると。ぞわぞわしませんか?」
「すこし、ぞわぞわします」
「なぜだか、預かったイヤリングを見ると、そんなことばかり浮かぶんです。自分が情けなくて、怒りたくって。あの人があんなことを考えているだなんて、ちっとも知りませんでした。……でも、恐怖を共有してもらうことは、ちょっと、うれしいですね」
「白斗も、話してみたらどうですか?」
「伝わるでしょうか?」
「わからなくっても、」朝乃は続ける。「たぶん、そうだね、って言ってくれますよ」

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