PandoraPartyProject

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道なき道に月とオーロラを照らして

登場人物一覧

トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ
トール=アシェンプテルの関係者
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トール=アシェンプテルの関係者
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トール=アシェンプテルの関係者
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 いくつかの建造物の影同士に隠れるように、ひっそりとその邸宅は存在する。
 練達の一角であるのに、幻想風とも天義風とも似た作りの邸宅はかなり異質だった。
 中庭に設けられた東屋には円卓のような丸テーブルと5つの席が用意されていた。
 外が冬であることを感じさせない過ごしやすい気温が辺りに満ちている。
「改めまして、ようこそお越し下さいました。
 この地での会談を許してくださりありがとうございます」
 そう語るヘイエルダール=アシェンプテルはトールに自らを『兄』と自己紹介をした男だ。
 少なくとも外見上は穏やかな表情を崩さない彼がアシェンプテル三兄弟側の代表だろうか。
 それはただ年長だからといだけではあるまい。
 ベルシェロンはともかく、ヴィルヘルムは寡黙で自己主張をあまりする方ではないことはトールとて薄々分かってきていた。
「……そちらに害意がないのであれば、来ることも吝かではない」
 ルーナ=フローラルナが言えば3兄弟は短く頷いて見せる。
 トールはその様子を見ながら少しだけ胸を撫でおろす。
 あれは、今日というこの日に至るための準備段階の時の事だった。
 トールが自らの出生の秘密とルーナの想いを知ることができたのも同じ日の事だ。


「キミ達と話がしたいのです」
 トールの領地である銀の森の一角へと姿を見せたヘイエルダールが開口一番にそう言った。
 単身でやってきたという彼は、トールと同じ世界出身――つまるところの旅人だ。
 ヘイエルダールは空中神殿を経由してやってきたと語った。
 それは遂行者を利用して一度は敵対した彼らが敵意を持っていないことの証明にもなるだろうか。
 狙っていたのか偶然なのか、その日はルーナもAURORAのメンテに訪れていた。
「話、ですか」
「……この世界で初対面を果たせたことは一面に置いて幸運であると言えるでしょう。
 ――ルーナ女王。僕達はトールともう2度に渡り相対している。
 僕達とトールの関係も、既に伝わっている……貴女が『女王を辞めた』と告げた報告書は見ました。
 ……ならば、そろそろ彼に伝えるべきです」
 そう告げたヘイエルダールは、黙ったままのルーナの答えを待たずにここに来た目的を告げた。
「約束します。僕達はキミと女王へ手を出さない。
 それを信じることができないとおっしゃられればそれまでです。
 だから、日を改めて話をさせてください」
「……構わない」
「ルーナ様が良いのなら……僕も、構いません」
「ありがとうございます……では、場所は改めてお伝えします。
 今日はこれで失礼させていただきます」
 そう言って立ち去ったヘイエルダールを見送った後、ルーナはトールにその出生の秘密を語った。


「ルーナ様……」
 トールは真剣な瞳を同じ瞳をした少女に向ける。
「ルーナ様は、貴女は彼らの事をどう思っているんですか?」
 今日だけは『おかあさん』と呼んでほしい、そう頼まれたばかりだった。
 それでも、これに限っては、家族としての問いかけはしてはいけない――そう本能的に思った。
「……そうだな」
 目を伏せたルーナは言葉を選び取っているような雰囲気があった。
 単刀直入、世辞やおべっかを嫌う彼女には珍しい姿に、トールは密かに固唾をのむ。
「……いや。言葉を選ぶなど私らしくもないか」
 溜息を吐くまま彼女はふるふると頭を振って瞼を開きトールへと視線を交えた。
「少々、冷酷な言い方になるが、よその子だ。どうでもいいと、切り捨てることもできる。
 結果的にすべての国――女王が関わったが、キミ達のことを作る計画は私が最初に始めたものだ。
 そういう意味では4人とも、生まれる原因を作ったのは私といえるだろう。
 負い目を感じてないと言っては嘘になる」
 真っすぐに、ルーナが答えた。
 彼女は嘘を言わない――それだけはトールが自信をもって信じられることだった。
「さっきも言ったが、私はキミを自然体で育ててきたが、あの3人はそうではないだろう。
 その用途通り『文字通り殺し合わせるために』育てられたはずだ。
 彼らが何を与えられなかったのか、何を思ってこの世界で『再誕の救済者』を名乗ったのか、理解はできる」
 トールは続けて語るルーナに口を挟もうとは思わなかった。
「これもまた、随分と自分勝手な台詞だが……この世界にきて、洗脳魔法が解けたは良いことだ。
 彼らの行ないは一般に肯定できるものではないが、自らの感情と意志に従い行動していることは、良い傾向なのだろう」


 ――そして、日を改めて今日この日。
 トールとルーナは3兄弟に招かれたこの邸宅へと足を運んできていた。
「招いてくださり、ありがとうございます」
 トールは改めてそう謝意を述べれば、いよいよ会談の開始となった。
「……あの、僕からいいですか?」
 トールはコホンと一つ咳を吐いて声をあげる。
「えぇ、構いません」
「皆さんと僕が兄弟だというのは、ルーナ様からも教えていただいて理解しました。
 言いたくないことは多いと思います。でも……出来れば、少しで良いので教えて貰えませんか?」
「……それは」
 3人がお互いに顔を見合わせてやがてこくりと頷きあう。
 トールは少し気になっていることがあった。
 トールを含めたアシェンプテル兄弟は『再生雄型奴隷リジェネイド・メェル』なる互いを殺し合いさせるために創られた。
 トールと違って3人はそのことを知った上で崇拝服従なる洗脳魔法が施されていた――らしい。
 そうやって創られた人工生命体である割には3人は各々が方向性が違う成長を遂げている。
 それはそれぞれの女王たちの好みもあるのだろうが、一定以上には育った環境が違うからこそだろう。
「僕は……完璧主義を信条とする第一国の生まれです。
 洗脳もあって逆らう気もありませんでしたが、彼女の求めるものを察し続けてきました。
 彼女は僕にあらゆるものを叩きこみました。
 戦闘教育はもちろん、彼女の求める全て、あらゆる分野において正解し続けることを求められました。
 1度でも失敗をすれば、僕は最悪、その場で殺されていたでしょう」
 ヘイエルダールは胸元に手を置いて、そう答えて深く息を吐いた。
「俺は……自由を愛して飄々と我が道を歩む第三国の生まれだ。
 まぁ、崇拝服従を受けていて何が自由だって話ではあるんだけどな。
 そこは俺が人間だと思われてない証拠だろう。俺はずっと物として生きてきた。
 女王を、その取り巻き連中を愉しませるだけの見世物だな。
 色々とやらされたが、どれもこれも反吐が出る」
 燃えるような怒りを見せて、ベルシェロンは頭を掻いてみせる。
「……俺は言わぬが花を重んじ強かに生きる第四国の生まれだ。
 俺は何も求められなかった――いや、求めないことを求められたんだ。
 なるべく言葉に出さず感情を示さず、行動で示し続けることを求められた。
 全てにおいて彼女たちの求める事を察して動くことはヘイエルダールにも似ているが……俺とヘイエルダールのとこは別の意味で苦労しただろうな」
 ただでさえ目深に被った帽子をさらに深くかぶる仕草を見せたヴィルヘルムは彼には珍しく言葉を費やしてこたえてくれr。
「……そうだろうな。どちらが良いのかと問われてもどちらも良くはないだろう」
 黙するままに聞いていたルーナが頷いたのは、それぞれの女王を思い浮かべたからだろうか。
「……ありがとうございます、教えてくれて」
「……トール、次は貴方の番ですよ。
 貴方が何故女装などしていたのかも含めて教えていただけませんか?
 ……貴方は、僕達と違って彼女との仲もそう悪くはなさそうだ」
「僕は――」
 そう結んだヘイエルダールに頷くまま、トールは自らの境遇を語る。
「……キミも大変でしたね」
 その結び、3人がちらりとルーナを見やる。
「……そうかもしれません。皆さんはこれからどうするか決まっているんですか?
 僕は……終焉と戦います。この世界にきて、大切な人と出会いました。
 彼女に出会うために生まれてきた……そう思えてしまうぐらい、素敵な人に。
 だから、この世界に来れて良かったと思っています。
 ……彼女の幸せを守りたい、彼女の生まれたこの世界を守りたいんです」
 トールは3兄弟に視線を向けて言う。
 脳裏に浮かぶ金色の髪の女性に胸を張って好きだと言える人間でいるためにも。
「大切な人……トールがあの日に共に歩いていた彼女ですね?」
 ヘイエルダールの問いかけに頷けば、彼はちらりと弟たちを見やる。
「俺達にも出来るんだろうか」
 そう言ったのはベルシェロンだった。
「この世界が平和になったら、ゆっくりと探せばいいさ」
 そう応じるルーナへ、ヴィルヘルムが「……だな」と短く応じる声が聞こえた。
「……えぇ、そうですね」
 同じように応じるヘイエルダールが最後に頷いた。
「しかし……僕達のやりたいことですか」
 ヘイエルダールがそのまま目を閉じる。
「少し前までは僕たちと同じような境遇の子たちの理想郷を作る事でした。
 でも……今はもう分からないんです」
 そう語るヘイエルダールに、他の2人も同じようなものなのだろう。
「それなら……一緒に戦えませんか?」
「一緒に? それってどういう意味だ?」
 驚いた様子をみせたのはベルシェロンだった。
「この世界が滅んでしまったら、皆さんのその目的も果たせません。
 新しい目的を見つけることだって出来ません。
 だからまずは、終焉との戦いに協力してほしいんです。
 もしかしたらその最中に目的も見つかるかもしれませんよ!」
 トールが続ければ、また寡黙に戻っていたヴィルヘルムが少しだけ帽子に触れて目深に被りなおす。
「……言いたいことは、分かる」
 ヴィルヘルムが沈黙の後に短く応じる。
「……そうですね。終焉との戦い、それに協力するのは構いません。
 でも……僕達は、分からないのです」
「この世界にきて、俺達は自分の生い立ちが異質であることを痛感させられた。
 ……この世界で幸せに生きる人たちが妬ましい。どうして自分たちはあぁはならなかったのかという怒り。
 そういう気持ちが湧きあがってくる」
 ヘイエルダールに続け、ギュっと拳を握るベルシェロンが言う。
「それでも……何か思う所があるのだろう。そうでなければこんな会談など設けないはずだ」
 真摯に3人を見つめていたルーナが不意に口を開いた。
 小さく、3人が肯定の意を示す。
「シャルールさんとキミ達と一緒に戦ったあのシンデレラステージ。
 あの時、僕達は綺麗なものを見ました。
 あんなにも、美しく、手を取り合って戦うキミ達を見て、心が揺さぶられなかったと言えば嘘になります」
「……本当は俺達も解ってるんだ。この世界の女性に恨みを向けるのは間違っていることは」
 ヘイエルダールに続けたヴィルヘルムが短く続ける。
「あぁ、俺達が恨むべきはあの世界の女王どもだ。
 それが普通だったあの世界の歪みそのものだ。
 この世界にいる女性は何も関係ない。そんなことは分かってる」
「そうだな……元の世界での暮らしに比べたら今のキミ達は十分に満たされているといえる。
 今のキミ達は自分の意志で自由に生きている。ならば自分の思うままに生きた理由を探せばいい。
 ……キミ達が恨まれてもおかしくはない私が言うのもおかしいかもしれない。
 だから……その、なんだ。必要なら手助けくらいはしてもいい」
「ルーナ女王……いえ、ルーナさん。ありがとうございます」
 目を瞠るヘイエルダールが、笑みを作る。
「……僕達の女王も、貴女と同じように僕らを愛せていれば変わったのかもしれませんが――もう遅いですね」
 そう呟いたヘイエルダールの微笑みにはどこか諦観と自嘲を含んだ色があった。
「そもそも、僕達は各々の女王とも違う……きっと、僕達は各々の女王とも繋がりが無いのでしょう」
 ちらりとトールとルーナを見た彼の言葉に、ルーナは黙したままに語らない。
 それは残酷な選択だった。ルーナの性格上、嘘を吐くことはあまり好まない。
 それでも『繋がりがある』と嘘をついてやることぐらいは簡単だ。
 けれど、それは同時に『繋がりある我が子をああも愛さなかった』と彼らを傷つけることにしかならない。
 そして、黙したままであることは女王と繋がらないという肯定にしかならない。
「……すいません、湿っぽくなってしまいますね」
 自嘲した笑みを収めて、ヘイエルダールが短く謝罪を告げて。
「……あの」
 だからこそ、トールは自然と声に出していた。
「今はまだ、皆さんを『兄』と呼ぶことはできません……
 でも、世界が平和になったら家族として一緒に暮らしませんか?」
「トール……ありがとうございます」
 目を瞠ったヘイエルダールとベルシェロン、目元こそ見えないものの同じように息を呑んだ気のするヴィルヘルム。
 3人はほとんど同時に小さな笑みを口元に刻んでいた。
「……けど、ケジメってのはやっぱりつけなきゃだよな」
 不意にベルシェロンが呟いたのはそんな時だった。
「……けじめ、ですか。いったい何の」
 トールの問いかけに「自分たちがやってきたことだ」とヴィルヘルムが短く言う。
「そうでなくとも、やってきたことの責任を負わないわけにはいかないんだ」
「本当ならば、終焉との戦いを前にしたかったのですが、既に始まっている以上、そうも言ってはいられません」
 ヘイエルダールが目を伏せて短く言った。
「近く、キミへの……いえ、キミ達へのけじめをつけたいと思います。今日、会談をここにしてもらったのは本来はこれを言うためでした。
 ――近々、キミはもう一度ここに足を踏み入れることになるでしょう」
「ヘイエルダールさん……」
 瞼を開いて真っすぐにトールを見据えたヘイエルダールはそう告げた。
 他の2人も異論はないのか、黙ってヘイエルダールの言葉に頷いていた。
「また会いましょう、トール」
 穏やかに笑うヘイエルダールがそっと立ち上がる。
「……さて、良い時間になってしまいましたね。
 今日はここまでにしましょうか。ローレットの練達支部まで送りましょう」
 笑みをこぼすままにそう言ったヘイエルダールがトールに握手を求めてくる。
 固く交わした掌は、家族との暫しの別れを惜しむように力強く感じていた。

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