PandoraPartyProject

SS詳細

袖振り合うもナントヤラ

登場人物一覧

音呂木・ひよの(p3n000167)
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身

「よぉ、ひよの」
 ひらひらと手を振ったカイトに気付いたひよのは「こんにちは」と穏やかに微笑んで見せた。その笑顔は常に変わらぬ音呂木の巫女らしいものだった。
 一悶着があり、漸く落ち着いた頃合いに彼女は共存する神様と日々を謳歌しているらしい。ふと彼女が後方を見遣れば『あさひ』が佇んでいるのだろうか。
 その外見はひよののものを利用し、瓜二つなのだろうなどとカイトはぼんやりと考えて居た。
「忙しいか?」
「いいえ、それ程は。初詣の時期を超えてしまえば、日常が返ってくると言った風情ですし。
 カイトさんの方がお忙しいのではないのですか? これでも、情報通ですからローレットのことは存じ上げているのですよ」
 にこりと微笑むひよのにカイトは「まあ」と呟いてからおとがいを撫でた。確かにこの世界情勢だ。ローレットは大忙し、それ以上に世界各地に起きた変異対応で冒険者というだけで挙って忙しない日々に身を投じている状況でもある。
「そんな大忙しのカイトさんが私に会いに来て下さるとは思って居ませんでした」
「そうか? まあ、色々とあったし。聞きたいことがあったからな」
 そっと取り出したのはひよのが土産物として渡してくれた袋だった。中には石ころが三つほどは言って居たがその用途は分からなかった。
 カイトは余り触れない方が良いかと貰った者は貰ったままにして用意をして置いたのだ。
「ああ、それ……。持ってたんですね。石ころだからと簡単に棄てられるかなあなんて思ってましたけど」
「いや、希譚とかそういうの見てたら考えることもあるだろ、何か曰く付きだった場合棄てたらどんなことが起こるやら……」
 肩を竦めるカイトにひよのは「まあ、そういうものですよね」と頷いた。曰く付きで有った場合はこっぴどい目に遭いやすいだろう。
 ひよのは「それ、タムケノカミの道を塞いでいた道祖神みたいなものなのですよね」と告げた。曰く、炉端には時折そうしたものが転がっていることがあるらしい。名のある紙を思って道祖神として地蔵を作ったが良いが、風化して削れて石ころにでもなっただろうか。
 音呂木神社のタムケノカミは余所の神様には喧嘩を売ることはない。どちらかと言えば安全な道を指し示すことから『神様を避けて帰るならばタムケノカミの後を追いかけろ』とでも言うべきか――
 何にせよ、その道に落ちていることが問題だったのだろう。ひよのはそうしたものを取り除いて、安全圏を確保為たときにどうしようもないからと蔵の中に仕舞っておいたと言った。
「それはそれで、良いのか……」
「良いんですよ。そもそも、神社内は音呂木の神域です。まあ、つまり、音呂木の神よりも弱ければ管理下にあったということで。
 某かの意味を持たせて、石を有効活用して頂けるのかもしれませんよ。端に追い遣ったとしても道祖神の欠片のようなものですから、御守り程度には出来るのではないでしょうか」
「まあ……」
 そういうものなのだと言われたら納得するしかあるまいか。困った顔をしたカイトにひよのは「大事にして下さいね」と微笑んだ。
 社務所に向かって、念のために石を鑑定してやろうと告げるひよのが歩いて行く。他のものと取り替えてやっても構わないと笑う彼女に「他のものって全部曰く付きだろう?」とカイトは困った様子で眉を吊り上げた。
 例えば、人形なんかはどうかと言った。見栄えは現在悪いが外見さえ整えてやれば良いパートナーになるだろう。夜妖憑きの物品として扱ってやれば良いと言った。
 そうでなければ糸切り鋏なんかもオススメなのだとひよのは言った。舌をちょん切った事による曰く付きだと言うが、それ故に何でも斬る事が出来るとも称されるらしい。
「靴とかもありますよ。何処までも歩いて行けそうなものが。筆も良いですね、恨み辛みを書き示す、という意味で。
 まあ、そうしたものを自身で調教して武具として利用する事もあるみたいですよ。夜妖憑きの武器なんかは澄原先生達がよく使ってますしね」
「いや、でもここにあるものとはまあまあ違うだろ。調伏してなんとか使えるようになったって言うよりも其の儘を置いてあるからあとはお任せモードじゃねえか」
「ええ。まあ、怪異だって色々事情があるでしょうしね?」
「その事情を汲みたくはないんだが」
 カイトは好きな物を選んで欲しいと告げたひよのに嘆息した。三つの石ころは何かの神の欠片だとすれば、それはそれで有効利用は出来るのだろうか。
 そもそも、どうしてそれをお土産に選んだのか――と、そこまで考えてから「ひよのから見て、どういうイメージがあってのセレクトなのか聞いても良いか?」と問うた。
「そうですねえ。少し親近感があったんですよね。結界術というか。
 私自身は巫女ですし、そんなにも前線に飛び出すことはないのです。カイトさんは結界術の手伝いをして下さいましたし。
 まあ、言い方は悪いのですけれど……あなただって、誰かの代りだったでしょう?」
 ぴくりとカイトの指先が揺らめいた。じいと見詰めたひよのは「私も代りだったのですよ」とそう言った。
 確かに、そうなのだろう。彼女自身は『音呂木の神』の依代だ。つまりは、あさひと呼ばれたそれが本来はひよのをも覆い被すだけのものだっただろう。
 容れ物でしかない少女と、代替品のように模造された青年。どちらにも言えるのは本来の自己というのは儚いものであるということだ。
「……でも、ひよのはひよのだろう」
「カイトさんもカイトさんですよ」
 長い黒髪をふわりと揺らす彼女の前でカイトは何処か悩ましげな顔をして見せた。
「……何となくは分かったよ。親近感を抱いてくれてるってのは。まあ、それでも複雑な方の心境を抱くのは否めないか」
「これですんなり受け入れて『ズッ友だね』と言い出したらあまりの明るさに声を上げて手を叩きながら笑ったかも知れませんね」
「ひよのが?」
「ええ、ないものの喩えとも言います」
 にんまりと笑うひよのの笑顔はいつだって『薄い』のだ。まるで本音をひた隠しにし、誰にとっても気易い娘を気取っているのだ。
 それが内面に踏込ませない彼女の保身術だとすればそうした部分も妙な事に似通ってしまったのだろうか。
「……まあ、あまり似てても嬉しくはないところなんだろうが」
「勿論、それはそうですねえ。良い友人が出来たという事でここは一つ」
「そういう事を言う?」
「そういう事を言っちゃいますねえ」
「良い友人は笑顔で曰く付きの品を並べて持ってこないと思うが」
 社務所のテーブルに並べられている品々を眺めてから「しかも、選べとも言わないと思うが」と言った。
「イレギュラーズの事を蔵の中の厄介な品の廃品回収だと思ってるだろう」
「いいえ、ただ使える『モノ』は使わないと勿体ないので」
 いい性格をして居るとカイトはぽつりと呟いた。楽しげに笑った彼女の背後で何か気配が揺れている。どうやらあさひが『味見』をしたらしい。
 目の前の曰く付きの品から漂う怪異の気配は僅かに薄れてしまっただろうか。
 腹を空かせたように言霊を飲み食らう真性怪異(封印済み)は今日も今日とて持ち込まれる怪異を楽しみにして居たのだろう。
「次来るときは面白い『怪談』でも持ってくるよ」
「ええ、その方があさひも屹度喜びますよ。楽しみにして居ますね、ね?」
 くるりと振り向いたひよのの視線の向こう側で『赤い瞳』が笑っていた。

  • 袖振り合うもナントヤラ完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2024年02月09日
  • ・カイト(p3p007128
    ・音呂木・ひよの(p3n000167

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