SS詳細
ころころ金平糖
登場人物一覧
からころ、からころ、口の中で踊る金平糖。
ランドウェラだけが知っている、甘くてトゲトゲした小さな踊り子たち。
飛んで、跳ねて、溶けて消えるつぶつぶのお菓子。
金平糖は作り方がとっても難しい……なんてのは、ランドウェラは聞いたことがある程度。
核となる砂糖の粒に糖蜜をかけて、手で一生懸命かき混ぜて、数日かけて作るというのが金平糖の工程。
そんな沢山の日数をかけて作った金平糖が、口の中で一瞬にして消える。ちょっとした背徳感があるかもしれない。
今日は、そんなあまーい金平糖を見せびらかしてみる日。
●
今日も金平糖を食べながら、ぷらぷら、街の中を歩いていく。
口の中に絶えず金平糖を入れているものだから、子供達が気になってランドウェラに問いかけた。
「ねーねー、お兄ちゃん何食べてるのー?」
「おかしー?」
「こんぺいとう~」
んべ、と下に乗せた金平糖を見せびらかして、子供達にアピールするランドウェラ。
白色の大粒な、まだ形の残っている金平糖は子供達から見てもきらきらな宝石にも見えたようだ。
「おいしいそー!」
「食べる? まだいっぱいあるよー」
「ちょーだいちょーだい! あかいの!」
「ぼく、きいろいの!」
「んー、味に差はないんだけどなあ」
はい、と子供達に様々な色の金平糖を渡していくと、彼らはすぐさま口の中に放り込む。
コロコロと舌の上で転がす者もいれば、ガリ、ガリッと一気に噛み砕く者もいる。
金平糖の食べ方に正しいものなどない。ただ、甘い味を堪能できればそれでいいのだ。
でも、噛み砕かれるとちょっぴりもったいないなと思うのは何故だろう。
凄い製法で作られているのに、一瞬でなくなるから?
あのトゲトゲした食感を楽しんでほしいから?
じんわり広がる、ひやりとした甘さを楽しんでほしいから?
……ランドウェラには良くわからない。
眼前の子供達と似通った『子供』だからか。
11年の歳月で手に入れた知識から導き出せないからか。
……ランドウェラには、良く、わからない。
「もうないのー?」
1人の子供に声をかけられて、ハッとなったランドウェラ。
僕のはまだ舌に乗ってるもんねともう一度アピールした上で、ポケットの中の金平糖の数を数える。
まだ十分に残っているが、子供達にまたあげたら無くなっちゃうような気がした。
「うーん、僕の分なくなるからなあ」
「じゃあわたしの飴と交換!」
「あっ、ずるい! 僕もお菓子と交換!」
きゃっきゃと騒いで、ランドウェラと物々交換で金平糖を手に入れようと画策する子供達。
ランドウェラの好みのお菓子を聞き出して、とびっきりあまーいお菓子と金平糖を交換した。
近所の子供達を金平糖で染め上げてやったぜ……なんてランドウェラがちょっぴりドヤ顔するのは、後に誰かに語られることになるが、それはまたいつかのお話。
おまけSS『交換後の話』
「ふふん」
近所の子供達との物々交換で手に入れたお菓子を前に、鼻高々なランドウェラ。
金平糖以外のあまーいお菓子を手に入れたことで嬉しそう。
たまにはこうして違う甘いものを接種するのも悪くない、なんて考えながら口に運び入れる。
「……んむー……?」
――なんか、違うな。
頭の上に浮かんだのは、その一言。
金平糖を食べ慣れた舌は子供達と交換したお菓子では甘さに満足がいっていない様子。
けれどそんなランドウェラの舌を唸らせたのは、金平糖に次ぐ甘さを持ったお菓子。
その名も琥珀糖。
人が食ったら死ぬんじゃねぇかというレベルの砂糖を入れた水を寒天で固め、風にさらして作るこれまた時間のかかるお菓子だ。
「うーん、やっぱりこのぐらいの甘さが一番」
金平糖とは違った食感のお菓子に満足した様子のランドウェラ。
今日の交換会もなかなか悪くなかったと、また金平糖を口に入れる。