ＳＳ詳細
僕から見たバクルドのこと
登場人物一覧
- バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
●まずは
――こっちだよ。
手招く雨泽が案内するのは、ラサのサンドバザール。
その中でも食べ物の屋台がひしめき合うように軒を連ねる通りは、スパイシーな香辛料が香ったかと思えば、胸にどっしりと来るほどの蜂蜜のような甘い香りも漂っている。ラサという商人が多い場所故か、観光客が食べ歩きが出来るようにか、屋台で扱われている商品は片手で口にできる物が多いように思え、周囲を見渡しながらバクルド・アルティア・ホルスウィング（p3p001219）はほうと口端を上げながら顎を撫でた。
「僕は映える食べ物がどちらかと言うと好きではあるけど、君とだったらこういうところの方がいいかなって」
適当に色々買って食べようよ。ちゃんと腰を落ち着けて食べるスペースもあるからさ。
日除けの垂れ幕に簡易テーブルと椅子。それらがある場所を指差し、「ね？」と雨泽が笑った。
●君のこと
結構いっぱいになっちゃったね。でもラサの料理って香辛料の香りに誘われてついあれもこれも食べたくなっちゃうんだよね。これくらいなら余裕で食べ切れそう？ そう、よかった。……えっと、そうだ。君の評価を聞きたいんだっけ？ まあ、『僕個人が思うこと』を前提に聞いてね。
まず、君のこと。バクルドはさ、練達風に言うところの『ちょいワルおやじ』って感じがするよね。アウトロー的というか。僕はそういうの結構好きだよ。僕自身がなれるかって言うと解らないところなのだけれど、ワイルドでかっこいいなって思ってる。これは同性だからこそ抱ける感覚の方の『かっこいい』、ね。
例えばさ、君のアルバムにある写真の『五年目の放浪』。これはバクルドにしか出せない味だと思う。放浪に慣れていて、釣りをしてその日の糧を得て……多く釣って近くに売れる場所があれば日銭にもなる。それらをすることに慣れているからこそ酒を片手にその日暮らしも楽しめるし、余裕を醸し出せている感じがするんだ。
あとこれは全然関係ないんだけど、
●君の強み
僕が君のいいなって思うところは、色んな方面への動きやすさかな。
戦闘面では縁の下の力持ち感がするけれど、【必殺】でしっかりとどめを刺すのも忘れない。回避が高いから一対一の……特に手数は出せないけど高火力！ な相手が得意なのかなって感じているよ。ほら、あの、眼鏡をかけた一見理知的な亜竜種の彼。『飛龍』、だっけ。彼ともすごいやり合ったんでしょ？ ペイトの師範代の――そうそう、飛んでるちびっ子の『天籟』。彼から聞いたんだよね。純粋な力に傾倒した戦い方の飛龍と三日三晩戦ったとか。程よく回避が出来て、【封殺】したり出来る君だからこそ戦い続けられたんじゃないかって感心していたよ。
放浪しているからかな。ひとりで色々こなすことに向いているよね、バクルドって。ほどほどにBSを受けないし、運もあるし……すごくバランスが良いからひとりで成り立っちゃうんだよね。勿論強敵相手は難しいんだけれど、『いつつぼし島』で狩りもしたんでしょ？ ああいうのにもすごく向いているところも君の強みだと思う。
そんな訳だから、探索方面にも君は強いよね。これまでの旅……えっと、君の言うところの『放浪』で積んできた経験。サバイバル知識を活かして色んなことが出来る。今さっきあげた狩りもだけれど、狩った獲物の解体から――あ、保存の知識があるのがすごく強い。その場や数日分なら～って人は居るだろうけれど、日持ちするように出来る人はイレギュラーズでもなかなか居ないんじゃないかな？ 僕はそういう人にあまり会った記憶がないから、特にそう思うよ。随分と前だけど……キノコへの知識もすごかったもんね。
――どこでもやれて、どこでも生き抜いていける。それが君の強みだろう。
●君の弱み
うーん、弱み。弱みって良いところの別の見え方で、地続きだと僕は思う。
バクルドのちょいワルなところ、僕はいいなって思うけど、そういうのが苦手な人も多いんだよね。小さい子とか怖がることが多い。君が優しい……え、そう言っちゃ駄目？ いやでも言わせてもらうよ。僕は君は優しい部類だと思ってるんだから。――君が優しい態度を取っても、第一印象が悪かったり、上手く伝わらない場面も多いかなって思う。まぁわざとそう取れるようにやってそうだなぁって思ってもいるのだけどね。悪いお手本をしてくれて、離れるようにしてくれてるって言うか。だからまあ、そういう相手との付き合いは苦手だろうなって感じるかな。
後はそうだな……あっ、物をよく壊すんだって？ 旅をする上ではそれはちょっと欠点じゃないかなって思ったよ。物資が限られることが多くて、そんな中で壊れてしまったら困るんじゃない？ ……まあ君なら何か上手く代用するのかもしれないけど。でも何もかもが代用できるって訳ではないからね。折角良い腕をしてるのだから、物をもう少し大事に扱うといいんじゃないかな。僕の故郷では物には神様が宿っているって言われているんだ。……実際にそこから生まれるヒトもいるしね。だから物は大事にって考えを小さい頃から教わってきているから、特にそう思うのかも。
●君の食事
バクルドは食事は何が好き？ え、「塩味があって食いでがあって、お腹が膨れるもの。出来れば温かい方が良くて放浪にピッタリなもの」？ それって何……いや、普通に町に居る時の……あ、「屋台飯」？ ああ、それじゃあ今日は此処を選んで正解だったね。因みに今日の屋台飯だと何が好き？ そのお肉？ 香辛料がピリリとしていて美味しいよね。お酒にすごく合う。お酒追加しようか。辛口のでいい？
味が濃いのって美味しいよね。僕も薄味よりは断然濃いものが好き。お酒に合う？ わかるー。僕もお酒は大好きだからお酒のつまみになりそうな食べ物が好きだな。あ、それはそれとして映えるスイーツとかも好きだけどね、ひとりの夕食とかならお酒のつまみになりそうなものばかり食べちゃうな。不摂生かもしれないけど、でも好きな食べ物を食べて生きたいよね。
放浪中は何を食べているの？ ……あー、干し肉とか、あと狩ったり？ 缶詰とかも。……あっ、そうだ。今度さ、缶詰専門店に一緒に行かない？ 練達にあるのだけど、普通のショップとバーみたいになっていて食事も出来るんだ。「缶詰なのにバー？」やっぱりそう思う？ でも面白いでしょ。お酒と缶詰が出てくるらしいんだ。魚のオイル漬けだったり、味付けした肉だったり、あとオリーブや桃やミカンとかの果物とか……乾燥したパンとかもあるのかな？ ……でね、気に入った缶詰があったらショップで買って帰れるんだ。
缶詰意外でも練達のショップが便利だよ。レトルトパウチってやつで水を入れて置いておくと乾燥した物が戻って食べれるーとかあるんだって。僕は食べたこと無いけど評判はいいし、缶詰よりも荷物が軽くなりそうだよね。もし見に行くなら付き合うよ。
●君の行動
好きな行動は……ああ、放浪。そういえば放浪って旅とは何か違うの？ 似たようなもの？
……あ、わかった。旅は終わりがあって、帰るべき場所があるのかもしれないね。放浪は終着点がないのかも。風の吹くまま気の向くままに各地を彷徨うのが放浪、なのかもね。
そう考えると、ローレットに所属する前の僕も君と同じ『放浪者』だったかも。豊穣から出られない間は豊穣内の各地をウロウロしていたし、開国してからは世界をウロウロしていたよ。さっきも言ったけどさ、少しの間君と旅をしてみるのは楽しそう。
●余談
そういえば君、養子……なのかな。保護した子がいるんだよね？ プーレルジールで作ったクッキーは渡せた？ ……そう、よかった。ジュゼッペの工房の
君の養子――『トルハ』だっけ。放浪とか依頼の後は彼女の元へ帰るの？ 普段は連れ歩いて、依頼の時は預ける……そうなんだ。ああ、亜竜種の子なら君が連れ歩いても大丈夫そうかな。ミーリアに色々と教えられたのは、君が父親としての面も持っているのかなって思ったんだけど……結構面倒見がいいよね、君。からかっているわけじゃないよ。いいことだと思ってるんだ。それに、彼女が君の傍に居ることによって変わることも多いと思うから、そういうのもいいことなんじゃないかな。ひとりきりの放浪は気楽だけど、守るべき相手が居て、気にかける相手が居る。真っ黒の夜空の下で炎と星だけが友達の夜だけじゃなくて、揺れる炎の向こうに大切な家族が居る。そういうの、いいことだと思う。ふふ、君が良いお父さんをしている姿も見たくなってきちゃったな。
●おしまい
「僕が君に思うところはそんな感じかなぁ」
木のコップに入っていた酒が空っぽになりおかわりはどうかと尋ねると、首を振られた。
「いや、もう充分だ」
「それじゃぁ今日はここまでにしようか」
結構買ったほうだけれど、あれやこれやと買った屋台飯はふたりの前に既に無い。「そうするか」と席を立ったバクルドの足は縺れることもなく、酒も強い方なのかなと雨泽は思った。
「因みにだが、子供への土産に良さそうな屋台は知っているか？」
ああそれならねと笑った雨泽がバナナの包み焼きの店へと案内すべく、ふたりはまた人の波の中へと流れていった。
