SS詳細
何処ぞの涯から、誰そ彼に向けて
登場人物一覧
●きっかけ
R.O.O、その待機ロビーにて。
今日はレアエネミーを探してみよう、と褐色の少年――ロードは思い立った。ゲームを遊びに来ているのだし、毎日クエストばかりでは味気ない。
であれば、ちょっと趣向を変えたって問題はない。今日はエネミー図鑑を埋める日にしよう。
と、そんなわけで草原フィールドに出ていった。意気揚々とエネミーを探して一時間と少し。ランダムポップも少しだけパターンが掴めてきた頃合い。
「……全然出てこないな。もしかするとなにか条件があったりするのかな」
しかし手掛かりは特に無い。どうしたものか。もう少し歩き回ってみるとしても、損は…………。そこまで考えたところで、ふと顔を上げる。そういえば、と思い出すことがあったからだ。
このフィールドのどこかに、隠されたテレポート装置があるとかなんとか。そしてその先には、見る人によって景色が変わるフィールドがあるという。他のプレイヤーの世間話伝いの、根も葉もない噂を。
「いやでも、噂は噂だからなあ」
刀を支点にくるくると回るついでに、思考も回らせる。単なる噂だったとしても、このゲームの成り立ちからして一笑に付すことはしがたい。あったらラッキー、くらいのものかも。
そんな折、ぽよんというSEが近くで鳴る。確か近くでテレポート装置がオンになった時に鳴るものだったはず。
この近くにそんな装置はあっただろうか? 首を傾げるものの、音の鳴った方向へ歩いてみるとすぐにわかった。丈の長い草に、平べったい円形の装置が紛れていたのだ。装置のテレポート先は「???」表記になっていて、少し興味を惹かれる。
通常こういった装置は待機ロビーや判明済みの別フィールドにテレポートするものになっているのに、今回はそれとは一目でわからない。そこが印象に残る。
「ちょっと気になる。……入ってみようか」
もしかすると、探しているエネミーがいるかもしれないし。そんな風に皮算用するものの、不安感はなくもない。
ふわふわと浮きながらテレポート装置が描く円の内部に入り、テレポート機能をオンにする。
数秒の後に、視界が白く染まり――。
●その場所
白い光が収まると、真っ先に視界に映ったのは大きな鳥居だった。赤く塗られたその鳥居は、色が剥げているようには見えない。そして周囲でからからと回る黒い風車が、どことなく不気味に見えて……それに惹かれてか、この場所ならレアエネミーもいるかもしれない――ロードはそう思った。
そうして鳥居のむこうへと踏み込んでみると同時に、景色が変わる。……するとそこは、先程の和風とはとても異なる風景。神聖さすら伴うような、年月を経た焦げ茶色の巨木の目の前に立っていた。
いよいよ頭上で?マークが浮かび始めるものの、神聖さの余韻に浸る間もなくまたもや景色が切り替わる。気付けば次は、夕日が照り付ける砂漠のど真ん中に放り出されていた。
「なんだ、これ……?」
ぽかんと口を開けながら、橙色の空を見上げる。少なくともロードには、このような景色に心当たりはない。R.O.Oの実装済みフィールドにも覚えはない。
全くもって奇妙な場所だが、同時に少しだけ面白さを感じてもいることにふと気が付く。ちょっとした冒険気分と言い換えてもいいだろう。思わず口角が上がる。
そうした自分に気が付いたところで、また景色が変わる。
お次はなんだと身構えてみれば、海の上に立っていた。……のも一瞬の間。足をつければ沈むかも、とびっくりしたせいで、急遽刀の鞘の上に座る。むしろ浮いている方が安心感がある。
頭上で鴎がががあがあとやかましいが、よくよく目を凝らしてみればただの背景らしい。ちょっとがっかりしながら、これはちょっと拍子抜けか――と思ったところで、鼻先に雪が落ちる。
脈絡もなくまた景色が切り替わっていることに気が付いた。次はどうやら雪の降る荒野らしい。戦車だろうか、大きな車両の行軍の跡が見える。
景色が切り替わる。無機質な灰色の街並みに、蛍光色のネオンが眩しい。人影が行き交っているものの、それらすべては黒く塗りつぶされて見えた。……けれどエネミーでもないようだ。この場所にはレアエネミーはいないのだろうか。
景色が切り替わる。――見覚えのある赤茶色の煉瓦の建物のようで、どこか寒々しい気配がする。お目当てのエネミーもいなかったのだし、と。意を決してその扉を開けてみると――。
AIが喋るような、平坦な音声が鳴る。
「險俶?蠕ゥ蜈?す繝溘Η繝ャ繝シ繧キ繝ァ繝ウ繧堤オゆコ?@縺セ縺吶?ゅ♀逍イ繧梧ァ倥〒縺励◆」
ロードには、その意味が分かるだろう。その上で首を捻る。もしかして無駄足踏んだかな、と。
どうしてこんなエリアが紛れ込んでいたのかは……そういうバグだったのか、それとも。
まあ、楽しかったし。いいかな? バグ報告を一応送りながら、その日の彼はログアウトした。