PandoraPartyProject

SS詳細

彼女達の過去・今・未来

登場人物一覧

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

■静かな工房の賑やかな一日
「おう、久しぶりだなアンタ達」
 ここは異世界の高度な技術を再現しようとする、混沌世界で見れば酔狂な人物達の集まる国、練達。
 その中において、少しばかり浮いた格好の工房。あまり人は寄り付かないのか、それとも家主が無精なのか。草むらに囲まれた静かな工房に。二人の少女が足を運び、家主は珍しく親しげに話しかけた。
 家主の名は時塚・揚羽。練達の大部分に同じく、彼女も旅人である。そして生まれ持った力を使い、人形師として生計を立てている。
 普段は貴族や好事家に高値で売りつけている、彼女の作品たる人形たち。しかし、その本当の価値を引き出すに値する人物には、格安で譲り渡すという。とある世界のとある国における、『職人気質』というものらしい。
 そして今回彼女の下を訪れた二人は、そんな彼女と、彼女の作品に気に入られた者達。
「はい、お久しぶりです」
 『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)がふんわりと笑うと、その背後から小さな少女型人形が揚羽を見上げる。
 赤毛のツインテールはこじまさん。時折ブラックジョークが飛び出るが、身の回りの世話をしてくれる。
 青髪のおさげはすずきさん。時折役に立つのか立たないのかわからない薀蓄が飛び出してくる。
 二人とも、玉緒の大切な友人にして家族である。
「今日もまた、メンテナンスお願いします」
 もうひとり、『いつもいっしょ』藤野 蛍(p3p003861)も頭を下げる。ツインテールにした髪がぴょこぴょこ跳ね、揚羽は堅苦しいのは抜きでいいよと笑う。
 蛍の足元から顔を見せるのは3人の人形達。
「あんた達も久しぶりだね」
 揚羽が人形達にも笑いかける。こくこく頷き返す人形達。
 金髪のロングヘアーはゆりかさん。一生懸命に世話してくれるがたまに無茶をしすぎるのが玉に瑕。
 茶髪のツインテールがまひろさん。気が利くお手伝いさんだが、時々先走りすぎて失敗することも。
 黒髪のショートヘアがひいろさん。がんばり屋で何でもやろうとしてくれるが、行き過ぎてしまう事もたまには。
 だけれども。三人とも、蛍の大切な友人で、もう一つの家族である。
「うん、見たところ皆元気そうだけど、一応きちんと見ておこうか」
「お願いします。あ、揚羽さんもお茶飲みますよね」
「お土産に良さそうなお饅頭見つけてきたんです」
「そいつは楽しみだ。お願いするよ」
 カラカラ笑いながら、5人の人形たちと共に工房の奥へ引っ込む揚羽。彼女の背中を見送ってから、蛍と玉緒の二人は工房の厨房を借りてお茶を用意しようと……。
 したのだが。揚羽の性格的に整理整頓が苦手なのか。少々とっ散らかっている厨房を片付ける事から始めた二人である。揚羽にも相棒たる人形はいるはずなのに……。ここへ来る度に生まれる疑問であるが、直接は言わない事にしていた蛍と。純粋に誰かの役に立つのが嬉しい玉緒であった。

■二人と五人
「それじゃまずアンタから」
 人形たちを一列に整列させ、机にちょこんと座らせた揚羽は。まず左端に座った黒髪ショートのひいろさんに目を向ける。すると、ひいろさんは立ち上がり、両手をあげてバンザイの格好をとって揚羽の前に。
「いいよ今日は脱がなくて。そんな酷いところには言ってないんだろ?」
 服が汚れてないのは元より、手や足、顔に傷はないことから大切にされているのはよくわかる。好ましいと揚羽は思う。
 しかし……。
「ちょっと髪の毛が荒れてるね。ちゃんと手入れしないと駄目だろ?」
 と、指先でちょん、とひいろさんの額をつつく。きっと、この子の性格的に……。
「あ、やっぱりわかります?」
 厨房で洗い物をしていた蛍が、少し大きめな声を出して揚羽の声に答える。
「そりゃそうだ。この子の親はオレだぜ?」
 少し乱暴気味に。でも愛情は込めながらひいろさんの髪を直す揚羽。その作業を見ながら蛍は語る。
 いつも精一杯、どんな事でも真面目にやってくれるからお願いしてしまうけども。時々無茶して怪我しそうになってたり、難しい事でも頑張ってこなそうとしてくれるけども。
 ついつい甘えてしまうのは、悪い癖です、と。反省するように蛍は笑う。そして、そのがんばりやなところは、見習わなきゃ、とも。
「ほら、主人はこう言ってるんだから、ちょっとは肩の力抜きなよ?」
 渋々といった感じでこくんと頷くひいろさん。髪を直してもらい、他の人形たちの後ろへと回る。

「お次は……アンタかい?」
 揚羽の目の前でぴょんぴょん跳ねているのはすずきさん。玉緒のお手伝いをしている人形だ。じー、とその体を見つめ、一言。
「……外傷とかはないみたいだけど……アンタ、ちょっと喋りすぎじゃない?口、開けてみな?」
 一瞬バツが悪そうな表情をしたすずきさんだが、観念したかのように口を開ける。揚羽はその中を見て……。
「やっぱり、口の中のネジが一個外れちまってるね」
「あ、道理で最近妙に静かだな……って」
 玉緒が思い返す。いつもなら場に合わせた薀蓄を語って、場を笑わせたり素直に感心させたりするすずきさんが。ここ数日は妙に静かだった、と。その原因が、喋りすぎによるネジの紛失だというのだから自業自得というものだろう。
 「もー。調子悪いなら悪いってもっと早く言ってよね……」
 工房の掃除をしていた玉緒がつい。いつも自宅でするような、妹に対する姉のような振る舞いをしてしまった。あ、と気づいた時には。揚羽も蛍も目を丸くして彼女の事を見つめていた。
「あ、あ、……今のは忘れて、忘れて下さいぃ……」
 いつもは控えめで物静かな彼女の、意外な一面を見たと揚羽は笑う。蛍は、恥ずかしがる彼女がより一層、愛しく思え。軽く抱きしめ髪を撫でる。大丈夫だよ、私は知っているし、と加えて。

「はい、終わり。次は誰だい?」
 ちょっと顎を痛そうに撫でているすずきさんが元の位置に戻り、次に歩み出てきたのは茶髪のまひろさん。うん?とこの時点で揚羽は首を傾げる。いつもなら真っ先に動くこの子が三番目?
「ちょっと、足見せてみな?」
 言われるままに足を投げ出し、靴を脱ぐまひろさん。よくよく見ると、関節部分が歪んでしまっている。相当無理しないとこんな風にはならないはずなのに。揚羽は自慢ではあるが自分の人形の完成度には自信がある。
 黙って足を触診する揚羽の背中越しに、蛍がまひろさんの足をみやり。そして声に出す。
「ああ、やっぱり。今日この子、ここへ来る途中で先頭歩いてたらコケちゃったんですよ。その時から少し歩き方おかしいなって思ってたんですけど、無理してたんですね」
「あー、なるほど」
 その気の早さが。皆を先導する時はプラスに働く事が多いまひろさんだけども、おっちょこちょいなところもある。けどそういうところは人間っぽくて可愛いと、蛍は思っているのだが。
 よく気が利くのはいいところだけど、注意散漫になりがちなのは悪いところだねぇ、と諭して。
「しょうがないね。ちょっと待ってな、もうちょい頑丈な素材で作った足パーツがあったから、交換してやるよ」
 お手数おかけします、と蛍が頭を下げ。まひろさんも釣られて頭を下げる。
「いいからいいから、先に茶飲んどきな」

「ふぅ、おまたせ。次はアンタでいいのかい?」
少し長い作業を終わらせ、茶を一口飲んだ揚羽は次の人形に目を向ける。赤毛のツインテール、こじまさんがやっとかとばかりに頬を膨らませ両手を腰に当てて不服を伝える。
 少し高飛車に見えるところがあるのは、黒いジョークが飛び出す性格故か。玉緒がいつもは良い子なんですよ、とフォローを思わず入れる。きちんと身の回りの世話は嫌がらずにやってくれるのだから。
「悪かったって。ほら、どこかおかしいところはないかい?」
 と、こじまさんの体に触っていく揚羽。見たところ何も異常なさそうだな、と終わらせようとして。こじまさんが安堵の表情を浮かべたのを見逃さなかった。
「アンタ、何か隠してないかい?」
「こじまさん……?」
 揚羽と玉緒の二人に詰め寄られ、暫くはそっぽ向いて知らぬ存ぜぬを貫いていたこじまさんだが……。暫くして根負けしたのか、服を捲りお腹を見せた。
 そこには見慣れない穴が一つ。いつの間にこんな穴が、と玉緒が声にならない叫びをあげそうになる。なんとかそれは飲み込んで、揚羽に修理をお願いし。
「やれやれ。どうも皆、自分より主人を優先しすぎるきらいがあるねぇ」
 どこか楽しそうにそうぼやく。それだけ彼女ら二人は人形たちに気に入られ、そして人形たちは彼女らに仕える事に幸せを感じているのだな、と。
 しかし当の二人からすれば。家族同然の存在に怪我や不調を隠してまで仕えられるのは少し、気まずい。
 妙な沈黙が二人の間を流れていた。

「はい終わり。最後はアンタだね」
 と、5人目の人形。ゆりかさんが他の人形たちに待っててねと合図してから揚羽の前に歩み出る。その責任感の強さから、人形たちのまとめ役みたいな感じになっているのだ。
「……アンタは肩かい?ほんと皆、どこかしら調子悪くしてるんだね」
 自分から肩が悪い、と申し出たゆりかさんにため息と苦笑が溢れる揚羽。もちろん、玉緒も蛍も、人形たちに無理させているつもりはない。
 ただ人形たちが。二人の事を好きだから。二人を支えたいからと頑張りすぎてしまうのだ、自らの能力を超えてまで。
 このゆりかさんにしたってそうだ。人形たちをまとめ上げ、その上で蛍の世話をして頼まれ事も全部こなして、と。責任感の強さは良い事なのだが、少々やりすぎなところはある。
「す、すいません。……常日頃から、無理なことは無理って言ってねってちゃんと言ってるんですけど……」
 蛍が申し訳無さそうに謝る。そんな彼女に揚羽は謝る必要はないよ、と笑う。
 こんなに人形たちに不調が出るのは、皆の関係がうまくいってる証拠だよ、と。
 でも同時に、もっといい関係になれるんだから。そこは皆で頑張りな、とも発破をかけて。
 肩に油を刺してもらい、調子を治して貰いながらゆりかさんは深く深く、頷いた。

■皆のこれから
 全員分のメンテナンスが終わり、一仕事終えたとばかりに首を回し肩を回す揚羽。
 と、人形たちがお礼とばかりに揚羽の周りに集まり。肩や腕や足の筋肉を揉んでほぐし始めた。
「はは、お礼のつもりかい?アンタ達の主人からきちんと礼は貰うんだから、気にしなくたっていいのにね」
「それはそうですけど……でも、この子達の気持ちですし、受け取ってください」
 おずおずとお茶を差し出す玉緒に、ありがとと一言声をかけてから湯呑を受け取る。ずず……と飲み干し、まひろさんの差し出した饅頭を受け取る。
「ん、すっかり良くなったようだね」
 先んじて動く事の多いまひろさんが、きちんと先に動けた。
 すずきさんは茶柱の立て方を皆に披露している。そんな彼女にツッコミを入れているのはこじまさん。
 今もまだ揚羽の肩を揉むのはゆりかさんとひいろさんだ。饅頭を口に放り込み、咀嚼してから。人形たちを身体から離す。
「さ、今日のところはこれでいいだろう」
「ええ、ありがとうございます」
「これ、少ないですけどお礼です」
 立ち上がる揚羽に、蛍も玉緒も頭を下げて。小銭が入った布袋を差し出す。
「ああ、毎度どーも。……来る客皆、あんた達みたいにいい客ばっかりだったらいいんだがね」
 たまに嫌になるくらい業突く張りな貴族とかいるんだよ。とか冗談交じりに話す揚羽。口では嫌がりながらも、いや、本当にその客の前では嫌がっているのだが。この二人の前では笑い話にできる自分がいることに、揚羽自身も少し驚いていた。
 そして同時に納得した。人形たちが気に入った子達なのだから、自分が気にいるのは当たり前だ。と。いや、先に気に入ったのは自分の方だったか、と。
「今日はもう帰るのかい?」
「いえ、折角ですし。少し練達の観光をしていこうかな、と」
 練達観光マップを手に、蛍が揚羽の問に答える。蛍に寄り添うように、玉緒がマップを覗き込み。そして人形たちが彼女達の周りを護るように、支えるようにして囲む。
 ああ、本当に。心から好きなんだね二人のことが。今日で何度、いや二人が来る度に何度思ったかわからないけども。揚羽はそう感じた。
 きっとこれからも、何があっても。この二人と五人なら。支え合って生きていけるという確信も得て。
「それは良いね。ただ最近何かと物騒だから気をつけな?」
「はい、ご心配ありがとうございます。でも……」
 と、そこで言葉を切った玉緒が。愛する蛍を、そして信じる人形たちを順番に見つめ。
「皆がいますから」
「ええ、私と、皆と、一緒なら」

 工房を後にする二人の背中を、少し長めに見送る揚羽。
 蛍が玉緒の手をとって引っ張り。その少し前をまひろさんとゆりかさんが地図を手に先導して。
 ひいろさん、こじまさん、すずきさんは。皆が退屈しないようにといろいろな話をその口から生み出して。

「なんだか、輝いて見えるねぇ。……オレも歳かな?」
 若い二人と支える人形たちの姿が眩しくて目を細め、思わずそう零す。
 あ、今のは無しな。忘れろよ、と。厨房で夕食の仕込みを始めた自らの相棒たる人形に、恥ずかしそうにそう伝えた。

  • 彼女達の過去・今・未来完了
  • NM名以下略
  • 種別SS
  • 納品日2020年03月07日
  • ・藤野 蛍(p3p003861
    ・桜咲 珠緒(p3p004426

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