PandoraPartyProject

SS詳細

怪奇! 年の瀬に水着姿で暴れ回るイレギュラーズ!

登場人物一覧

冬越 弾正(p3p007105)
終音
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形

●その質問はどうかと思う
「マッダラー殿、失礼を承知で聞かせて欲しい。……過去に触手に絡まれてぼーいずらぶした事は? それか全裸にひん剥かれて謎の光が唯一の希望になった事は?」
 弾正のその問いは、いくら何でも、なんぼなんでもついこの間修羅場を潜り抜けた戦友に対してするものではなかった。なかったのだが、のっぴきならない事態であることは確かだ。
「生憎とへっち依頼とは縁がなかったもので、そういった経験はいままでしたことがなかったな」
 だがそこはローレットであらゆる奇特な体験を経てきたマッダラーである。明らかに年頃の女性が喜びそうなシチュエーションはさておき、大抵の所謂「頭の悪い」手合いとの交戦経験は浅くはない。なおへっちな経験が無いのは誇っていい方なのでそこは別に恥じるところではない。
「成程、承知した。ならこの夜妖は俺が呼び寄せたも同然ということか……!」
「キィィィィーッ! 鋭い牙! 鋭い牙! 鋭い牙! 妬まァしィャーッ!」
「かみ合わせがよさそうで且つ鋭い! 100点! 我々の感情を逆なでした! -200点!」
 弾正が謎の理解を示したのと同時に、周囲のサメ……なぜか陸上尾びれ歩行の連中が妬まし気に口々に金切り声を上げた。どこか高級ブティックに就学前の子供を連れてきてドヤってそうな吊り目眼鏡おばさん敵雰囲気があるが気のせいだ。ああ、それらの口を見よ! 明らかにサメというより霊長類とか草食動物と言われた方がしっくりくるような、のっぺりとした平面のかみ合わせを! あの歯に噛みつかれたらひとたまりも……いや、ただ硬いし痛いし、サメの噛みつき力的に骨くらい折れるか? おかしいな、「さめざめと泣いている」筈なのにこいつらやけに攻撃的だぞ。
「サメがせめてきたぞっ!」
「……それを言いたかっただけなのではないのか、マッダラー殿?」
 いつの間にか協奏馬が危機的BGMを演出するなか、マッダラーはいつにないキメ顔でそう告げた。弾正は焦りを覚えつつ、この状況を楽しんでいそうな仲間に怪訝な目を向けていた――。


 さて、刻限は今から6時間ほどさかのぼる。
 年の暮れ、天義を襲った冠位傲慢の襲撃に於ける最終局面を乗り切ったイレギュラーズ達は、その後の混乱もさらりと乗り越え、仕事納めの時期に来ていた。
 それぞれの国に向かう、もしくはローレットで一杯ひっかける者もいる中で弾正は、マッダラーをカラオケに誘ったのだ。遂行者――冠位傲慢配下の魔種、人の身でありながら心を蝕まれた者、あるいは聖遺物が人の形をとった者らとの激戦の折、マッダラーは非情な選択を迫られた。決戦終えて間もないマッダラーの手は未だにその感触を忘れられず、それを近くで見てきた弾正は、彼をカラオケに誘わざるを得なかったのだ。
 そして歌った。叫んだ。飲んで騒いだ。
 不幸中の幸いなのは(弾正がそれを見越したのだろうが)、マッダラーの人生の多くを占めるのは「歌」であったこと。カラオケとの相性が最高だったことだ。そして弾正もまた、音への相性は最高だった。
 斯くして二人は歌い明かした後、夜の希望ヶ浜に繰り出し。
 そのせいで、「美術担当に歯をフラットにされたサメの着ぐるみの夜妖」というなんともコメントしづらい連中と出くわすことになったのだが、これは彼らを責められまい。
 悪いのは全部年末の空気だ。


「……ん?この怪異。こっちを映画のキャストに想定する能力があるだと!?」
「空間を歪めてまでこちらを適応させる夜妖……!? なんて強敵!」
 いや誰もそんな指定はしてねえんだけど。
 でも多分そういう展開が待っているのは必然だったのだろう。サメ達に取り囲まれた二人は、冬ど真ん中にあってなんともいえない水着姿に変化していた。それ水着っていうかラッシュガードをミニ四駆みたいに肉抜きして性能が換骨奪胎されたセクシースーツじゃん。
「凍えそうな季節に愛をどうこう言うのもおかしな話だ、水着にあわせて熱いlimitでオールオッケーしていくとしようか」
「俺は……俺には帰りを待っていてくれる人が居る! こんなところで空気に流されてなるものか!」
 ならなんで仕事収めにマッダラーと歌いに来たんだろうとかそういうのを言い出すとキリがないね。
 何故か真夏の雰囲気にデコられた協奏馬達もノリノリで応じている。
「シャーッシャッシャッシャ、人間にこの寒さで水着一枚はキツかろう! 我々は冬の海でも動き回れるバイタリティがある! 見せてやろう、サメという生物の真の恐ろしさを!」
「ママー、サメと変な格好の人がヒーローショーやってるー」
「シッ! 見ちゃいけません! サケじゃなくてサメだなんてやあねえ……」
 サメのよくわからない自信、周囲の真冬に輪をかけた視線。それらが輻輳的に二人の肌に突き刺さる。サメ達はそれぞれ頭が増え、下半身をタコに変え、果ては表皮がマグマのように泡立つものさえも! ここはクソサメ映画一丁目一番地だ!
「キャスト、そして水着姿! ……マッダラー殿、俺達は勝てるぞ!」
「いきなり何を掴んだんだ?」
 弾正は気付いた。彼らは物語序盤で喰われるべきジョックのようなキャスティングであると。
 そして同時に、そういったジョックやクインビー達の中には、襲われ殺されていく中で突然変異めいて武器を手に取り、反撃に打って出る者がいるのがサメ映画やスラッシャー映画の定番であると……!


「この八本の足はお前の手足を絡め取ってなお余裕があるぞ! つまりお前に待つのは四肢を粉砕されての四方からの辱め死だァーッ!」
「イヤーッ!」
「アバーッ!?」
「サメトパス……実際手強い相手だった……」
「浸っている場合ではないぞ! あのサメ、凄い熱を発している! 下手に近づけない!」
「ならば遠距離攻撃を撃ちこむまで!」
「あのサメ! 頭部に逆さ十字! そしてあの半腐乱具合!」
「つまりは聖なる祈りをささげアーッ!」
「マッダラー殿ォ! ここは神にささげる音楽……つまり!」
「「ゴスペルだ!」」
 なんという死闘であろうか。
 様々な文化、世界から流入したサメ要素を希望ヶ浜から集めに集め、その上で美術担当による悲劇を練り上げたサメは実に強敵であった。二人で対応するべき敵ではない。
 が、年末のテンションはそんな夜妖のノリを軽々に上回り、そして撃破していく。
 男なのに女物めいた水着を着せられた不運など、彼等には最初からなかったかのよう。
 年末なのにゴスペルが響くさまは、正月飾りを買いに来た人々すらも総立ちで声援を送るキリングフィールドへと変貌した!
 ……いや、街角なんだから総立ちは普通じゃね?
 斯くして、仕事納めをしたはずの彼等は、とんだ茶番劇につきあわされて年の瀬を過ごしたのだった。
 弾正、ちゃんと埋め合わせしとけよ。

  • 怪奇! 年の瀬に水着姿で暴れ回るイレギュラーズ!完了
  • GM名ふみの
  • 種別SS
  • 納品日2024年01月12日
  • ・冬越 弾正(p3p007105
    ・マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376

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