SS詳細
心躍る灰色の王冠の街
登場人物一覧
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──
それは
その物語から様々な伝われ方をして、今や大切な人に贈り物をして、その絆を形にしようっていう風習へと……特に恋する女性を中心により身近なものへと変化を遂げた。
そんな華やかなお祭りが召喚された
「ふふ、この世界は本当に楽しいな、いつもにぎやかでいろんな人が居て。しかし、最近はやけにキラキラしてるし甘い香りがするし、お祭りでもしてるのか?」
そんな幻想の街を歩き巡るのはその赤髪と青肌が特徴的な
彼女は丁度この祭りの直前に召喚されたばかり。活気ある街の様子に目をキラキラと輝かせて、思い思いに足を進める。そして、こうして自由に街を歩ける喜びを噛み締めていた。
ソロアは前にいた世界で能力以上の期待をかけられ、それに応えるべく努力をしていた。
失敗ばかりではあったし努力をすることは嫌いじゃないけど、際限のない期待に応え続けることに疲れて果てていた。
そんな矢先、この混沌とした世界へと召喚され
──少女は、はっちゃけた。
本来年齢的には遊び盛りである彼女は、元の世界では遊んだりした経験がほぼなく勉強漬け。そうして酷く厳しく抑圧されていた環境が、
反動からか気分は酷く酷く上昇しているのだ。
そうした少女が幻想の街を歩けば、様々なお店の雰囲気に目がいってしまうもので。
花屋に行っては
「こんな寒い季節でも咲く花はあるんだなぁ!」
雑貨屋に行っては
「なんだこれ! すっごい可愛いな!!」
その度にソロアはくるくると表情を変えて、目を輝かせて……気分はますます上がっていくばかり。
ああ、この世界はなんて素敵なもので溢れているのだろう! 彼女は手に入れた自由を手に街をくるくると巡っていく。
「ん? あれは……」
幻想の街を暫く歩いてまた一件、ソロアは気になる店を見つけた。
「ふわぁああああ!! なんだこれ?! すっごい! 可愛い!!」
そこはチョコレイト専門の喫茶店らしい。ソロアがその店のショーウィンドウに張りついて興味を注ぐのは、今回のイベント、
星や可愛らしい形だけではなくイルカなどの生き物の形まであるではないかと、ソロアは目を輝かせつつ興奮でじたばたとしていて。
「お客様、気になる商品がございましたか?」
「へっ?!」
そんな彼女の様子を店内から見ていたのか、店員のような女性がそうソロアに声をかけて、余程夢中になっていた彼女は突然隣に人が現れて酷く驚いていた。
「おや、驚かせてしまいましたね、申し訳ございません。お客様があまりにも目をキラキラと輝かせていたものですから、ついお声をかけてしまいました」
「え、そ、そんなにキラキラしてたか?!」
「ええ、それはもう」
「う……そんなにか……」
店員の女性にそういい笑顔で言われてしまうと恥ずかしくなってしまったのか、ソロアはなんとも言えずもじもじとして。
その様子に女性はくすりと微笑みを浮かべた。
「ふふ、チョコレイト……食べてみます?」
「え、い、いいのか?」
「本当はここ、ちょっとお高めのチョコレイト専門店なんですけれど……お客様のキラキラな表情を見てたら、私、食べてみて欲しいなって思っちゃったんです。……他のお客様には内緒ですよ?」
「!! あ、ああ! わかった!」
私がご馳走しちゃいますと言う女性に、恥ずかしそうにモジモジしていたソロアの目に光が戻って、またキラキラと輝き始めて。
そんな様子の彼女に女性はまた微笑ましそうにしていた。
店内に入ればまた設置型のショーウィンドウが並んでいて、ソロアは女性を待っている間、そのショーウィンドウに前のめりになってチョコレイトを見つめる。
「世の中にはこんな可愛い食べものがあるんだな……!」
「ほんと、食べちゃうのが勿体無いですよね」
「ほんとだ! これが食べられるなんて……未だに信じられないぞ!」
ソロアはそう言ってまたチョコレイトを見つめる。これは一体どんな味がするのだろう。
「まぁでもここでは贈り物の意味合いが強いですから、見た目にも拘っているのです」
「贈り物……」
「あなたにもきっと見つかりますよ」
きっと、これから、この世界で。
微笑む女性にソロアはつられるように笑った。