SS詳細
完全敗北-堕ちた女戦士達-
登場人物一覧
●ありふれた討伐依頼?
「概要は以上となりますわ」
境界図書館の一角、卓上に置かれた本の表紙をなぞる様に撫でながら、『境界案内人』ロベリア・カーネイジは説明を終えた。
舞台は
「不思議だらけのライブノベルにも、私達に近いお悩みを抱えてる世界があるんすねぇ」
『秒速の女騎士』中野 麻衣(p3p007753) は拳を握り、助けなければと意気込んだ。それに賛同するように頷いて、『「姫騎士」を目指す者』ルリム・スカリー・キルナイト(p3p008142)は僅かに眉を寄せる。
「くっ……」
「大丈夫っすか? ルリムさん」
「お気遣い感謝いたしますわ。ですが心配ご無用――女騎士たる者、この程度の傷で剣は曇りませんことよ!」
彼女は重傷をおしてパーティーへに参加していた。身体を蝕むような痛みはあれど、人のために剣となり盾となるのが騎士道というものだ。この程度の敵なら蹴散らせるだろうと誇り高く馳せ参じたという訳で。
「動きが鈍るようでしたら私がカバー致しましょう。異世界であろうと悪辣なる者には断罪を」
カンナ・チューベローズ(p3p008161)が天に祈る。その凛とした眼差しはLv.1に見えない頼もしさがあった。彼女の過去と関係しているようだが、それが語られるのはまた後日。
「そうっすよね。三人いるんだから、互いの弱みは補いあえる筈っす!」
「行きましょう、異世界の平和を取り戻すために!」
結託した女騎士達は勇ましく、異世界へと旅立った。その
●絶望の始まり
「はぁっ!」
被害が最も多いと聞いた洞窟で、心をひとつにした女騎士達の活躍は目覚ましかった。
「オーホッホッホ! キルナイト家の刃、姫騎士ルリム! この
リルムの名乗り口上は勇ましく、傷を庇う動きに気付いたゴブリンの脳天を横合いからカンナが狙い撃つ。
「流石ですわ、カンナ様!」
「この程度の梅雨払いは些細な事です。……しかし、敵の数が多すぎますね」
すでに幾つもの屍を積み上げながら洞窟を進んだ筈だ。にも拘わらず、ゴブリンもオークも増える一方。
「しかもこのゴブリン達、統率がとれてるっすよ。野良モンスターにしては異様っす……」
「しっ!」
人差し指を口元にあて、カンナが注意を促す。気になった麻衣が耳を澄ませると……なんと横穴からすすり泣く声が聞こえて来るのだ。
敵を牽制しつつ声の方へと進む一行。たどり着いたのは薄暗い小部屋で、そこに居たのはボロ布を纏い、悲しみに暮れた様子の少女だった。きっとこのゴブリン達に乱暴され続けてきたに違いない!
「私達が来たからには、もう大丈夫っす!」
三人が少女の元に駆け寄ると、後方から起こった風が女戦士達の頬を撫でる。
――ガシャン!
「しまった、柵が!?」
今しがた彼女達が進んで来た道が鉄格子によって閉じられる。同時にシューシューと何処からか吹き出し始めたガスにカンナが目を細める。
「罠です! 皆さん口を押さえ、て……」
注意を促した時はすでに手遅れで、一人また一人とガスを吸い込み膝を折る。薄れゆく意識。倒れる仲間達。
これで終わり――などと言う
目が覚めると手足が蔓のような物で縛られていた。ここは――モンスター達の寝床だろうか。ルリムが見た限りではそのように思えた。床に転がされていても敷かれた藁のおかげで寒くはなかったが、同じように捕まっている麻衣とカンナが心配だ。誰もかれも、武器を奪われてしまっている。
「目が覚めた?」
声の主は身を捩ればすぐに分かった。先ほどの少女だが、ゴブリンやオークの群れの中に堂々と立っている。
「貴方がモンスター達のボスでしたのね」
肯定の意を込めて少女は嗤う。その姿はたちまち揺らぎ、下半身がうねる蔓の群れに覆われ――アルラウネとしての本性をさらけ出した。
「久しぶりに活きのいい獲物が捕まったわ。今夜は宴よ!」
下卑た笑い声と雄叫びが部屋に木霊する。ルリムが歯を噛みしめて鋭く群集を睨みつけると、横から凛とした声が響き渡った。
「おやめなさい! 彼女達に手を出そうというのなら、私がお相手致します」
「カンナさん、駄目っすよ、そんな――」
身代わりになろうというカンナ。シスターの慈愛に首を振る麻衣だったが、アルラウネの蔓がカンナの身体へぬるりと這い寄っていく。
「美しい自己犠牲ね、シスター。それとも女同士の友情かしら?」
「く、っ――」
えっちぃハイレグがくい込むように身体を宙につり上げられ、カンナは身体を震わせた。
このような辱め、数々のピンチをくぐり抜けてきた彼女には慣れたものだったが……与えられている筈の痛みが甘く身体を掠めるような快楽へと変わっていく。
「私達に……何を
「あっは! いい
罠部屋のガスは眠気を誘うだけの物ではなかったのだ。アルラウネの歪な笑顔がその事実を物語る。
悪意をもったオークの手がカンナへと迫り――。
「ぁ、っいけません……ひぐっ♡ らめ、ってばぁ!」
「カンナ様ぁーーーっ!!」
「早っ!?」
ものの数秒で、モンスター部屋はカンナの喘ぎとルリムの叫びとアルラウネのツッコミが重なる
「ちょっとシスター、どういう事よ! アンタ堕ちるの早すぎなんじゃないの?」
「あぁんっ♡」
アルラウネが苛立たし気に足(代わりなのだろう蔓の束)でハイレグを踏みつけグリグリと踏みにじると、悩めるくっころシスターはビクンビクン身体を跳ね上げて嬌声をあげる。まるで今日まで仕込まれて来たような馴染み具合だ。
「まったく、とんだ変態ね! まぁいいわ。自己犠牲の精神がいかに無駄な物か、これで分かったでしょう。次は貴方達二人を――」
「んはぁっ! もうダメっすぅ……♡」
「何で!?」
アルラウネが振り返ると、まだ手を出していない筈の麻衣が
疑問の答えは、ひぃひぃと喘ぐ麻衣の身を守る鎧にあった。触装――うねうねと湿り気を帯びて這い出た彼らは、アンナが堕ちていく姿を見て危険を察した。
このままでは主人が臭いゴブリンやオーク達の餌食になってしまう。
それならいっそ、自分達が先に堕とせばいいのでは!? という逆転の発想である。
おまけにこの触装達は麻衣に寄り添い続けてきた相棒だ。どこを責めれば麻衣が悦ぶか完全に熟知しており、即落ち二コマの出来上がりである。『秒速の女騎士』の異名は伊達じゃない!!
「こんな、に……ぬるぬるしておっきく……成長して……私、嬉ひぃっすよぉ♡ ひゃあぁんっ♡」
装者の不安を拭うために、触装がじゃれて来ているのだろう――快楽にチョロい、もといポジティブな麻衣は拒む事を知らず、相思相愛の匂いすら漂わせて堕ちていくのだった。これは確かにゴブリン達も二人(?)の世界を邪魔しづらい。
「アンナ様に次いで麻衣様まで。恐るべしモンスターの罠ですわ!」
「ほぼアンタ達の自爆だけどね?」
アルラウネの冷ややかな視線さえも、ルリムは気丈に跳ね返す。群がるオークの臭いに眉を寄せつつも、瞳の奥に輝く闘志は未だ衰える事はなく。悪戯に纏うドレスを裂かれようと、羞恥に奥歯を噛みしめながら身を捩って抗った。
「例えこの身を穢されようと……心までは穢されませんわ!」
しかし彼女の言葉に反して『ムスクの呪い』がギャラリー達の身を焦がす。甘い香りが興奮を誘い、加虐心を煽るのだ。
「気丈に振舞おうと、子犬のように震えてるわよぉ? 穢し甲斐のある姫騎士様ね。アハハッ!」
「くっ……殺しなさい!」
汚らわしい身に堕とされるならば、いっそ高潔なる死を。
誇り高い願いは届かない。嗚呼……どれほど弄ばれた事だろう。喘ぎ声を耐えようと紡いでいた口も、今となっては緩みきり、キツい臭いにえづく事なく全て受け入れてしまうのだ。
「はぁ……はぁ……。もう、このまま……」
こうして希望も正義も届かぬままに、
三つの可憐な花は手折られ、闇の底へと堕ちていくのでした。
「めでたし、めでたし」
クツリと喉奥で笑い、境界案内人は物語の終焉を口にした。
●誇り失わぬ限り
「あれ……?」
目を覚ますと、麻衣は境界図書館のテーブルに突っ伏して眠りこけていた。両脇に座るルリムとカンナも同じような状況のようだ。
「私達、確か討伐の依頼を……」
「お二方と共に戦っていたような」
思い出せる記憶を口々に零していくものの、戦った後の記憶が妙にぼやけている。
「お疲れ様、
ロベリアの言葉に最初は狐につままれたような表情の女戦士達だったが、"完結した"というからにはきっと、自分達の成すべき事をやり遂げたのだろう。何より、この場の三人で戦った記憶はしっかりと残っている。
「ルリムさんの剣裁き、凄かったっす~!」
「カンナ様と麻衣様が共に戦ってくださったおかげですわ!」
「互いに志すものが正義であるなら、いずれまた、共闘する事もあるでしょう」
――その時まで、ご武運を。
己が誇りと共に、女戦士達は拳をつき出し誓い合った。
「はぁ~、それにしても、何故か身体が痛いっす。お二人共、温泉行きませんか? 日帰りでっ!」
「いいですわね。湯治を主治医に勧められた事がありますの」
「では向かいましょう異端審問も身体が資本ですから」
きゃあきゃあとガールズトークに花を咲かせる三人を背に、ロベリアは歩く。
抱えた本『完全敗北-堕ちた女戦士達-』を収蔵するために――。