PandoraPartyProject

SS詳細

Little Letter from My Deer

登場人物一覧

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
ポシェティケト・フルートゥフルの関係者
→ イラスト

●To.FairyTale
 ちくたく、ちくたく。時計の針は今日も元気に追いかけっこ。
 鹿も元気に雪柳と追いかけっこ。
 おいしそうな新芽を見つけた鼻先に、気まぐれ蝶がふわりと止まった。
 風と共にやってきた封筒に。ぱちくり、霜のようなまつ毛を瞬かせる。

 ――やあ、元気かい。かわいこさん。
 僕は今、ノピンペロディの裏がわにいます。
 魔法使いの引きだしの奥を通り抜けてここに来るまでにかなりの大冒険があったのだけれど。
 今はかわいい君の心臓をびっくりさせないためにも、ハッピーエンドから話をはじめよう。
 ノピンペロディは良いところです。
 毛むくじゃらの羊は親切だし、ミルク色の建物は綿のようにあたたかい。
 エメラルドの空は星の唄を聴かせてくれたし、柔らかなランプの果実は鍋の底でぴかぴか光っている。
 ただ、空に浮かんだ金平糖の川が突然くしゃみをするせいで、飴が多いのには困りものだ。
 もう、何本も傘を美味しくしてしまったよ。
 そちらは紅葉の雨が降っている頃かな。
 紅に染まった落ち葉のベッドが恋しいよ。


●From.FolkLore
 ぱちぱちと暖炉の炎がはぜる。
 水晶の薔薇を左手に、鷲の羽ペンを右手に。
 窓から射しこむ月明りの下、魔女はゆらゆら文字を綴る。
 暮色の靄と羊歯にかこまれた湖で、あの子は寂しくしていないだろうか。
 穏やかな森の早すぎる霜に、あの子は寒くて凍えていないだろうか。
 照らされた文面に広がる幽玄なるフォークロアをたたんで。
 火花と戯れていた月光蝶が一匹、ふらりと窓から旅立った。 

 ――ごきげんよう鹿ちゃん。
 きみの元気な足跡を読むことができて、僕の心はリスのようにはずんでいます。
 今日は世にもめずらしいロノレレに遭った時のお話をするわ。
 ロノレレが神さまの庭にいる話は、前に聞かせたね。
 陶器でできた身体を噴水の隣に横たえて、生クリームをたっぷりつけたスミレを気取ったようすで食べていたから、すこしだけ、笑ってしまったわ。
 魔女らしく一曲披露したら、気持ちよさそうに眠ってしまったよ。
 子守歌を歌ったのがいけなかったのかしらね?
 欠伸をしたら、そのままぐっすり。
 想像していたより、ずっとずっと大きな気まぐれさんね。

 ――ハロー、たんぽぽさん。
 手書きの可愛い足跡にはずいぶんとおどろかされたよ。
 人の姿でいることに慣れたのだね。
 ちょうど、きみの髪を結いたいと思っていたところなんだ。
 彩るかざりは何がいい?
 真っ赤なパールローズの花飾り。
 チョコレートミント刺繍のシュシュ。
 スノウホワイトとお揃いのティアラ。
 かわいいクララとおそろいの、はちみつ色したレースのリボンも似合うだろうね。
 美しいみやげを探して、ついつい、ウェルテンスツルクまで足をのばしてしまったよ。
 なにせ、この雪国にはきみに似合うものがたくさんあるのだから。
 春のラベンダーに恋した耳当て。
 夏の草原に寝そべる新雪のマフラー。
 秋空に憧れる芽吹いた新緑の髪飾り。
 雪の結晶で出来た銀色のウィンドチャイム。
 そしておはなし好きのフェアリーテイル。
 魔法の雪に覆われているせいか、この街にはいたるところに暖炉のにおいがする物語がかくれている。
 小さな鍵穴の中へにげこまれた時には困ったけれど、魔女エルマーと言えば、そんじょそこらの魔法使いとは訳が違うのさ。
 つかまえた物語を同封するよ。遅くなったが、僕からの贈り物だ。
 良いシャイネン・ナハトを!
 追伸:とちゅうで逃げてしまったらごめんなさいね。


●To.MotherGoose
 ちいさな妖精が胸をはって封筒を持ちあげた。
 可愛いポストマンの頭を撫でながら、ポシェティケトの心は踊りだす。
 気取った言葉、すてきな言葉、魔法の言葉。
 鹿は葉っぱが好きなので、言の葉を噛みしめるのもお手の物。
 真っ赤なポストにいれるのは、一生懸命書いた魔女へのお返事。
 鹿が書いた、はじめてのことば。
「あの人のことだもの。きっと、びっくりしてくれるわ」
 わくわくしながら手紙を書いて、そわそわしながら返事を待つ。
 どうかどうか、ぶじに届きますように。

 ――調子はどうかな、可愛いアリス。
 さて。僕はいま、どこにいると思う?
 ここは黄金色の昼下がりと呼ばれるワンダーランド。
 つまり、何かと騒がしい世界だ。ここでは誰でも『アリス』らしい。
 見ていて実に飽きないよ。
 涙池のまわりでレースをしていたり、ふかしぎなお茶会に招待されたり。
 ポットやティーカップは逃げ出すし、クッキーには羽が生えているし、角砂糖は喋ってばかり。
 まるで愉快なサーカスさ。きっときみも気にいるだろう。
 帰り際、紳士的な鷲が羽ペンをくれたんだ。ここの動物たちは親切だね。
 書き心地が良いので気に入っているよ。

 ――親愛なるポシェティケト・フルートゥフル。
 なんとすばらしい知らせだろう!
 僕が本当におどろくことなんて滅多にないと、きみは、もちろん知っているね?

 鈴の音を聞いて、おもしろそうに首を振ったきみ。
 ハルモニカとフルートをふしぎそうに覗いていたきみ。
 竪琴と木琴の音色に合わせて、前足でギャロップを刻んだきみ。 
 太陽の柔らかな光の中で、目をキラキラさせた蹄が踏んだ四十一鍵の黒白を、僕は覚えている。

 愛しき森の子。
 きみは調和をしっている。
 きみを蝶はしっている。
 可愛いポシェット。音を手繰り世界を喜ばせたきみを、僕は心から誇らしく思うよ。

 きみは帰ってしまったから知らないだろうけど、
 あれから仮面の街は不思議な鹿の楽団の噂でもちきりさ。
 なぜ知っているか不思議だって?
 僕の蝶が教えてくれたんだ。
 蝶々はひとつひとつが世界を見る目を持っている。
 だから僕はいろんな場所を知っているのさ。
 僕はどこにでもあるし、どこにでも行ける。
 ましてや愛弟子の晴れ舞台ときいたら、その評判をたしかめにいくのは当然だろう?
 その結果、僕は、きみを誇りに思う理由をまた一つ得てしまった。
 なんて素晴らしい午後だろう。

 仮面の祭り、午睡の言葉亭にて。
 魔女エルマー・ギュラハネイヴルより。


●From.Nursery Rhymes
 蝶が一通の手紙を携えて戻ってきたのは月がアプリコットの色に染まった夜のこと。
 バイオリンを弾く手を止めて、封筒に刻まれたひづめのスタンプを見た魔女は頬をゆるめた。
 良かった、良かった。優しい子。
 きみは元気でやっているのだね。
 文字を書けるようになったのだね。
 すてきなおともだちが、たくさんできたのだね。
 嬉しいことだ。愉快なことだ。
 安楽椅子をゆりかごのように揺らし、夢見るように羽ペンを踊らせる。
 魔女の花が白い鹿に音楽を教えただなんて、何ておかしな話だろう。
 友たる蝶に囲まれて、月光花は微笑んだ。
 この手紙に書かれた物語が、いつか白鹿を彩る世界の一片になると信じて。
 おめでとう、謡うワンダーリングナーサリーライム。
 きみの成長を、魔女は心から祝福しよう。

PAGETOPPAGEBOTTOM