PandoraPartyProject

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ファントム・タイム

登場人物一覧

ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶

 ――ファントムナイト。
 異世界ではハロウィンとも称される日がやって来た。
 今日と言う一日は不思議な魔法により皆の姿が変じる……その中で。

「やぁハリエット――おや、どうしたんだい? さっきからそわそわして」
「う、うん。なんていうかね、こういうのは着慣れてなくて……」

 ギルオスとハリエットは幻想の街中で待ち合わせをしていた――
 そして二人の姿はファントムナイトが故かいつもと違う。
 二人の今日の姿は一言で例えるならば神父と修道女、と言った所だろうか。
 どちらも黒を基調とした衣装であり、美しく整った様子を窺わせよう……しかしハリエットの方は落ち着きのない雰囲気を醸し出している。しきりに服の裾がひらつくのを気にしているようだ。
 ハリエット自身が述べた様に、普段とは全く異なるモノを着込んでいるからだろう――
「飾りが多かったり、裾が長かったりすると気恥ずかしいというか……
 それに、ホラ。尾もモフモフになってて……いつもと全然違う感じなんだ」
「おや本当だ。いつもは竜の尾みたいな感じなのに、今日はとってもかわいくなってるね。
 頭にも猫耳みたいなのが生えてるじゃないか――はは、これも愛らしいね」
「わ、わ。そういうギルオスさんだって、耳も尻尾も生えてる、よ」
 更には、よく見ればハリエットの身体自体もやや変じているのが見て取れた。
 彼女の美しき翠色の髪と同じ『耳』と『尾』が其処にあるのだ。ギルオスはソレを見て猫と称そうか――同時に彼女の耳に触れてみれば突然の柔らかな指先の感覚に、ハリエットは慌てふためこうか。
 なんとなし、くすぐったい。予期せぬ感覚に尾がぱたぱたと動く。
 が、耳と尾が生じているのはハリエットだけでなくギルオスも同様であった。
 こちらもギルオスの髪と同じ色を模した耳と尾がある……
 色的にはこちらは猫というより狐っぽい感覚も得るだろうか。
 触ってみようかな、と思うけれど。ハリエットの身長ではやや手を伸ばす必要がありそうだ――むむむ。もどかしい。
「ギルオスさんは似合ってるよね。流石というか、うん」
「ふふ。僕もこういった神父の服を着るのは初めてだけどね。しかしハリエットだって慣れてないと言うけれど……そう思えないぐらい着こなせてるよ。可愛い可愛い。自信をもって」
「う、ぅ。と、とにかく行こ。お店を見て回るんだよね――」
 何度も『可愛い』なんて言われるものだから、気恥ずかしくなってきた。
 ――えぇいさっきとは別の意味で落ち着かない。シスターベールを指先で弄りながら、ハリエットは歩こうか。微かな笑みを浮かべながらギルオスも隣にいて……二人して幻想の街中へと往こう。
 然らば周囲にはハリエット達だけのみならず、仮装に身を包んだ者達が多くいる。
 狼男、包帯ぐるぐる巻き、吸血鬼風と様々に。
 通りはそんな者達で満たされて賑わっていようか――
 ファントムナイトの魔法は誰しもに平等に降りかかるものだ。
 豊かな貴族にも。スラムで過ごす孤児にも。
 ……誰もが夢を見る事が出来る日なのだ。
「今日はハロウィンだからか人だけじゃなくてお店もハロウィン仕様になってるね。
 ほら見てごらん。ここの喫茶店なんて、今日はカボチャ料理一色だってさ。
 折角だからちょっと食べて行ってみようか」
「カボチャは旬だと甘くておいしいよね。わわ、被り物も貸し出してるみたい」
「丁度頭がスッポリ入るね――ハハ。でも今日の僕達には合わないかな?」
 そのまま二人は買い食いも行ったりなんてしようか。ローレットにも程近い行きつけの喫茶店がハロウィン色に染まっていれば、興味も惹かれるものだ。甘く蕩けるようなカボチャスープを味わっていれば……おや。音楽なんかも聞こえてくる。
「演奏会、かな?」
「そうみたいだね。皆楽しそうで何よりだ」
 ファントムナイトの音楽は陽気にして、ちょっと謎めいている。
 不思議なテンポ。春とも夏とも冬とも言えぬ軽快な音色だ――
 まぁ『謎』『不思議』で満載の日なのだから、むしろこういうのが似合う日、か。
 ――耳を傾けようか。独特なれど不快ではないから。
 そうしていれば……あっ。
「『Trick or Treat?』だって。アレって確か意味があるんだよね」
「ああ……『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ!』みたいな意味だったかな。
 異世界だとお化けの仮装をするらしいし、混沌世界でも似た名残かなぁ?」
「…………」
「ん、ハリエットどうしたんだい?」
「――私も『Trick or Treat』って言ったら、何かくれる?」
 音色に混ざって聞こえてきた。ファントムナイトの、おまじないだ。
 外を眺めればお化けに扮した子供達がお菓子を求めて走り回っていようか――
 で、あれば。
 自分も言ったら何かくれるかな、なんて。
「……ハッ。そうか、しまった忘れてたよ。
 ハリエットと出かける事ばかり頭の中にあったから」
「――も、もう。それじゃあ悪戯しないと、だね」
「ああ。一体何をしてくれるのかな?」
「うーんとね……」
 しかしギルオスはお菓子を持っていないらしい。
 残念な様に感じながら、しかし悪戯をしてもいいだなんて貴重だ。
 どうしようか。ほっぺに水性ペンでお星さまでも書こうかな……
 じっ、とギルオスを見つめながら考えていれ、ば。
「――ギルオスさん、ちょっと屈んでくれる?」
「ん、こうかい?」
「そう。そしてね」
 刹那。ハリエットは――ギルオスのケモ耳に触れようか。
 両の手で。モフモフの感触を確かめるように。
 さっき。ギルオスさんばっかり私の耳を触ってたから。
「――御返し。ついでに悪戯書きもしてあげる」
「わわわ。ペンはくすぐったいなぁ――なんて書いたんだい?」
「ないしょ」
 綺麗な綺麗なお星さま。私だけの知る星を、ギルオスの頬へと。
 描き終わりに、名残惜しそうにギルオスの尾の方も触って堪能しておこうか。
 こっちもモフモフだ。あぁ今日だけの魔法が此処にある――
「じゃあ次は僕の番かな?」
「えっ」
「当然だろう? さぁ――『Trick or Treat?』」
「えっ、えっ、えっ。お菓子、持ってない」
 と。楽しんでいたら強襲された。
 しまった。ハリエットはハリエットで、仕掛ける事しか考えていなかったのだ。
 お菓子持ってない。ので、悪戯一択!
「じゃあ僕もペンで悪戯させてもらおうかな。ほら、こっちにこう、だ」
「わっ――あれ、今のは、星?」
「うん。これでお揃いだろう?」
 であればギルオスが成したのはハリエットと似た事。
 ギルオスのが右頬に書かれたのなら、ハリエットのは左頬に。
 ――似たようなお星さまのマークを記そうか。
 今日一日だけの印だけど。
 服も。悪戯も――『お揃い』にしたかったから。
「さ、それじゃあそろそろ行こうか!
 ゆっくりしてると子供達に捕まって、追加の悪戯をされちゃうかもしれない」
「うん――行こうか、ギルオスさん」
 ハリエットは頬に描かれた星のマークを指先でなぞりながら。
 ギルオスが自然と差し出した手を、取るものだ。
 歩こうか、手を繋ぎながら。
 明るい道筋を。
 まだまだファントムナイトは続いていく。幸せの一時を――噛みしめる為に。

 『Trick or Treat?』

 魔法の呪文があちらこちらで聞こえた気がした。

  • ファントム・タイム完了
  • GM名茶零四
  • 種別SS
  • 納品日2023年11月21日
  • ・ハリエット(p3p009025

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