SS詳細
Little, Little Little Autumn
登場人物一覧
照りつくような暑さも落ち着いてきた11月──友と語らいながらはしゃぐ若人たちや洒落たドリンクカップをaPhoneで撮影する若い女性など、練達の再現性原宿は普段と変わらぬ賑わいを見せている。
そんな外出日和の13時過ぎ、レイリー=シュタイン(p3p007270)と夢野 幸潮(p3p010573)は待ち合わせ場所にしていたブティック街の入り口で互いに小さく手を振っている。
とある依頼報告のためローレットにてたまたま居合わせた2人──「汝、我と買い物でもいかがかな?」と幸潮がレイリーを誘ったのだ。
|依頼やローレット≪見知った普段≫のレイリーは、凛々しくまさに正義の騎士といったところだが……そうはいってもやはり女の子。
ファッションやおしゃれに興味がないわけではないが、文化の違うところ、ましや練達という現代的な服装というのは、よくわからない。
少し緊張した面持ちで彼女は口を開いた。
「今日は誘ってくれてありがとう。その……わたし、こういうの不慣れだけど、大丈夫かしら?」
「なに、気に留めることはない。むしろ誘ったのは我の方からだ。折角の機会だ、色々試してみるといい」
そういうと幸潮は、さぁこちらへとレイリーをブティック街の方にこなれた様子でエスコートする。
ブティック街では、いかにも高そうなドレスワンピースが色鮮やかに飾られている店もあれば、お誂え向きカッターシャツの専門店からジーンズやパーカーなど普段使いの洋服を売りにしているものまで、様々な店が並んでいる。
(わたしには、一体何が似合うのかしら……?)
レイリーはそんなことを考えながら、普段なかなか着ないであろう洋服の数々を横目に幸潮に目を遣る。
スラリとした華奢な体格にサラリと下ろされた長い髪の毛が揺れ、どことなく香る香水が心地よく感じる。
「幸潮殿……その、少しお願いがあるんだけど」
「汝からの願い、とな。良かろう、聞こう」
「色々気になる服はあるのだけど、わたしには何が似合うのかいまいちよく分からなくって……幸潮殿が良いなら、あなたに選んでほしくて」
「なるほど……して、汝はどういった物をご所望で?」
「そこも含めて、幸潮殿に選んでほしいのだけれど……」
「御意」
そんな会話しながらしばらく歩いていると、大きな英字に雷が落ちたようなロゴが特徴的なストリートファッション系の店の前で、2人は足を止めた。
「このお店、行ってみる?」
「レイリー、汝も気になるか──奇遇だな、私もだ」
店に入ると、気のいいレゲェ音楽が2人を出迎える。
「いらっしゃませー、どうぞご覧くださいませー」
よくある店員の掛け声もバックに、2人は思い思い衣類を見ていく。
「そういえば、私が汝に服を選ぶ、ということだったな?」
「ええ」
「ふむ──であれば、一つ、私が思うに……いや、これは願望なんだが」
これを言っても良いものか、と幸潮は手を顎に添えて少し考え込んでから口を開いた。
「私と揃いになる臍出しのクロップニット」
「へ、臍?」
「あぁ。それに惜しげもなくその美しき生足のほぼ全てを曝け出すカットオフショートパンツ。そこに編みタイツショートパンツ、というのはどうだろう?」
あまり露出のある服を着るイメージがないからこそ出てきた、幸潮の願望。
──普段のレイリーは凛々しく、理想の英雄と云う他ない。敵の攻勢に怯むことなく聳え立つ美しく愛しきヒトは真に素晴らしい。
それでも、戦場を離れればあくまでも一人の女性だ。
「なるほど……」
そういうとレイリーは少し顔を赤らめつつ、ふと先の幸潮と歩いているときの光景をふと思い出した。
(おそろいにするなら、幸潮もわたしと同じくらい身長あるのよねぇ……可愛らしい服もいいけど、体の線の細さを活かした服ならきっと映えるんだろうな)
服を眺めていた視線をふと上げると、彼女のすぐ近くで店員が陳列のために服をハンガーにかけようとしているのが目に入った。
折角いるなら、と意を決して彼女はその店員に声をかけてみた。
──スタイリッシュかつ、可愛い組み合わせってどんなものがあるのかしら?
──せっかくなら幸潮殿に似合うようなコーディネートも教えていただけないかしら?
幸潮も含め3人で会話を進めていると、心なしか楽しそうにしているレイリーを幸潮は柔らかな笑みを浮かべて眺めている。
そうこうしてお会計を済ませた2人に、ペアルックで買ったのであれば着て行かれますか、と相談した店員が声をかけてきた。
すぐに首を縦に振り、3つ並んだ試着室のそれぞれ端の部屋に入り、服を着替えて出てくれば、仲良し2人のニコイチコーデの完成だ。
「さて、ここで記念撮影と洒落こむのはどうだ」
「でも、写真って迷惑にならないかしら?」
「案ずる必要はない。ここは練達、しかも|お洒落スポットには事欠かない場所≪再現性原宿≫……ほら、あそこにもあるだろう?」
ブティック街の少し開けた広場に、首にリボンがあしらわれた大きなクマのぬいぐるみが椅子に座らされている。
そのクマを挟んで、ニコッと笑って、はいチーズ。
なんだかんだ言ってそのあともアクセサリーやちょっとしたお菓子屋を巡り、気が付くと日が落ちていた。
「レイリー殿、汝、腹は減ってるか?」
「そうね、わたしも来る前にお昼ご飯をいただいたきりだから、そこそこお腹は空いているわ」
「であれば、夕飯もとって帰ることにしよう」
時刻は18時30分、所謂洒落た店は服屋だけではなく飲食店も同じ。
レストランのから暖かいオレンジの光が漏れ、営業開始を告げ始めていた。
メインの大通りから一本路地に入ってみると、軒先の明かりで「Wine Bar & Restaurant」の文字が、さりげなく見える扉が見える。
隠れ家のような扉を上げると、チリンと鈴の音が店内に響く。
「いらっしゃいませ。2名様でよろしいでしょうか」
「ええ、大丈夫よ」
「あぁ、2名だ」
「かしこまりました。一番奥にテーブル席がありますので、そちらでごゆっくりお過ごしください」
席に案内されると、薄暗くそれでいて安心できる明るさの照明で照らされているテーブルに、メニューがおかれている。
少し重厚感のあるデザインの表紙をめくると、最初に飛び込んできたのはその店自慢のワインの数々。
そのほかにもウイスキーやクラフトビール、飲みやすいカクテルなど様々なドリンクメニューがならぶ。
フードもそこそこ、コースメニューの写真も食欲をそそる上に、価格も手ごろ。
「幸潮殿、ここ、かなりいいお店ね」
「あぁ、私もそう思う」
2人はニコリと笑うと、軽めの白ワインボトルとアラカルトコースを注文。
ワインが注がれたグラスからは、柔らかな太陽の光が差すさわやかな草原を思わせる香りが漂ってくる。
他愛のない会話を楽し気に続けていたところ、ふと幸潮が改まった顔をしてレイリーを見つめている。
「此度は共に過ごしてくれてありがとう。共に日常を過ごせて本当に、本当に──筆舌に尽くし難い。このような関係性を築け、あまつさえ汝を『悪』なる道へ誘う魔性なる我が本質を受け入れてくれた事は。」
「『悪』なる道って、服選びのこと? 良いのよ、わたしもお洋服のことは分からなかったから、とても楽しかった」
レイリーすこし意地悪な笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「私は幸潮がとっても魅力的だから、外見も内面もよ、貴女の自覚している『悪』の魔性も、自覚してない純粋や誠意も、私が可愛いなぁと思うところ含めて。……ねぇ、次は一緒にどんなことしたい?」
「ふむ、したいこと、か」
シャイネンナハトも近くなってきた季節柄、良いことも悪いこともやりたいことはたくさんある。
少しの間が空いて、幸潮は口を開いた。
「正直、汝とやりたいことは、いくつも思いつく。だが、まずは私の想いを伝えたい」
──この混沌の我は、汝を支え歩むに足る想いを得れた。レイリーは、どう……だろうか。『悪魔』なる我へ、その生涯を捧げてくれないか。
ぷっ、とレイリーは吹き出す。そこに、不快という感覚はない。
「あー、そうねー。ただ、私は私だけの生じゃなくなってるけど、それでよければかな。私が幸潮にとって愛する人でいたいし、そのために自分の命の一部、捧げるのも愉しそうね」
ニコり、と愛おしそうに幸潮を見つめてること数秒。レイリーはそういえば、と言いながらワインを一口流し込む。
「……って、それ次にやりたい事なら、契約とかそういう類でいいの?」
「あ、あぁ、そうだな契約といえば契や──っ」
幸潮がいうや否や、レイリーはその手を取って甲に柔らかな口づけをささげる。
「ふふっ……楽しみにしてなさいよ、幸潮?」
レイリーのその微笑には、幸潮への敬愛・尊敬がにじみ出ていた。