PandoraPartyProject

SS詳細

木枯らしの穹

登場人物一覧

エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
ルシ(p3p004934)
穹の天使



 私の名は『穹の天使』ルシ(p3p004934)。この無辜なる混沌フーリッシュ・ケイオスたる世界に召喚されて数年のただの天使だ。本当はルシフェルの末裔だとかなんだとかあったり、ただの天使と称するには些か人離れした生い立ちはあるがこの世界の法則ではそれも意味を成さないだろうさ。
 だから、私には親と言う概念もなければ愛と言う概念も危うかった訳だが……それはまぁ、楽しい女性と縁があったから知る事は出来たのだろう。
 少々騒がしい女性だが、表では気が強い癖に自信がなくて小心者で。そもそも特異運命座標イレギュラーズの最前線で戦う癖に何故……と思う事もしばしばあるがまぁそこも可愛いところだと受け止められるようになるなんて未来はどうなるかわかったものじゃないね。
「なぁルシ、今日は海洋に何しに来たんだ? その……ま、またでーと、か?」
 ソワソワした様子の声色に視線を向けると、やはり彼女……『揺蕩う黒の禍つ鳥』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は眉を下げて不安そうにしている。
 確かに私達はいつも今来てる国、海洋ネオ・フロンティア海洋王国へ出掛ける事が多かった。
「そうだねぇ……終わったらデートをするのもいいかな」
「お、終わったら? ……何か用事があるのか?」
 また不安そうな顔して……本当にエレンシアは揶揄いがいがあるな。私は小さく笑いながら彼女の頬を突くように撫でた。
「ふふっ、君が心配するような事はないよ。ただ、君の両親に挨拶したくてね」
「そ、そうか。……は?」
 呆けた顔で私を見つめる彼女に微笑みかける。彼女は一瞬固まった後、顔を真っ赤にして口をパクパクと開閉させる。
「……え、ちょ、ちょっと待て! お、お前何言って……!」
「おや、ダメだったかな? でも、お姉さんを経由に親御さんには挨拶に行くと言っていたんだけれど……」
「は、はぁぁ?!」
 素っ頓狂な声を上げて叫ぶ彼女にくすくすと笑う。やっぱり彼女を揶揄うのはとても楽しいものだ。
「いや、いやいやいや! ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「……うん、なんだい?」
「あ、あたしはまだそんな……」
「あれ、そうなのかい? 私は君の隣に一生いるつもりで愛を囁いたんだけどな?」
 そう言って肩をすくめて見せると、彼女は真っ赤な顔のまま悔しそうに俯いてしまった。少し虐め過ぎただろうか? いや、しかしこれぐらいの方が可愛いし面白いからね。仕方のない事だと思う。
「ふふ、ごめんね。怒らないで。ちょっとしたサプライズをしたくてね?」
「……別に怒ってない。ただ、驚いただけだ」
 唇を尖らせてそっぽを向く彼女に笑みが零れる。全く……本当に可愛らしい子だね。
「そうかい? じゃあ早速行こうか!」
「ちょおい! 待て!! こ、ここ、心の準備をさせろーーーーッッ!!」
 喚き散らす彼女を連れて歩き出す。彼女の事を揶揄ってはいるけれど、別に緊張してない訳では無い。私は異世界から来た旅人だからね……エレンシアの両親にとっては何処の馬の骨かもわからない相手になるだろうからそれなりには身構えているつもりだ。だけど彼女の事もまた手放すつもりもないし、ここばかりは何とかしないとだよね。
 そんな事を考えながら歩いている内に彼女の家に着いていたようだ。エレンシアは私の腕を掴んだままガチガチになっている。
「……君、自分の実家なのになんでガチガチなの?」
「だ、だだだって!! 男連れてきた事ないから!!」
 なんて言われるか! なんて騒いでる彼女を引っ張るように玄関先に向かう。本人が男勝りな自覚があるだけたってやっぱりそうだったのか……と思いつつ、少しだけ嬉しいと思ったのは秘密だ。
「それに、さ」
「うん?」
 エレンシアは不安そうに私を見上げてきた。
「お姉ちゃんに『気になる人がいる』って言ったぐらいで……付き合うって言ったら吐血されて卒倒されたし……いや、まぁそれはお姉ちゃんの癖みたいなもんだけどさ……」
「随分変わった癖だね??」
 私が思わず突っ込むと、エレンシアはだよなと言って遠い目をしながら頷いた。
「だから親にーとか……む、無駄に緊張すんだよ……」
「なるほどね」
 確かに家族に彼氏を紹介するってなったら普通はそうなるのかな? まぁ私にはよくわかんないけど。
「大丈夫、安心して。きっと反対される事はないよ」
「……何でそんな事言えるんだ?」
 じとりと見てくる彼女に向かって微笑んで見せる。すると彼女は不思議そうに首を傾げた。
「なんだかそんな気がするだけだよ」
 それだけ言ってチャイムを鳴らすと、中からガタッと音がしたと思えば一瞬シンと謎の静かな間を置いてから扉が開いた。
「はい……あらエレンシア……と……あなたが?」
 出迎えてくれたのは女性。
「はい、お姉さんからお話がいってるかと思います、ルシと申します」
 チラリとエレンシアを見るとまるでうげ?! とでも言いたげな顔をしている。大方なんでかは予想が着く。どうせ私が敬語を使ってる事に驚いているのだろう。本当にわかりやすい子だ。
「あらあら、ご丁寧にどうも……どうぞ上がって下さい」
 にっこり笑って迎え入れてくれる彼女に促されるままに家に上がる。きっとこの女性はエレンシアの母親だろうと考えつつ促されるまま家の中へ。
 家の中に入ってすぐに目に入ったのは大きな絵画や高そうな壺の数々。まぁ前にいつか貴族だとは聞いていたし驚く事でもない。そんな事を考えつつ案内された客間にはソファーに腰掛けて優雅にお茶を飲んでいる女性がいた。彼女がエレンシアのお姉さんである事は事前に話をしていたからすぐにわかった。
「本日はお時間頂きありがとうございます」
 私は頭を下げて挨拶をすると、母親と思われる彼女は立ち上がって私の方を見てにっこりと笑った。
「いいえ〜こちらこそ娘がお世話になってるようで〜」
 そう言って笑う彼女からはエレンシアのような溌剌とした感じはなくおっとりとした印象を受ける。
「それで? お話したい事とは?」
「……えぇ、そうですね……ああ、いえ。お父様がまだいらっしゃいませんしお揃いの時にでも」
 まだ顔ぶれが揃っていないと判断した私はそう冷静に返す。正直今話しても良いのだが、こういう話はタイミングを間違えたら不味いだろうと思うわけだ。
「それもそうね! お父さんったらいつまでかかってるのかしら……あなた〜」
 そう言ってパタパタと部屋を出ていく彼女を見送った後、さてどうしたものかと考えているとふと視線を感じてそちらに目を向けると、何故か恨めしそうに私を睨んでくるエレンシアがそこにいた。
「……なに?」
「……お前、本当になんなんだ……?」
 困惑気味にそう聞いてくる彼女に首を傾げる。何かしただろうか? と思ったが特に思い当たる節はない。というかそんなに睨まれる覚えもないんだが……?
「……なんでそんな余裕なんだよ……」
 ぽつりと呟いた言葉に
「そう見えるかい? これでも緊張してるんだけどね?」
 とこっそり答える。本当にドキドキしてるんだけどなぁ?
「嘘だろ……お前なんか余裕そうだし……あたしだけが緊張してるみたいで……ムカついてたのに」
 そう言う彼女に苦笑しつつ頭を撫でる。すると不満げに私を見上げてきた。
「あはは、緊張するに決まってるじゃないか。君のご両親だよ? 私の一番大切な人達の前なんだから」
 そう言うとエレンシアはピタリと固まってしまう。そしてじわじわと頬が赤くなっていき、終いには湯気が出そうなほど真っ赤になってしまった。その様子を見ているとつい笑ってしまう。
「ふふっ、君は本当に可愛らしいね」
「なっ……! あ、あたしは可愛くねぇ!!」
 顔を真っ赤にしたまま噛み付いてくる彼女を宥めながら待っていると、傍で見ていたお姉さんが
「ぐはっ!!」
「?!」
「!?」
 突然吐血。
「ちょ、お、お姉ちゃん!」
「ははは……すみません。エレンシアがあまりにも……驚き過ぎてつい……」
 吐血はつい、みたいなものでは無いはずなのだが。大丈夫かこの人と思いながら見ていると、彼女はハンカチで口元を拭きつつ立ち上がった。
「お見苦しいところを見せてしまいました。それよりお待たせしてごめんなさい、そろそろお父さんも来る頃だと思うのですが……」
 にこやかに微笑むお姉さんを横目にエレンシアは私の隣に座りながらもやはり落ち着かない様子でそわそわしているようだった。もう一度言うがここは君の家だろう??
 そんな様子を眺めつつ、出された紅茶に口をつけていると、扉がノックされて開く音がした。
「すまない、待たせてしまったかな?」
 そう言いながら入ってきた男性がエレンシアの父親だろう。彼は私達の姿を見ると穏やかに微笑んだ。
 その様子に私はすぐさま立ち上がり頭を下げる。
「どうもルシ君。君とは初めましてになるね」
「はい、本日はお時間頂きありがとうございます」
 そう言って差し出された手に私も手を差し出して握手をする。ちらりと隣のエレンシアを見れば緊張した面持ちで父親を見ていた。不仲そうでも無いだろうに。いや寧ろ私が普段より冷静過ぎるのだろうか? うーん、わからないな。そんな事を考えつつも雑談をしていると、父親が不意にエレンシアの方に目を向けた。
「……それで、お前はどうなんだい?」
「え、あ、あたし?」
 いきなり話を振られて戸惑う様子のエレンシアだったが、少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「……あたしも、コイツと一緒になるつもりだよ」
 その言葉に満足そうに頷く父親は穏やかな笑みを見せた後、今度は私を見た。
「そうか、ありがとうルシ君。うちの娘をよろしく頼むよ」
 そう言って頭を下げる父親に対して慌てて頭を下げ返し、私は深呼吸をした後……姿勢を正してから真っ直ぐに彼を見る。
「勿論です。必ず幸せにします」
 ハッキリと答える私に嬉しそうな笑みを浮かべた父親は頷いた。それから世間話やらなんやらをした後少しエレンシアが席を外した時に
「ルシ君、少しいいかな」
「はい?」
 父親が不意に話しかけてきた。なんだろうと思っていると彼は申し訳なさそうに眉を下げた。
「君と娘の為に伝えておきたい事があるんだ」
 一体なんの話だろうかと思いつつ頷くと、彼は真剣な表情で口を開く。
「……娘は、少々大雑把で粗暴な所があるだろう? それに短気で思い込みも激しい方だ」
「まぁ、表だけ見ればそう見えますかね」
 私が苦笑しながら言うと、父親も困ったように笑いながら続ける。
「だが、あの子はとても優しい子なんだ。本当は人一倍繊細でね……不器用だからなかなかそれが伝わらないかもしれないが、どうかわかって欲しい」
 そう言った父親の目は真剣だった。きっとこの人はあの子の事を心から心配しているんだと感じた。だからこそ私と娘の関係について真剣に考えてくれていて、こうして忠告してくれているのだろう。その事を嬉しく思うと同時に、なんだか微笑ましい気持ちになってしまった。
「ええ、わかっていますよ。ああでも、よく『あたしなんか……』が口癖で卑屈になる事もありますし、正直私より優れているのに卑屈になる気持ちはよくわかりませんけど」
 父親に言っていいものか悩んだが、まぁ相手も言いづらい事を言ってくれたのだし良いだろうと相手の様子を見る。すると父親は窓の奥を見ながら
「まだそんな事を言ってたのか……」
 なんて呟いていた。その表情は呆れているようにも見えるし、仕方ないなぁという風にも見えるものだった。何故エレンシアは自分が私よりも劣っていると思ってしまっているのか……彼には覚えがあるのだろうか。
「ルシ君、君は気になるかい?」
「……まぁ」
 歯切れの悪い返事に彼は苦笑した後に窓の外を眺めたままこう言った。
「まぁ、君は知っていた方がいいかな」
 そう言ってこちらを向いた顔はどこか寂しそうなもので、けれど覚悟を決めたような強い意志を感じさせる目をしていた。
「このレスティーユには娘がもう一人いたんだが……誘拐されていてね。正直今でも生死は不明……生きている事を信じたいがこの世界の事だ、死んでるか……生きていても魔種になっているか……かね。でも長い年月をかけてその時の覚悟はしているつもりだよ」
「そうだったんですね……」
「あとね……エレンシアにとってはこっちの方が大事かな」
「……と言うと?」
 私が聞き返すと彼はまた苦笑しつつ口を開いた。
「エレンシアは昔、自分の武術の師匠を亡くしていてね……それを自分のせいだと思っているんだ」
「……なるほど」
 何となく理解した私は目を伏せた。もっと詳しく聞けばその師匠は父親の護衛隊長みたいな人だったり、傍に居た執事のお孫だったり、その隣に居たメイドのお兄さんだったりしたんだとか。
 確かにそれなら自分を過小評価してしまうかもしれないなと考えながらも、どこかで下らないとも思えた。
 当時がどんな状況だったのかは知らない。でも故意ではないのなら仕方の無い事だっただろうに、どうしてそこまで自分を責めるのか私には理解できなかったのだ。
 そもそも、そんな事があったとして誰が責めるというのだろうか? それとも責められたかったのだろうか? いや、それは違うだろうなと思ったところで顔を上げた。
「……正直私は旅人で前の世界では途方もない寿命だった為、定命種の思考に寄り添えないところがあるでしょうから全てを理解する事が出来ていないと思います」
 と本音を話した上で
「しかしだからこそエレンシアにはもう過去に縛られて欲しくないのです」
 と続けた。すると彼は驚いたような顔をした後でフッと笑った。
「そうだね……あの子はずっと過去に囚われてる気がするよ。きっと今も……」
 その言葉を聞いた時、きっとこの人達は親であるからこそ心配なのだろうと悟った。
 その後他愛のない話をしてから帰る事になったのだが、その頃にはエレンシアもすっかり緊張が取れていたみたいだった。そんな姿を見てホッとしながらエレンシアの両親、お姉さん、使用人の方々に挨拶をして屋敷を後にした。



 屋敷を出てから暫く歩いたところで不意にエレンシアが口を開いた。
「ごめんな、うちの親が色々……」
 どこか申し訳なさそうにそう言う彼女に私は首を傾げる。
「何で謝るんだい? 君の事が色々知れて楽しかったよ?」
 そう言って微笑むと彼女は照れたのか顔を赤くしながら私を小突いた。それを受けつつ帰り道を歩く中、ふと思いついた事を口にする事にした。
「……じゃ、今からデートしようか?」
「おう……うん?」
 首を傾げながらこちらを見てくる。私はそんな様子に笑みを浮かべながらも続けた。
「だってここに来た時に『終わったらデートをするのもいいかな』って言ったじゃないか」
「そ、そう言えばそうだった、っけ……」
 彼女の顔を覗き見れば案の定恥ずかしそうに顔を赤らめているのでまた頬笑みを浮かべる。
 こういう所は可愛いんだよなぁと思いながら彼女の手を取り、指を絡めるようにして繋ぐ。
「なっ……!」
「デートだからね?」
 にっこり笑ってそう告げると彼女は顔を赤くしながらも黙って手を握り返してくれた。素直でよろしい。
 そんな彼女の様子に満足しつつ私達は手を繋いだまま街の通りを歩く。街行く人達はそんな私達を見て微笑ましそうに見ていたり、いろいろだ。別に気にする必要も無いだろうが、隣を歩く彼女にしてみると見なくてもソワソワしているのが伝わり微笑ましい。そんな事を考えている間にとおる店に着いたので中に入る事にした。

 ──カランコロン。
 ベルが鳴る店内に足を踏み入れると店主がこちらを見て微笑んできた。
「いらっしゃいませ」
 そこはこじんまりとした喫茶店。海洋の海を窓から眺めつつお茶を楽しめる人気のお店だ。
「こんにちは、席は空いていますか?」
 私がそう聞くと店主はにこやかに微笑み
「はい、空いておりますよ」
 と答えてくれたのでそのまま窓際の席へ案内してもらった。落ち着いた雰囲気でなかなか良い感じだと満足しつつ席に着き、私はエレンシアへメニューを渡すと彼女はそれを受け取り中を開きながら私を見た。
「お前、何にするんだ?」
「ん? ああ、私は紅茶にしようかな」
 私がそう言うとエレンシアは少し悩んでからメニューを閉じた。
「あたしもそれでいいや」
 どうやら同じものでいいらしい。という事で二人揃って注文する事にした私達は店主を呼んでそれぞれオーダーを済ませた後に窓の外を眺めつつ一息ついた。この店のオススメはシーフードパスタらしいのだが今回は飲み物だけにしておいた。まだ昼下がりだったし、お昼自体は先程屋敷で振舞ってもらったし、ここに来たのは言わば休憩と言ったところだ。暫くすると飲み物が運ばれてきて、それを一口飲んでから一息つく。うん、美味しい。
 向かい側に座っているエレンシアも満足そうに微笑んでいるのを眺めながらまた紅茶を一口飲んだところで彼女と目が合った。
「それで? どうだった?」
 唐突にそう聞いてきた彼女に私は首を傾げつつも素直に答える事にした。
「……何がだい?」
「何って……うちの親と会ってみてだよ」
 ああ、なるほどそういう事かと思いつつ少し考えを巡らせてから口を開く。
「娘思いの両親だと思ったけど?」
「っそ、そうか……」
 何故か照れくさそうに顔を背けるエレンシアを見て笑みが零れる。こういうところが可愛いんだよなぁと思いながら外を見ると先程よりも人通りが多くなっていた。天気も良いし、家族連れや恋人同士で賑わっているように見える。こういう所を散歩するのも良さそうだと思いつつ再び紅茶を一口飲んだところで彼女が口を開く。
「……なぁ」
「ん?」
「……嫌じゃなかったか? あたしと会って」
「……急にどうしたんだい?」
 不安げに聞いてくる彼女に疑問を投げかけるとエレンシアは言いづらそうにしながらも続ける。
「だって……あたしはこんなんだし、お前も最初っからなんか嫌味だっただろ? そんな奴と親紹介までしたってさ……わからないもんだなって」
 ああ、そういう事だったのかと納得した私は笑みを浮かべつつ彼女を見る。私の言葉を不安そうに待っている彼女はまるで小動物のようでとても愛らしかった。そんな彼女の頭にポンッと手を置いて優しく撫でてやる。
「ちょ、おい! 何すんだよ!」
 慌てて私の手を払い除けるエレンシアに構わず私は言葉を続けた。
「君は本当に変なところを気にするね? 嫌だったらそもそも私は君の事を気にも止めてないんだけど?」
「……そう、かよ」
 唇を尖らせながら拗ねたようにこちらを見る彼女に苦笑しつつ続ける。
「君は私に好かれている事、そろそろ自覚して欲しいところだね?」
「なっ! そ、れは……ッ」
 そう言って笑いかけると彼女は顔を赤くして黙り込んでしまった。私の思いを告げてからまだ半年は満たないが、夏のあの日をふと思い出す。
「……さて、そろそろ行こうか?」
 私は伝票を手に立ち上がるとそのままレジの方へと歩き出す。その後ろをエレンシアが慌てて追いかけて来るが私が彼女に支払わせるなんて下手を取る訳もなく、会計を済ませてそのまま店を出る。彼女は私の隣に並ぶとこちらを見上げつつ口を開いた。
「つ、次はあたしが奢るからな!」
「はは、期待しないでおくよ」
 そんな会話をしながら店を出る私達。長く話していたからか、潮風混じりの木枯らしが吹く季節だからか、空は微かにオレンジかかった色味が見えた。
「さて、最後は海がよく見える場所にでも行こうか、エレンシア」
 そう言って手を差し出せば彼女は少し迷ってから私の手を取った。その手を引いて歩き出す。
「今日はありがとう、とても楽しかったよ」
 素直にそう言えば彼女の顔が赤く染まるのが見えた。夕日のせいなのかそれとも照れているのか、それはわからないけど……彼女の態度から後者だといいなと思う事にした。

──
────

「今日はどうだった?」
 今度は私からそう問いかけると彼女は少し考えてから口を開いた。
「……悪くはねぇけど、やっぱデートって気恥ずかしいな」
「そこは慣れていこう、ね?」
「んぐ……」
 彼女は不満そうだが私はとても楽しかった。これからももっと彼女を喜ばせたいと思うし、それに……決めた事がある。

「……聖夜シャイネン・ナハトにだってデートに誘うつもりだよ? 君は人気者だけど、私の為に少しでも時間を空けておいてくれると嬉しいね?」
「……お前、そう言う所だぞ」
「うん? どう言う所だい?」
「何でもねぇ!」
 そう言ってそっぽを向く彼女だったが、ちらりとこちらを見てはまた視線を逸らすと言う事を繰り返している。
 それを笑いながら見ていると不意に彼女が口を開いた。
「楽しみに、してる」
「うん、勿論後悔はさせないさ」
 そう言いながら後ろから抱き締めると彼女の身体がぴくりと跳ねた。だがそれも一瞬の事で恥ずかしそうにしながらもこちらへ振り返ってきた。そんな彼女が愛しくて仕方ない私はそのまま口付けを落とすだけ。

  • 木枯らしの穹完了
  • NM名月熾
  • 種別SS
  • 納品日2023年11月13日
  • ・エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881
    ・ルシ(p3p004934

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