PandoraPartyProject

SS詳細

爆発。それ即ち科学。文明の夜明けの光なのである!

登場人物一覧

物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
物部・ねねこの関係者
→ イラスト

 練達こと、探求都市国家アデプトの首都セフィロト。
 そこは中央制御システム『マザー』による徹底した管理によって快適で安全な環境が保たれた近未来都市。優秀な頭脳によって築かれた叡智の楽園なのである。
 そんなセフィロトドーム……のちょっと外側。周囲に建物はおろか、立木の一本も生えていない土地があった。
 大小様々な窪みだらけの剥き出しの地表に引かれた一本の白線。薄くなりかけたそれを辿って歩きながら、 物部・ねねこ (p3p007217)は炭酸カルシウム粉で満たされた赤い白線引きをガラガラと引いていた。
 何も知らない者が見れば、ごく普通の女子中学生がグラウンド整備をしているように見える……かもしれない。
(もしも、全然違う所に線を引いたら誰かが爆死しちゃうってことですよね。と言うことは……爆死体が出来ちゃうってことですよね!?)
 ねねこの眼鏡がギラリと光り、心拍と呼吸の間隔が僅かに短くなる。垣間見えたのは、一見ごく普通の女子中学生に秘められたネクロフィリア死体愛好家の性。いやあんま秘められてないな。
 白線と、白線を引くための(一部の旅人にとっては)懐かしい赤い器具はこの土地を訪れる『来客』の為に用意されたものだ。白線の上はつまり、地面の上にも下にも無数に存在する『危険物』をウッカリ起動してしまう心配のない安全地帯なのだ。ちなみに、よく位置が変わるし消えたりもする。
 何故、こんな物騒な土地にねねこがやって来たのか。その答えは凸凹だらけの空き地の先、小高い丘の上に立つ歪な形状の研究所にある。


 内なる誘惑の声に抗いながらねねこが研究所に辿り着いたその時、小規模な破裂音が大気と地面を揺らした。
「Dr.Bonby。入りますよー」
 この程度ならまだジャブのようなもの……とねねこが思ったその直後、振動がいい感じにクリティカルしたのか背後では小規模とは言い難い爆発音がドカンドカンと立て続けに響いた。
「わ、わわっ!?」
 イレギュラーズとしてそれなりの経験を積んできたねねこだが、それでも本能的に危機を感じ取り身体を縮めて頭を抱える。
 降り注ぐ破片から頭を守りながら、慌てて――インターホンは破壊されていたので――リズムよくノックを刻み、煤けたバーハンドルに手をかけた。
「むっ! ……おお、ねねこではないか! よく来たな!」
 研究所の内部はアルミやプラスチック製のフレームや色とりどりの配線、基盤やらその他よく分からない何やらが並べられ、積み上げられ、放り投げられた雑然とした様相であった。
 そんな中、(これもまた一部の世界の旅人にとっては)よくある車輪付きの事務椅子に座ったままシャーッと滑って来てねねこを出迎えた緑色の肌の小男こそが、ねねこがこの場所にやってきた理由であり研究所の主であるDr.Bonbyなのである!
 そして勿論事務椅子には自爆機能付き!いや何が勿論なんだ。
「今日はどのような爆弾が必要なのだ! 言ってみろ! さあ! ほら! なあぁ!!」
「え、ええっとですね……」
 椅子から飛び降りてまとわりついてくるDr.Bonbyを手提げかばんでさりげなくガードしながらねねこは手短に要件を告げた。

 Dr.Bonbyは異世界からやってきた科学者兼発明家の旅人だ。豊かな発想力とそれを実現する技術力、行動力は天才のそれと言って良い。他の技術者と比べるまでもなく優秀な人物だ。
 では何故、わざわざ練達のほぼ全てである快適なドーム内ではなく、『外』の辺鄙な場所に研究所を構えているのか。
 その理由は彼の発明品の性質にある。
 っていうかもうハッキリ言ってしまうと彼は爆弾に魅せられ、爆弾を愛し、爆弾に全てを捧げた爆弾狂なのだ。爆弾以外のものも作れるが、それら全てには自爆機能が搭載される。と言うか、本人的には爆弾に便利な機能を付けているだけのつもりなのだ。勿論、現在12代目の研究所にだって自爆機能が……あれ?もしかして彼的にはここも研究所である前に爆弾……?
 まあ要するに、彼の危険な才能はドームの中なんかには収めてはいけな……収まらないのであぁる!
「……ヒールグルネードの改良版を、か。なるほど、素晴しい! 吾輩に任せておくのだ!」
 Dr.Bonby研究所の片隅に置かれたテーブルの上にあったガラクタを腕でガーッと退かして、黒光する丸っこいデザインのカップをねねこの前に置いた。勢いが良すぎてだいぶ溢れて飛び散った。
 Dr.Bonbyは見るからに癖の強い男だが、ねねこへの態度は友好的だ。何故ならば、研究の諸経費に加えて合計11回の研究所の再建費用のお陰で常に金欠。こうして爆弾製作の相談依頼にやってくるねねこは歓迎すべき貴重なお得意様なのだ。
「はい。私も混沌で経験を積んで大分成長したので、もっと威力のある……」
 ドッカーーーン!!!
 手荷物にまで散ったお茶らしき飛沫を拭いつつ、本題に入ろうとしたねねこを遮ったのは唐突な爆音、閃光。
「……!?……!!??」
 悲鳴を上げるよりも先に、眼鏡を抑えたのは眼鏡常習者の性か。或いは突然の展開を脳が処理しきれなかったのか。
「科学とは爆発なのだ! 見よ、そして聴け! 物質と物質が結びつき激烈な科学反応によって生ぜられる光と熱の美しき調べ! これぞ黄金の夜明け! 全ての始まりたる光の顕現なのでぁぁぁある!!!」
 連鎖爆発をバックにうわはははははは!と高らかに笑うDr.Bonby。その手元をよく見て見れば、握り押しボタン式のスイッチを親指で連打している。もしかしなくても起爆スイッチだ。やめて!室内なのよここ!
「でっ、ですから! 今後の為にもっと破壊力……じゃなくて回復力のある爆弾を作ってもらいたいんです!」
 テーブルを乗り越え、これ以上の暴走を阻止せんとDr.Bonbyの親指を掴んで捻るねねこ。視線を下に向ければ、ねねこ人形も必死に白衣を掴んで引っ張っている。ちなみに、この小さく可愛らしいねねこっぽいロボにも自爆機能が搭載されている。
「こんなこともあろうかと! 吾輩はとっておきの手法を完成させていたのだ! これによって爆発力を直接回復力に変える事が可能にぃ、なったのだァ!!!」
「わぁいすごいですね! では早速それでお願いします!!」
 やべーやつがもっとやべーやつを抑えつつ、会話だけは滞りなく進む奇妙な光景。
 何度かDr.Bonbyの研究所を訪れたねねこは、Dr.Bonbyの言葉を下手に遮るとかえってややこしいことになると学んでいた。

だが、しかし……。

「よかろう! 見ろ、そして聴け! これが爆発的な癒やしの力! 直接的な破壊だけが爆弾では無ぁぁあいのだァ!」
 カチリ。とねねこの足元で音が鳴った。
 見れば、そこには赤と黄の縞模様のラインで囲まれた赤いボタン。そんなカラーリングにするぐらいなら、うっかり踏んじゃいそうな配置にしないで欲しいとねねこは切に思った。


 凄まじい爆発の破壊力によって抉られ形作られた巨大なクレーターの真ん中で、Dr.Bonbyの高笑いは今日も元気に響き渡る。
「わぁ……きれい」
 輝く光の粒子となって、ゆっくりと天より舞い落ちる癒やしの力をねねこは手のひらで受け止めた。
(今度から、用事は手紙で済まそうかなぁ……?)
 打撲やら火傷やらが治癒する心地良い感覚にほっと息を吐きつつ、ぼやりと考えるねねこなのであった。

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