PandoraPartyProject

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夜明けを過ぎ、白天に思い、去ればまた輝く極光に

登場人物一覧

トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ
トール=アシェンプテルの関係者
→ イラスト


 鉄帝の西、銀雪の森の中。
 銀花に彩られた花の道を彼女は歩いていた。
 周囲の銀花さえも色あせる美しい銀糸の髪を揺らして、見物でもするように。
 ここはトール=アシェンプテル(p3p010816)が手にした鉄帝国の内部の領地である。
「よく手入れされているようだな」
 ざっくりと巡察を終えたルーナ・フローラルナが花畑の一角にある東屋にて腰を下ろす。
「ありがとうございます! 今日は何かあったのでしょうか?」
「なんだ、何か無ければ近衛騎士の下に訪れては駄目だったのか?」
「そ、そういうわけではないですけど、ルーナ様らしくはない気もするというか!」
「ふ、冗談だ。小賢しい問答は面倒だ。さっそく本題から入ろう」
 そう言って軽く笑ったルーナの姿は、向こうにいた頃よりも少しばかり柔らかくなったようにも思えた。
 天上天下唯我独尊、傍若無人な堂々とした女王として生きてきた主君は、こちらに来て多少なりとも女王という立場から降りたということだろう。
 それでもこれまでに染みついた『女王仕草』とでもいうべきあり方はどうにも変わっていないらしい。
「まずは……これだ」
 ことりとテーブルの上に置かれたのは、1本の枝。
「これはハシバミの……」
「トール。これを使って今からキミのAURORAを調整、ついでに強化をしようと思っている」
「……じゃあ、またAURORAや輝剣が使えるようになるんですね!?」
「いや? AURORAはともかく、輝剣は無理だろうな」
 ずい、と前かがみになって問いかければ、ルーナは首を傾げて否定すると、背もたれに深くもたれかかり足を組んだ。
「……そんな」
 そっと、輝剣の柄に触れる。
 お守りの代わりに肌身離さず持ち歩いているそれは反応を示さない。
「ここから見ても分かるほどその剣はボロボロだ。本格的な修理が必要だろうな」
「本格的な修理……直すこと自体は、出来るんですか?」
「あぁ、そっちの修理はAURORAに比べて時間がかかるだろうが、可能なはずだ。
 ついでだ、剣としての機能も強化しておこう。いったん預けてもらえるだろうか?」
「ありがとうございます……良かった……」
 ほっと安堵の息を漏らし、輝剣をルーナに手渡したトールは、その表情を見てその顔が少しばかり厳しいものであることに気付いた。
「……それよりも、だ。トール、キミは輝剣これがどういう物かわかっているのだろうな?」
 腕を組んだまま、そう語るルーナの表情はかなり険しい。
「どういう物? あ、そういえばさっきもって」
「わかってないんだな……いや、教えてなかったか、仕方あるまい。この機に説明しておくべきだろうな」
 頭痛でも抑えるように呟いたルーナはコホンと一つ咳払いをして。
「いいか、トール。輝剣はだ。
 武器としての用途はオマケに過ぎないものだ。
 残念ながら、ドレス機能は故障しているようだが……そちらも含めて直すとしよう」
「オーロラドレスの、格納、ですか?」
「オーロラドレスはキミの力になるはずだ……が、そのためには大量のAURORAエネルギーが必要になるだろう。
 今のままではどちらにせよ使い物にならんだろうな」
 言いながら、ルーナは何やら多数の術式のようなものを展開し始めていた。
「キミの方から聞きたいことはあるか? 始めるまで少し時間がある」
「……それなら、ルーナ様は今までどこで何をしてたんですか?」
「そんなことが聞きたいのか?
 ……そうだな、キミがこの世界に呼ばれた後、我が国では反乱があったんだ。
 歴代最高とも言われていたペロウと、それを破ったキミが一気に消えたことによる混乱が私のことを嫌うデモに発展したようだ」
 すさまじい速度でキーボードでも触るように指を躍らせながら、ルーナは語り始めた。
「最終的に私は投獄され、尋問の最中に気付いたらこちらにいたんだ。
 その後は練達に潜りながらキミが鉄帝、覇竜で活躍しているのを見ていた」
「なんですぐに会おうとしなかったんですか?」
「本物の竜を相手取るのに今までのAURORAでは物足りないだろう。
 そこで新型を作ることにしたんだ」
 準備でもできたのか、手を止めたルーナがトールを見た。
「だがキミとあの3人が遭遇したらしいことを知った。ならばもう、こそこそとしても意味がないだろう」
「あの3人? 誰のことですか?」
「それは……いや、止めておこう。今回のことと何の関係もない」
 何かを躊躇うように目を伏せたルーナはそう言って首を振ると、改めてその瞳を開く。
 天色の瞳は静かにトールの瞳と交わった。
「さて、こっちに来てくれ、トール」
 緩やかに手招きされ、トールはそっとルーナの下へと歩み寄る。
「そこに立っていてくれればいい」
 指示されるまま、トールは地面に描かれた陣のようなものに足を踏み入れる。
 不思議な感覚が体を覆いつくしていく――いや、どちらかというと身体の内から浮かび上がってくる。
「ところで、トール。AURORAが何かわかっているのだろうか?」
 くすぐったいような感覚に包まれながら、不意にルーナが声をかけてくる。
 首を振ってみれば、彼女は「ドレスのことも説明がまだだったのだから当然だな」と小さく呟き。
「AURORAは私が『失われた科学技術ロストテクノロジー』を用いてキミのことを守るために開発したものだ。
 どうやらこの辺りはキミの友人の魔女や神様が気づいたようだな。
 これは本来、能力を持つ」
 すさまじい速度で何かの画面を見ながら視線を動かすルーナはもう1つ別の頭でもあるかのようにつらつらと説明を始めていた。
「どうやらこの世界ではせいぜいが程度にしか使えないようだ。
 混沌の……練達の科学力があっても、混沌肯定が働いている以上、強化は難しい。
 そこで、今回はこの枝の持っているだろう力――『願いを叶えてくれる力』を重ね合わせる。
 少しばかりじっとしていろ、下手に動いて誤作動を起こしても困るだろう?」
 こくりと頷いた辺りで、ルーナは視線を浮かぶ謎の画面に視線に戻す。


「……どうやら無事に適合したようだな」
 時間にして数分、何かを見て頷いたルーナがトールへと視線を向けてもう一度頷いた。
「これでAURORAはキミにようになっただろう。
 それを扱いきれるか否かはキミ次第だ」
 腕を組んで微笑んだルーナはそう言うと、背もたれにもたれ少し深く息を吐いた。
 目の前の主もほんの少しばかり緊張していたのだろうか。
「……あの、ルーナ様」
「なんだ?」
 そんな彼女へトールは新たな疑問を抱いていた。
「……AURORAはルーナ様が作ったんですよね? 純粋な感情エネルギーって何のことなんですか?」
「言い訳や正当化されていない根っこの感情のことだ。キミの場合は……羞恥心だ」
「羞恥心……ど、どうして!?」
「何を以ってエネルギーとするかは人によるが、何故だろうな。
 こればかりは私にもわからない」
 そう言ってルーナは目を伏せた。
「手っ取り早く羞恥心を抱いて貰うために、取り合えずは女装させたんだが」
「え」
 さらりとしたカミングアウトにトールは目を瞠る。
「――だが、それももう難しいだろうな。
 正直に言ってくれ。キミ、女装に慣れてきてるだろう」
「それは、その……」
 認めたくはなかった。
 だが正直なところ、慣れてきているというのはあった。
「だからだよ、AURORAが機能不全になったのは……実際のところ、AURORAは壊れてすらいないんだ。
 キミはそう思ったのだろうが、そうではない」
「……僕が、女装に慣れて羞恥心が薄れてしまったから、エネルギーが不足したってことですか?」
「端的に言うとそういうことになるだろうな」
 何とも言い難い表情を浮かべてルーナが頭を振った。


「そ、そんな……じゃあ、僕のこのギフトはどういうことなんですか?」
「……ふむ、不幸を呼ぶという物だったな。それの正体なら、推測は出来ている。
 キミの友人の神様が同じようなことを言っていただろう。
 そのギフトは、キミを守るための物――つまり、AURORAそのものだと思われる。
 こちらに来たことで私の言葉が紐づいてしまったのだろう」
「僕を守るのに、どうして僕が不幸になるんですか……?」
「キミが男性とばれてしまえば、女装をする必要はなくなるだろう。
 する必要が無いのなら、キミはしないだろう? そうすればどうなる?」
「……AURORAのエネルギーが供給できなる?」
「そうだ。最後には加護さえも失ってしまうだろう。
 そのために、AURORAがキミに警告している――という可能性がある」
「……解呪は、あきらめた方が良いんですか?」
 声を震わせたトールにルーナは少しだけ目を伏せる。
 どこか申し訳なさそうにも見えるのはきっと気のせいだろうか。
「……そうだな、AURORAやキミ自身にどんな影響が起こるか不透明だ。
 今回の強化でキミが解呪を願うのならば、そのための力を貸してくれる――かもしれない。
 もしかすると、多少は軽減されるかもしれない」
 明言を避けているのはそれが正しいとは言い切れないからだろう。
「それから、もう1つ」
 そっと瞼を開き、ルーナが真っすぐにトールを見た。
「先に言ったが、キミが女装慣れして羞恥が薄れた今、AURORAエネルギーの生成、収集に効率が下がるだろう」
「は、はい」
 切り口からして嫌な予感がして、トールの声は思わず震えていた。
「いっそのこと、女と遊んでこい。お気に入りの女ぐらいいるだろう。
 そいつ全員と付き合ってみろ。頼み込んで同衾もしてこい」
「な、ななな、なにを言ってるんですか!? 冗談でもそんな!」
「なんだ、私が冗談を言うと思うか?」
「言ってましたよね! ついさっき! それに、そんなことしたら友達無くしちゃいますよ!」
「…………仕方ない。それならぐらいでも構わない」
「そんな無茶な……世界が大変な時に僕だけ女の子とデートなんて……しかも女装して」
「必要な事だ割り切れ。それでも不安だというのならAURORAについて説明して協力を求めることだな。
 女はストレートに誘うよりも言い訳を用意してもらった方が素直になる事もある」
「なんだか弱みに付け込むみたいで嫌なんですが……」
「そもそも、ローレットの連中も依頼の合間にデートの1つや2つしているだろう。
 キミとキミが誘う相手だけがそれをしてはいけないなんていう理由はないだろう」
「それは、そうですけど……」
 少しばかり頭痛を感じて頭を抱えながら、その一方でトールはどこか懐かしさを覚えていた。
「……トール」
「何でしょう、ルーナ様」
 改めて名を呼ばれ、トールは顔を上げた。
「――また会えてよかった。キミが嫌と言うまで傍にいる」
 そう言ったルーナは温かく、静かな微笑みを浮かべていた。
「――僕も、貴女と再会できて嬉しいです」
 その言葉は間違いなく本心からの物だった。
「一刻も早く、AURORAエネルギーを充填することだ――シャルールを助け出すためにもな。
 彼女は私も嫌いではないんだ」
 最後にそれだけ言って、ルーナは椅子を引いて立ちあがった。
「――そうですね」
 帳の彼方にあるシンデレラステージにいるであろう、彼女を助け出す覚悟を静かに胸に秘め、トールは頷いた。

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