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湯船にアヒルを浮かべて
湯船にアヒルを浮かべて
登場人物一覧
――ニル、おかいものをしませんか?
そんなメッセージが届いた翌日、ニルは胸を躍らせながらテアドールを待っていた。
待ち合わせというものは、こんなにもソワソワするのだとニルは指先で遊ぶ。
寂しいのと期待とが混ざり合って落ち着かない。けれど、嫌な気持ちでは無い。
「お待たせしました、ニル」
「あ、テアドール!」
聞こえて来た声にニルは思わず駆け寄った。
ベージュのコートに栗色のホットパンツと帽子、生成りのニット。アクセントの淡い青緑のスカーフが綺麗でニルは目を細める。ほんのり金木犀の香りもする。
「いいかおりですね」
「あ、研究所の庭に金木犀が咲いたんです。だから触ってたら付いたのかも」
秋の初めに咲く黄金の花は、柔らかくて優しい香りがする。
「何を買うですか?」
「バスソルトというものを買いたくて……今度、ニルと一緒にお風呂に入った時に使いたいなと」
「一緒にお風呂に?」
テアドールの言葉にニルは首を傾げる。
二人で入るお風呂はきっと楽しいに違いない。
「楽しそうです。どんな香りがいいでしょう?」
「そうですね、ラベンダーやベルガモットは好きです」
良い香りのハーブや花は心が安らぐと情報にはある。
けれど、それを実感するには誰かと共有する必要があった。
ニルとであれば、それが分かるのではないかとテアドールは考えたのだ。
「ニルはどんな香りが好きですか?」
「二つ入れるんですか?」
「いえ……次の機会に入れましょう。何度だって、一緒に入りましょう」
テアドールの言葉にニルは嬉しそうに頷いた。