PandoraPartyProject

SS詳細

【RotA】Battle in arsenal !!

登場人物一覧

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
日向 葵の関係者
→ イラスト


「オラァ!」
「動きが雑過ぎるな、そんなんじゃ簡単に読めるっス」
 鉄帝、ラド・バウ。そのトレーニングルームで威勢のいい声と激しい打撃音が響く。
 野性を感じさせる眼で睨みつけながら、荒々しく拳を振るうのは拳修。そして、その拳を冷静受け流し対峙するのは葵。
 二人は更なる高みを目指し特訓に明け暮れていたのだ。
 葵にとっては近接戦に持ち込まれた想定で、拳修にとっては同じく近接戦を得意とする相手と対峙した想定で、それぞれ全力でぶつかり合う。
 拳修が力任せに振るう拳と蹴りは、武術や流派など存在しない独学の喧嘩殺法だが、鍛え上げられたその膂力から放たれる一撃は、直撃すれば岩をも砕くほどに強力。
 だが、それを上手く躱すことが出来れば隙となる。
「このっ!」
「終わりっス」
 拳修が放つ大振りな一撃を紙一重で躱した葵が、その手首を掴むと背中側に捩じり上げながら地面へと押し倒した。
「勝負あり、スね」
「イテテテテッ! ちくしょー、負けちまったぜ! 次は俺が勝つからな!」
 がっちりと極められてしまい抜け出せないと分かると拳修は素直に負けを認め悔しがる。
 そんな様子にふっと微笑むと、立ち上がった葵は掛かってこいと構えを取り、拳修もそれに応じて再び拳を握りしめて第二ラウンドが開始される。


「ふぅ……。今日はこれくらいにしておくっスか?」
「だな。 どこかでメシ食ってこうぜ」
 一日中の特訓で汗だくとなった二人。タオルで汗を拭きつつ水分を補給していると、時間は夕方近くになっていたようだ。
 トレーニングルームに併設されたシャワールームで汗を流してさっぱりとすると、鉄帝の町を散策しつつ夕食は何がいいかと見て回る。
 動いたあとはやはり、がっつりとした肉がいいだろうか。などと話ながら歩いていると、遠くでなにやら騒がしい音が聞こえてきた。
「なんだ? ちょっと行ってみようぜ」
「なんか、嫌な予感がするっスね……」
 不穏な気配を感じて拳修が音の方へと向かうと、それを追って葵も走る。
「すんません。なにがあったのか聞いてもいいっスか?」
「あぁ、実はね……」
 人だかりの中から女性の悲痛な叫びが聞こえてきた。ただならぬ事態が起きているらしいと直感した葵が野次馬の中から手近な人に声を掛けて事情を聞いてみると、何が起きたのかを詳しく教えてくれた。
 なんでも、近くの商店を強盗が襲ったらしい。強盗は銃器で脅すと店内の金や貴重品を集めたのだが、当然そんな事をすれば通報もされる。
 店の外で一部始終を見ていた人が通報して衛兵が駆けつけるも、そうなると今度は店内にいる客を人質に取ったらしい。
 そして人質を盾に逃走用の車を用意させると、人質ごとどこかへと走り去ってしまったという。
「許せねぇなぁ!」
「そう言うと思ったっスよ……」
 話を聞いて拳修が掌にぱしりと拳を打ち付ける。話によると人質は女性や子供が多かったらしい。白昼堂々と行われた強盗も許せないが、無力な女性や子供を悪びれもなく巻き込みあろうことか盾に使ったという犯人の卑劣さは許しがたく、瞳の奥には憤怒の炎が激しく燃え滾っていた。
 こうなってしまうともはや拳修を止められる者はいない。やれやれといった様子で葵も拳修の後を追うが、葵としても強盗を見過ごすつもりなどなく、すぐに拳修に追いつくと二人で強盗を追うのだった。


 強盗の足取りを追うのは簡単だった。
 あれだけの騒ぎを起こしたのだから目撃証言は幾つもあり、車が地面に残した車輪の痕もあって町はずれの廃倉庫に逃げ込んだことはすぐに分かったのだ。
 廃倉庫はかつて武器や兵器を保管していたものらしく、強盗たちのアジトにはうってつけだったのだろう。流石に当時の武器や兵器があるとは思えないが、万が一は想定しておくべきだろう。
 今にも飛び出していきそうな拳修を抑えつつ、葵は状況を整理する。
 強盗犯にはラド・バウ闘士数名も含まれるらしい。衛兵は偵察を送り込んではいるが、本格的な対処に当たるにはそれに対抗できるだけの戦力を集めてからになるため、まだ到着はしていない様子。
 今すぐに人質救出に動けるのは、この場にいる葵と拳修の二人だけというのが現状だ。
「どうする? ……って聞くまでもなさそうっスね」
「当たり前だ! 今動けるのが俺たちだけってんなら、俺たちだけでカチコミに行くぜ!」
 拳修がそう答えることは葵にも分かっていた。
 その答えにやはり、と思いつつも頷くと二人でそっと廃倉庫に近づいていく。
 廃倉庫の周辺は高い柵で囲われており、中の様子を見ることは出来ないが出入口となっている門は僅かに開いており、そこから中を覗くことは出来そうだ。
 柵伝いにそろりそろりと門へと迫るが、敷地内は不思議と静かだった。人質のすすり泣く声は聞こえるものの、犯人と思われる連中の声は全く聞こえてこないのだ。
 門の隙間から敷地内を覗いてみれば、やはり犯人らしき連中の姿は見えない。その代わり、倉庫の奥に一纏めにされている人質と、その前に気を失った状態で縛られ無造作に転がされているラド・バウ闘士が数名見えた。
 こちらのラド・バウ闘士は犯人ではなく、現場に居合わせ応戦した者たちだ。強盗相手に果敢に立ち向かったものの、戦力は強盗の方が上回っていたのだ。
「この感じは全員一方的にボコられたみてェだな、だが辺は妙に静かだぜ葵。経験上大抵こういう場合は……」
「……なるほど、気づけば囲まれてるってワケっスね」
 恐らく、強盗側も葵たちの追跡に気付いているのか、或いは衛兵たちが救出した時に備えているのだろう。人質たちを見つけて慌てて駆けよれば、その周囲で息を殺して待っていた強盗達に完全包囲されてしまう。といったところだろうか。
 そうして、衛兵たちを更に人質にして身代金でも要求するつもりなのかもしれない。
「問題は、強盗がどれだけいるかっスね。実行犯だけでも十人以上、アジトの留守番も含めれば……」
「知るかよ! 正面突破でぶっ飛ばしてやるぜ!」
 血気に逸る拳修の脳裏に過るのは幼き日の父との会話だ。


『母さんと弟達はお前が守れ』
 幼い拳修の頭を優しく撫でながら父が言った言葉が拳修の人格形成に与えた影響は小さくはない。
 出張が多く仕事で家を空けがちだった父が、家を出る時に寂しいと泣く拳修に言っていた。それは留守中に家の事は任せたという父からの信頼の現われのように感じられて、拳修の胸の奥深くに刻み込まれることとなったのだ。
 それが転じて女性や子供――自分よりも幼い者を守るという決意と使命感を胸に生きていくようになると、弟やその友達が公園で上級生にいじめられていると聞いたら即座に駆けつけ、上級生相手に喧嘩を繰り広げ、進学して大きくなってくると、不良グループに絡まれていた女子生徒を助けることもあった。
 そうしているうちにいつの間にか拳修を慕う者たちが集まり、その頂点に拳修は立っていたのだ。
 しかし、それでも拳修は驕ることなく弱き者を助け続けた。それはこの混沌に召喚されてからも変わらない。


 そんな拳修にとって、目の前の状況はとてもではないが看過出来るものではないのだ。
 罠を承知で恐れることなく廃倉庫の中へと飛び込んでいく拳修と、その一歩後ろを走りながら周囲の警戒を行う葵。
「なんでぇ。衛兵どもかと思ったら、ガキ二人じゃねぇかよぉ」
「っ!」
 やはりというべきか。人質の下まではすんなりと辿り着くが、その瞬間に物陰からぞろぞろと強盗の仲間たちが現れてきた。
 これだけいれば、ラド・バウ闘士がやられてしまったのも頷けるが、どれだけ数がいようと関係ない。無法を働く者には相応の対価を払ってもらう。それだけだ。
「もう大丈夫だ、俺たちが助けに来たからな。――テメェら覚悟しやがれよ!!」
「ぐはぁ!?」
「や、やりやがったな! お前ら、こいつらもたたんじまえ!」
 涙を流す少女の頭を、いつかの父のように優しく撫でると拳修は立ち上がり強盗団を鋭く睨みつける。
 電光石火。
 次の瞬間には強盗団の一人が顔面に拳を叩きつけられ吹き飛んでいた。それを皮切りに強盗団の方も武器を持ち出し襲い掛かってくるが、一度火のついた拳修を止めることなどできはしない。
 振り抜きの瞬間を狙って背後から襲い掛かってくる男を反転しつつ蹴りで上に蹴り上げると、落下するよりも速くにその足首を掴み振り回して武器へと変えれば、何人もの強盗を纏めて薙ぎ払っていく。
 烈火のごとく猛る拳修は、得意の喧嘩殺法で多数の強盗団相手に互角以上に渡り合う。それは、一見して無駄の多い戦いかたかもしれない。
 だが、葵は知っている。特訓の時にはいろいろと言いはしたが、これこそが拳修が最も力を発揮できる戦い方であるのだと。
「お前の相手はこっちだ!」
「分かってるっスよ」
 正面からサーベルが振るわれるが、葵は動じることはない。
 明鏡止水。
 拳修とは対照的に、風のない水面のように落ち着いている葵は、冷静にその軌道を読み取ると白紫の手甲で受け流し、カウンターを合わせる。
 的確に急所を抉る一撃に、向かい合った男は苦悶の声を上げる間もなく地へと沈む。畳みかけるように前後左右からどんどんと押し寄せてくる強盗たちだが、素早く視線を巡らせて瞬間的に状況を分析すると、それに合わせて体を動かす。
 一人目。右側面からの剣を上半身だけ反らして紙一重で避けると、右の裏拳で鼻の頭を強打。
 二人目。反対側から迫ってきた一撃を左の手甲で受け流すと、右ストレートで顔面を打ち抜く。
 三人目。ストレートの勢いで一歩進み攻撃を躱し、素早く相手の腕を掴むと引き倒しながら足を払って投げ飛ばした。
「こいつら、強ぇ……」
「怯むんじゃねぇ! 数じゃこっちのが上だ、どうせそのうち疲れて動けなくなる!」
「って言ってるスけど?」
「はっ! だったら試してみりゃいいじゃねぇか」
 二人のあまりの強さにたじろぐ部下を頭目らしい男が発破をかけてけしかけてくるが、葵も拳修も決して闘志を衰えさせることはない。
 背中合わせとなると、お互いの死角をカバーし合いながら圧倒的な数の差をものともせずに、逆に強盗団を蹂躙していく。
 二人の勢いは留まることを知らず、瞬く間に強盗の数が減っていく。そんな状況に強盗の頭目は業を煮やしたのか、悪魔的な発想で次の手を打つことにしたようだ。
「テメェら、コイツを見やがれ!」
「っ!」
「やってくれるっスね……」
 頭目が人質に向けられた人々に銃口を向け、幹部らしき鉄騎種の大男が機械化された右腕を構えている。
 これ以上暴れれば人質がどうなるか分かっているよな? という視線に、二人は戦いの手を止めるほかない。
「へっへっへ……よくも仲間たちをやってくれたなぁ」
「こいつはお返しだ!」
 身動きの取れなくなった二人に、強盗団は殴る蹴るの暴行を加える。さんざんやられた鬱憤を晴らしてやろうと。人質を取られた二人は、血が流れようとも骨が折れようともただただそれに耐えるしかない。今出来るのは、殴られる瞬間に気付かれない程度に身体の芯をずらして致命打を避けるのが精々。
 だが、痛みに悲鳴を上げるようなことはしない。むしろ、泣き叫ぶ人質たちに安心しろ、絶対に助けるからと笑顔を向ける。
 何度殴られただろう。衝撃が全身を突き抜け身体から力が抜けていく。
 何度蹴られただろう。視界は霞み呼吸をさえも痛みを伴う。
 だが、必ずチャンスは来るはずだ。
「もうその辺でいいだろう」
 頭目の男が声を掛けたところで凄惨なリンチが終わりを迎える。
「まずはそっちの生意気そうなやつからだ」
「……っ!」
「シュラ……!」
 拳修の両腕が掴まれ無理やり膝立ちにさせられると、頭目は銃口を向けて一歩ずつ近づいてくる。
 絶体絶命の危機的状況に追い込まれたと言っていいだろう。このままではまず拳修の眉間が撃ち抜かれ、その次には同じように葵も撃たれてしまう。
 なにか手はないか。必死に思考と視線を巡らせると、葵の視界にあるものが映った。
「死ねやぁっ!」
「シュラ!」
「おう!」
 頭目の男が引き金に指を駆けたその時。葵は囲む強盗たちを振り切って近くに転がっていた一斗缶のようなものを蹴り飛ばしたのだ。
 近接戦を想定した訓練のために今日は持ってきていなかったが、葵は本来中距離以上での戦いを得意とし、その武器はサッカーボールである。
 短い言葉でその意図を察した拳修が拘束を力尽くで抜け出して頭を下げると、拳修の頭があった場所を正確に射貫きその先の拳銃を弾き飛ばす。
「ぐぅ……! 仕方ねぇ、やっちまえ!」
 弾かれた手を抑えつつ、頭目の男が叫ぶと人質の側にいた鉄騎種の大男が鉄鎚の如き拳を振り下ろす。
「恨むならあのボウズたちを恨むんだなぁ!」
 大地を砕かんばかりの一撃は、一般人が受ければまず間違いなく命は助からないだろう。その拳が人質に当たる直前、わき目も振らずに駆け出していた拳修が割り込んだ。
 大男に背中を向け、人質たちを抱きかかえるように庇ったのだ。
「間に合ったか。まぁいい……」
 予定とは違ったが、いずれにせよ自分たちに歯向かう馬鹿なヤツにとどめとなる一撃を叩き込んでやった、と大男がにやりと嗤う。
 拳修の頭からは滝のように血が流れており、明らかに致命傷だ。足元は覚束なく、数秒もすれば倒れるのは目に見えている。人質の少女が泣き喚く声に心地よさすら感じているようだ。
 だが、その考えは即座に裏切られることになる。
「言っただろ? 大丈夫だ、ってな」
「なっ! コイツまだ! なら倒れるまで殴り続けてやる!!」
 ふらりと倒れそうになる寸前のところで踏みとどまった拳修は、穏やかな眼差しで人質たちへとそう言った。確実に倒したと持ったのに耐えて見せた拳修に、大男は戦慄を覚えつつも瀕死であることに変わりはないと再び拳を振るおうとした。
 だが、肝心の右腕が動かない。
「なんでだ! 腕が動かねぇ!」
「テメェよぉ……。女子供に手ぇ出してんじゃねぇぞ……」
 大男の右腕が動かないのは拳修が掴んで離さないからだ。
 少し遅れてそのことに気付いた大男はそれを振りほどこうとするが、猛火の如く怒る拳修の修羅の如き気迫にあてられ、蛇に睨まれた蛙のように全身が恐怖によって竦み上がる。
 なんとか逃げようとするが、腕を掴まれたままでは逃げようがない。慌てる大男を見据えながら拳修が手に力を込めれば、大男の機械化された巨大な腕が音を立てて砕け散る。
 衝撃と痛みに転げまわる大男だが、これで開放されたと思えば地を這って逃げようとする。が、怒りの収まらない拳修がそれを逃がすはずもない。
 先回りすると胸倉を掴み、重量があるはずの大男の上半身を軽々と持ち上げた。
「ま、待ってく――」
「待つ訳ねぇだろぉがっ!!」
 大男の言葉を最後まで聞くことなく、床に頭を叩きつけたのだった。
「そっちも終わったみたいっスね」
「おう」
 鉄騎種の大男と拳修が戦っている間、葵も葵で頭目の男と対峙していた。
 といっても、頭目の方はそこまで強いわけでもないらしく、部下に自分を守れと喚き散らしていたので、壁となって立ちはだかる者たちを一人ずつ倒していき、最後に慌てて逃げようとしていた頭目を仕留めるだけの簡単なものであった。
 頭目と、ナンバーツーらしき幹部が倒れたのだ。強盗団もこれで諦めてくれれば……。そう思って周囲を伺う二人だが、どうやら強盗団は自棄になったらしい。
 どうせ捕まるのならせめて道連れにとでも考えたのだろう。もはやなりふり構わずと凶刃を二人へと向けていた。


「はぁ……疲れたぜ」
「同感っス……」
 夕日が地平線の向こうに沈み始めようとしている頃、葵と拳修は帰り道を怠そうに歩いていた。
 激闘の末、見事に強盗団を全員倒し人質を解放することの出来た二人は、後から追いついてきた衛兵たちに事情を説明して強盗団を引き渡した。
 そこまでは良かった。
 問題はその後だ。二人がイレギュラーズで腕にも覚えがあるのは分かるが、こういうときは衛兵に任せてほしいとこっぴどく叱られてしまったのだ。
 お説教は長く続き、強盗団との戦い以上に精神的な体力を消耗し参ってしまったという訳である。
 とはいえ、最後に人質を救ってありがとう、と感謝の言葉を告げられれば悪い気はしないものだ。
「シュラはホント女子と子供には甘ぇよな、何か理由でもあるんスか」
 帰り道の途中、葵は前々から気になっていることをこの機会に聞いてみることにした。
 今回の件もそうだが、女性や子供が困っていると助けずにはいられない。今までも、そしてこれからもそれは変わらないのだろう。そんな拳修の生き様はどこから来たものなのだろうか、と。
「『母さんと弟達はお前が守れ』。オヤジによォ、そう言われてんだ」
「……そっスか」
 夕日の向こう側。どこか遠くを見つめるその横顔に、葵はそれ以上深く詮索することを止め二人の間に沈黙が流れていく。
「ぷっ!」
「ははっ! なんなんスか!」
 暫く続いた沈黙だったが、なぜかそれが可笑しいような気がして、どちらからともなく笑いが込み上げてくる。
 ひとしきり笑って落ち着いてくると拳修が拳を突き出し、葵もそれに応えて拳をこつりと合わせるのだった。

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