PandoraPartyProject

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the chosen one

登場人物一覧

久留見 みるく(p3p007631)
月輪

 空中庭園に呼ばれる前の話をしよう。久留見 みるく(p3p007631)は、超科学と超電脳で世界に挑む研究者達の国──練達で生まれた。旅人の父と人間種の母を持つ。父は異世界人。現代日本から召喚され、幻想でたまたま、出会った母と恋に落ちたのだという。ちなみに母は社交性に富み、通りすがった父が持っていた異世界の珍しいカタナ、『月輪がちりん』に興味を持ち、父は父で声を掛けてきた母に一目惚れをしたのであった。父曰く、「ああ、俺はこの人に会うために此処に来たんだ」と笑顔の母を見て思ったらしい。それこそ、ビビっときたということだろう。
 その話は物心がつく前から聞かされ続け、それこそ、「その話、さっきも聞いたから」とみるくがツッコミを入れるほどだ。

 だが、父の恋がすぐに成就したわけではなかった。あろうことか、若き日の父は剣技以外、ポンコツ。いや、奥手で──母に猛アタックするわけでもなく、ひたむきに母を想った。一方、母は父の想いにまったく気が付いていなかった。むしろ、父の気持ちに気がつく者は誰もいなかった。正直、危なかったと思う。父と母が結婚しなければ、みるくはいないのだから。だが、そう伝えた時、両親はぽかんとしすぐに『運命だから大丈夫』と笑ったのだ。
 それにと母は教えてくれた。一緒に出掛けたり手紙を書いたり、父の剣捌きを眺めたり、無意識に父の土産を選んでいたり母は自分の心の中に父がいることにふと、気が付いたのだという。それから、母は愛を伝えに行った。

「好きよ……」

 月輪とともにこの人が何処かに行ってしまう前に。後悔が無いようにと。

 母はこの話をする度に少女のようにはにかむし、みるくは赤面する。そして、父と母は練達で結婚し、両親の左の薬指にはピンクゴールドの指輪が静かに光っている。色白の母にぴったりでみるくはとても誇らしい気持ちになる。そんな両親に愛されて育った。みるくは父と母のことが大好きだ。ただ、可愛い名前が外見や性格に何だか、合っていないような気がして、名前を呼ばれる度にふわふわしてしまう。だから、友人には久留見と呼んでもらっている。そっちの方がなんだろう、しっくりくるのだ。もしかしたら両親と同じ苗字に誇りを持っているのかもしれない。

「ごましおの健康診断はどうだった?」
 母の優しい声が聞こえた。動物病院から帰宅し、みるくは家族の一員であるごましおを庭で撫でているところだった。体毛はふわふわで肉球はポップコーンのような甘い香りがする。久留見家は、愛犬のごましおを含めた四人家族だ。
「うん、特に何も問題なかったわよ。元気だって」
 みるくは笑った。ごましおが目を細め、みるくの手の甲を熱心に舐め始めた。くすぐったくてまた、笑ってしまう。ごましおはみるくのことが大好きで、それこそ、笑ってしまうくらい懐かれている。
「はい、終わり!」
 みるくはごましおが満足するまで撫で、今度は木刀を握った。そう、父に教わった通りに素振りを行う。毎日、素振りをしないと気持ちが悪かった。それ程、木刀を握るのはみるくにとって自然なことだった。木刀が風を断つ。心地よい音が聞こえる。

 息を吸い、吐き出す。
 汗を流す度に強くなっているような気がした。木刀を握る手は、やがて、父から譲り受けた月輪に変わっていた。

 ある日のことだ。学校帰り、みるくは近道として公園を歩いた。夕暮れの公園はとても静かで、そこにはベンチと錆びた滑り台があった。懐かしさに目を細めた。この公園ではなかったけど、父と一緒に公園に通ったことを思い出していた。確か、「帰ろう」と父に言われてもみるくは帰らず、夜になるまで遊び続けたのだという。ちなみにどうやって帰宅したかというと空腹に気が付き、突然、「帰る」と泣き出したらしい。正直、覚えていない。ただ、父の笑顔とベンチでよく、母が握ったおにぎりを食べていたことは覚えている。美味しくて楽しかった。
 だから、ベンチの傍に人が転がっていたことにすぐに気が付いた。風に黒色の長い髪が大きく揺れている。女だ。顔に大きな傷を持った女が、砂まみれで眠っている。死んでいるわけでも、傷を負っているわけでもなかった。ただ、子供のような顔で眠っていた。青い外套を女は毛布のように掛け、いかついキャメル色のブーツが見えた。ベンチには女の得物だろう。赤鞘の刀が置かれていた。乙女のようにどきどきしてしまう。どんな刀だろうか。みるくは無意識に月輪の柄に触れていた。
 ふと、女の指が動いた。傷跡を爪でなぞるように搔いている。痒いのだろうか。そして、女の手に抜刀の際に出来たであろう深い傷と手の甲には熱傷の痕が残っていた。痛そうで。でも、それは女が戦ってきた証のようなものに思えた。女を見つめていると外灯が点き、みるくは驚く。オレンジ色だった空はいつの間にか、蝙蝠が翼を広げたように真っ黒だ。
「起こさないと」
 女を公園に残していくわけにはいかない。でも、どうやって起こそう。耳元でわっと声を上げる? 却下。しばらく、考えてからみるくは女の肩を叩くことにした。
「あの」
 女の肩に触れようとし、その手をぴたりと止めた。女が上体を起こし、「……おはよう」
 切れ長の瞳がみるくをしっかりと見たからだ。その瞳は赤く、低い声がみるくを驚かせた。
「おはようございます」
 反射的にそう言ってみるくは小首を傾げた。
「……いえ。もう、夜ですけど」
 言いながら、少しだけ赤面する。
「え? ああ、そうだね。そっか、良い時間だ」
 女は言いながら欠伸をする。何も気にしていないようで、頭からぱらぱらと砂が落ちた。いつから、公園にいるのだろう。何かを待っているような口ぶりだった。
「良い時間ですか?」
「ぴったりだ」
 女はのんびりとした口調で刀を掴み、立ち上がった。女は黒色のスーツを着ていた。
「ぴったり?」
 目を瞬かせながら、みるくもまた、月輪の柄に触れる。女の微かな緊張を感じ取ったのだ。
「この公園、人殺しが出るみたいでさ」
 女は外套を羽織り、前を見据えた。瞳は何かを探すように細められていた。
「えっ!?」
 目を見開きつつ、瞬時に抜刀する。
「いいね、良い判断だ。今月は二人やられてる。だから、そいつを捕まえようと思うんだ」
「手伝います」
「ありがとう、じゃあ、君は出来るだけその男を引き付けてくれないか?」
「分かりました」
「良かった。来たよ。噂をすればかな」
 ハッとする。砂を踏む音を聞いた。足音とともに細長い影がふらふらと動いている。女もまた、赤鞘から刀を抜き、青白い刀身を闇に向けるのだ。
「こんばんは、レディ?」
 警備服を着た痩躯の男が瞳に映った。右手にはナタ。肌は白皙で、薄暗い夜の光の中で金色の目が蜜のように光っている。目が合い、ぎょっとする。だが、『やられる前にやれ』なのだ。目標である父と公園で遊ぶ人々を守りたいと思った。みるくは月輪を振り上げ、男を斬った。鮮血が舞う。みるくは息を吐き、すぐに間合いを取った。男の胸から血が滴る。男はきょとんとしていたが、「へぇ、今日は賑やかな夜だねぇ?」
 嬉しそうにぶんぶんとナタを振り、「おや?」と月輪を指さした。
「奇麗!」
 そうなのだ。月輪の、底冷えするほどの刃は月光を思わせる光を湛える。
「……ありがとう」
 唸るように答えた。汗が吹き出る。男はにたにたと笑い、「奇麗だから、それ、欲しいな! 君と一緒に!」
 真顔でみるくに攻撃を仕掛けた。
「!?」
 素早い。喉が鳴った。振り上げたナタが鈍い光を放ったから。咄嗟に受け流し、真横に飛び退く。びりびりと手が痛み、顔が歪む。
「やるねぇ~!!」
 男はみるくにだった。だから──男はぐにゃりと蛸のように倒れたのだ。
「う、あ?」
 何が起きたのか、男はきっと理解出来なかっただろう。女だ。音すら立てずに男の背を斬ったのだ。生温い赤がじわじわと砂を濡らしはじめる。みるくは安堵する。どうにか、対処できた。それに凄いものを見たのだ。高揚していると、女は慣れた手つきで納刀し、みるくに微笑むのだ。女はクールで、そんな女になりたいと思った。そして、女は近所に住んでいることが分かり、時折、みるくは女のアパートに遊びに行くようになっていた。

 それから、三年後、空中庭園に呼び出されたイレギュラーズになったのは、十六歳の時だった。最初は混乱していたのだけど、みるくは月輪に相応しい女になりたかったし、クールな女に近づくいい機会だとすぐに思った。それに何だろう、大事な出会いがあるような気がするのだ。目を細め、息を吸った。太陽が眩しくて、青い空には雲一つなかった。

  • the chosen one完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2023年10月28日
  • ・久留見 みるく(p3p007631

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