PandoraPartyProject

SS詳細

相思相アイ

登場人物一覧

チャンドラ・カトリ(p3n000142)
万愛器
冬越 弾正(p3p007105)
終音
冬越 弾正の関係者
→ イラスト

●未確定未来
 練達某所。とある病室前。
「道雪殿。入るぞ」
 入口の扉を軽くノックしてから、見舞いの品と共に冬越 弾正は入室する。

 窓際のベッドに横たわるのは辻峰 道雪だ。
 彼はイーゼラー教に入る前からの古い友人で、その正体は教団で敬愛する隠者ハーミット様で。初恋の人を殺めた仇で。そして、今は。
「起きているか? 体調はどうだ」
「懲りないな、お前も」
 道雪が重そうに目蓋を上げるのを、弾正は見守る。この男は先日『再現性さんさあら』で深手を負ったのだ。チャンドラ・カトリが『はづきさん』に突き立てるはずだった刃を、その身を挺して庇ったために。傷自体は回復スキルによって塞がれたものの、呪いが実体化した植物に根を張られていたこともあり入院の身となっていたのだった。
「梨と茶を持ってきたが、どっちがいい」
「冷蔵庫があるだろう。置いていけ」
 世話を焼こうとする弾正の厚意にも素っ気ない道雪。彼の調子では置いていったところで食べられないのでは、と弾正は思ったのだが。
「……やはりチャンドラ殿を連れてこようか?」
 弾正は自分では彼の友人でいるつもりだが、道雪はチャンドラに想いを寄せていたのだ。弱っている時に世話をして欲しいのは、もしかしたら友人よりも好きな相手かもしれない。
 好きな相手と会えれば自分なら嬉しいし、そもそも道雪はあの『再現性さんさあら』でチャンドラに盛大な告白をしておきながら未だに返事をもらっていない。やはり、彼はチャンドラに会うべきではないのか。
「いい」
 しかし、弾正がそれを提案する度に道雪は断るのだった。
「しかし……」
「チャンドラが愛しているのははづきだ。俺はそれを我欲で阻んだ邪魔者でしかない。万に一つも、彼に愛を返される可能性はない」
 結果が分かっているのにわざわざ彼を呼び出す必要はないと、道雪は勝手に結論付けているのだ。なおも食い下がろうとすると、もう寝るからと拒絶されてしまう。
(チャンドラ殿から直接言われたわけでも無いだろうに……)
 ――こうなったら。
 弾正はひとつ心に決めて、道雪の病室を後にしたのだった。

●興味の接点
 明くる日、弾正の姿はファストフード店にあった。互いにドリンクを頼んだテーブルの向かいに座るのは、弾正に呼び出されたチャンドラだ。
「あれから姿を見ないので、どうしたものかと……入院とは」
 病室での道雪の様子を弾正から聞いたチャンドラは、狙ったものでは無いとは言え自分が原因で道雪がそのような状況にあることを申し訳なく思っているようだった。
「その。チャンドラ殿としては……道雪殿のことはどう思っているんだ?」
 ずばり問う弾正。単刀直入な問いにチャンドラは少し驚いたように目を開いた後、困ったように苦笑した。
「……貴方のそういう、困るほどに正直なところ。わたしは愛おしく感じますよ」
「い、いや今は俺の話ではなく!」
 目に見えて焦る彼を尻目にドリンクのストローを一口吸うと、チャンドラは店内を広く見渡した。
「そうですね……ここで貴方にお伝えしてもいいのですが。我も、道雪には改めて話す機会が欲しいですね。入院の件もありますし」
「おお! じゃあ、都合が合う時に見舞いに誘っていいだろうか」
「ええ、ええ。是非に。今は『再現性京都』の復興手伝いが少々忙しいので……ヤマ様にもご相談してから、改めてご連絡致しますね」
 チャンドラが機嫌を損ねた様子はない。それどころか、多忙の中でも道雪と話したいとまで言ってくれた。
 これは、思ったより前向きな話を期待していいのではないか――期待に胸を躍らせながら、弾正は後にチャンドラが連絡してきた予定に合わせて道雪を見舞うのだった。

●愛の終わり アイの始まり
 そして、現在。
「…………」
 ベッドから外を見るばかりの道雪と。
「…………」
 そんな彼をベッドサイドの椅子から見下ろすチャンドラと。
「…………っ!」
 二人の話を静かに見守ろうとして、逆に存在感がでかくなってしまっている壁際の弾正である。
「……何のつもりだ。弾正が無理に誘ったのか」
「彼は機会をくださっただけですよ。我も貴方にはお話ししたいことがありましたので。ヤマ様からも宜しくと言伝を」
「はづきが俺に?」
 予想外の名に道雪が振り向く。チャンドラがヤマと呼ぶはづきさんは、彼が真に愛する相手であり、道雪にとっては言わば恋敵だ。それははづきさんにとっても同じであるはず――それが、『宜しく』とは?
「あの日、一番近くで貴方の呪いを見て、言葉を聞かれていた方ですよ? 気にかけておいででした」
「ああ……そうか。嫉妬の意味も分かっていなかったな、そう言えば……」
 恋敵ですらない、ただの怪我人。はづきさんにとってはその認識でしかなかったかと思うと、道雪は癒えたはずの胸が痛む思いがした。
 この上、チャンドラ本人からどんな断られ方をするのかと思うと。
「まず、申し上げておきたいのですが。我とヤマ様は恋愛関係ではないのですよ。今後もそうはならないかと」
「……ん?」
 思わず聞き返す道雪。それは、有り得ないのでは。
「君は……はづきに報われない愛を抱いていたのでは?」
「ええ。元の世界では罪を承知で想いをお伝えしたこともあります。ですが、あの方……他人の感情を裁くばかりでご自身の感情は育ってらっしゃらない、と言いますか……全ての感情に公平であろうとした結果、と言いますか」
 訝しむ道雪に、溜息と共に肩を落とすチャンドラ。曰く、他人の感情に『共感』したり、その感情を善悪で『判断』することはできるものの、『自分の意志』で感情を抱くということが未だに拙いらしいのだ。狐面の『はづきさん』として振る舞っている時は、過去の記憶や経験を元に豊かな感情を再現しているようだが。
「ですから、報われようが無いのです。その在り方が悲しく、虚しく……なお愛おしく。我の全てでアイして呪ってしまった、と言いますか。そのことで皆様を巻き込んでしまったことは、申し訳なく思っておりますよ」
「愛おしく、か」
 結局は、そこに帰結する。恋愛関係ではないとは言うものの、無二の存在であることには変わりないのだろうと、道雪は再び外を見た。
「その上で、貴方からのアイについてですが。我は未だに疑問が残るのです。どれほど思い返しても、貴方に恋情を向けて頂けるような行いをした記憶はないのですが……」
「……この期に及んで、君がそれを聞くのか。少しは怪我人に優しくしてくれてもいいと思うが」
「それが気になる程度には、我は貴方をアイしている貴方に興味がある、と思って頂きたいものですが?」
 顔を外へ向けたまま、道雪は視線だけチャンドラへ向ける。
 彼の表情に嫌悪はないが、悪戯を見つけたようなその顔は面白い観察対象へ向けたものだろう。
(予想通り、だな)
 どれほどの愛を向けても、恋愛対象としては見られない――それなら。

「だっ、道雪殿!?」

 挟まないと決めていた弾正の口が思わず開く。
 道雪の片腕がベッドから伸びたかと思うと、チャンドラを強く引き寄せていたからだ。
 まるで、唇同士が触れ合ってしまいそうな――その寸前で止まってはいたが。
「……あの『再現性さんさあら』の闇で、何度も君の幻を見た。報われない愛について語りながら、笑顔で蓋をする君だ」
「……それで?」
「その愛の対象がはづきだとわかった時、俺も知らない激情が湧き上がってきた。……嫉妬したんだよ、はづきに」
「どうして、また?」
 この距離でまだ、チャンドラは目を細めて囁きながら笑っている。
 これすらも、彼にとってはただ面白いだけなのか。
 それならば、いっそ。

 一瞬。掠ったかもわからないほどの接触。
 それはすぐに離れて、道雪は窓の外へ顔を背けた。

「……君を満たして、死にたかった」
 
 だが、それは最早叶わぬ願いだ。現にこうして生き延びている。
 そして、道雪がチャンドラを満たすこともきっと叶わない。彼を満たす相手は既にいて、彼に近付けば嫌でもそれを感じる。そんな惨めな邪魔者で居続けるくらいなら、利用したい時だけ気軽に声をかけられる都合のいい距離を保ちたかった。
 ――それすら、もう。

「……それほどのアイを、我は嬉しく思いますよ」
 冷たくはない声に、道雪は振り向かないまま耳を傾ける。
「我も、我一人でヤマ様を満たしてしまいたかった。それで命を失っても構わないと。そうしてアイすることはあっても、『愛される』ことはないと思っておりました」
 それは結局、どういうことなのか。道雪の気持ちはどうなるのか。
 弾正が見守る中、チャンドラはにこやかに願望を口にした。
「貴方のアイを、もっと知りたい。どのようなアイし方をしてくれるのか、気になってしまうではないですか」
「……チャンドラ。君の内からはづきが消えることは無いんだろう。俺はきっと、また君の邪魔をする」
「確かに、ヤマ様は我にとって二度と忘れ得ぬ無二の御方です。そのアイ執着と、貴方へのアイ興味は、我にはどちらも捨て難いのですよ」
 見上げる道雪と、見下ろすチャンドラ。
 その視線がしばし絡み合って、先に表情を崩したのは道雪だった。
「つまるところ、君にとっての俺はただの観察対象か。構わないさ、それでも」
「そういう貴方も面白くて愛おしい興味深いですが、できれば『ただの』は修正をお願いしたいですね」
「じゃあ何ならいい」
 諦めの溜息と共に力を抜いた道雪の顔が、暗い影に覆われる。やがて額に触れる熱があったかと思うと、影は離れてチャンドラの視線と合った。

「『目を離したくない』、と。その程度にはアイしている興味があるのですよ?」

「……は。いっそ嫌われた方が楽じゃないか」
「世界を敵に回して下さる方が、今更何を仰るのやら」
 売り言葉に買い言葉。「好き」も「愛している」も一度として出なかった二人の奇妙なアイは、この日から始まったのだった。

  • 相思相アイ完了
  • GM名旭吉
  • 種別SS
  • 納品日2023年10月12日
  • ・冬越 弾正(p3p007105
    冬越 弾正の関係者
    ・チャンドラ・カトリ(p3n000142
    ※ おまけSS『とある万愛器と音なる貴方と、アイすべき貴方』付き

おまけSS『とある万愛器と音なる貴方と、アイすべき貴方』

●逃走劇の果て
 その後、折に触れてチャンドラも道雪を見舞うようになった。ある時は弾正への同行であったり、ある時は単独での見舞いであったり、日程も時間も特に定まっていない見舞いは道雪にどのように受け取られていたのか――。

「……いつです?」
「俺も教えて貰えなかったんだ、すまない……」
 顔は笑っているが明らかに機嫌の悪いチャンドラに謝る弾正。
 ある日見舞いにいったところ、道雪の部屋は綺麗に片付いていたのである。二人に黙って退院していたのだ。
 担当医曰く怪我は完治していたとのことなのでそちらの心配はないが、退院後の足取りが全く不明で連絡も付かない。
「いえ、弾正に非は無いのです……それに、わたしはアイしたものを見失いませんので。追いますよ」
「俺も音を聞き分けて手伝おう! 病み上がりならそう遠くは無いはずだ!」
 驚くべき決断の速さで二人は病院を出立する。大小の道を駆け、階段を上って下り、坂道を下りては上がり、時に休憩も挟みながら辿り着いたのは――。

「……なんだ、早かったな」

 特に罪悪感も感じていなさそうな道雪が、悠々とイーゼラー教の施設へ戻る道中だった。チャンドラはこの道がそうであることを知る由もないが、弾正にはすぐにわかった。
「道雪殿! この方向は……!」
「俺は《隠者ハーミット》を返上したわけじゃない。教団へ戻るのは何も不自然じゃないはずだが?」
「しかし!」
「わかりました」
 納得しない弾正に反して、あっさりと了解の意志を示したのはチャンドラだった。
「チャンドラ殿も!」
「我達も、貴方が何も言わず退院して何も言わずどこへ向かわれたのかが気になっただけですので。ええ、道雪が教団へ戻ることに不自然な点がないことは全くその通りです。愛おしくない腹立たしくないと言えば嘘になりますがこれは我の勝手なアイ感情ですので何卒貴方からのアイ気遣いは無用に。では、我も帰りますので」
 綺麗に笑ったままではあったが、有無を言わさぬ早口で言いたいことだけ言うとさっさと背を向け帰ろうとするチャンドラ。
 その様子に、道雪は事もあろうか笑みを深くした。
「まさか、はづきに対してそんな怒り方はしないだろうな?」
「どうでしょうね。それとも敢えて詳らかに致しましょうか? さぞかし貴方の愛らしい面白い顔が、――!」
 最後まで言わせず、道雪の指がチャンドラの顎を掬う。以前は掠めただけだった唇が確かに触れ合った。
「……確かに、君の面白そうな一面は見つけられたな」
「……我は面白くありませんので。精々後日に挽回してください」
 添えられた手を解くと、今度こそ彼は振り返ることなく来た道を戻っていく。その背を一時、弾正は道雪と共に見送っていた。
「あんな風に怒るんだな、チャンドラ殿……というより、いいのか道雪殿。本当に帰ってしまうぞ?」
「引き留めてどうする。彼も後日と言っていたじゃないか。しかし早くも次の機会を貰えるとは……俺も多少は自惚れていいものか」
 呟くような道雪の表情は穏やかだ。彼らの関係は相思相愛……とは言い難く、端から見ていると常に破局と隣り合わせのようにも感じる。
 しかし、彼が今までになく満たされていて、チャンドラも怒る程度には彼のことを考えてくれている、という関係は。その未来をそう悲観しなくてもいい気がした弾正だった。

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