SS詳細
とある万愛器と毒なる貴方
登場人物一覧
●ご挨拶
ジョシュア。まさか貴方とこのような時間を頂けるとは。
いえ、驚きはしましたが嬉しく思いますよ。
そちらのミルクティー、良い香りがいたしますね。今の時期ですとフルーツケーキとのセットも……と、今日はそういうお話ではありませんでしたか。
少しお待ちくださいね。
●貴方の強さ
お待たせを。では早速……ですが。
……貴方との出会いは、我が初めて『再現性京都』を訪れたあの『夏送り』でしたか。
祭りの夜店を楽しんで頂けたようで何よりです。八三二橋の池では、会いたい方に会えましたか?
それからも、貴方と顔を合わせるのは決まってあの場所だったと記憶しております。
『再現性さんさあら』では……随分とお恥ずかしいところを。今の我はあのような力を扱えません。どうかご安心を。
貴方の強さについて、身を以て感じたのもあの場所になりますが……なるほど。花の毒、ですか。
あれが貴方の力なら、我が毒について口にした時のお怒りもごもっともです。
戦いに於いては、弓で射る毒というものは強力でしょう。間合いさえ保てば一方的に相手を蝕めますから。しかし……貴方は毒を武器としながら、あまり戦い以外では毒を『表』にされていないように感じます。我が偶然目にしていないだけかもしれませんが。
けれど、それこそが貴方の強さかもしれません。人から触れられるものであろうと努力されるところ、と申しましょうか。
毒についてどう思うか? ……やはり、普通は触れるものを蝕み死へ追いやるもの、でしょうか。ものによっては薬にもなりますが……。とはいえ、それと貴方へのアイは別ですよ。
●貴方の大切なもの
恥ずかしながら、貴方とこうして向き合えた時間が少ないものですから。見当違いなことを話してしまうかもしれませんが、ご容赦を。
『再現性さんさあら』でも仰っていましたが、貴方にとって『貴方に温かく接してくれる』方とは文字通り以上の、特別な意味を持つのでしょう。やはり毒とは避けらてしまうものでしょうし。
我も毒を恐れ憎む者ですが、それを扱う貴方のことまで憎いとは思いません。以前の貴方について詳しくは存じ上げませんが……少なくとも今の貴方は、適切な毒の扱いを心得ておいででしょう?
では、貴方は殊、毒について信頼できる方ではありませんか。それによって、貴方が死なせたくない人々を守ることができる。強いるものではありませんが、ご自身が毒を扱うものだと明かしても、我は大丈夫だと思いますよ。
もしそれで何かあったら、ですか。その時は遠慮無く、我を
●貴方の愛
我が近寄り難かった、ですか。我が苦手な方と似ていて、アイが何かもわからなかった、と。
まず、我に似ている方が他にいらっしゃることが驚きです。是非とも
我にとってのアイとは、「無関心」以外の全ての感情、執着。それに基づく行動のこと。愛とはそんなアイのひとつです。良くも悪くも人を変えてしまう、罪深い感情だと思っています。
貴方にとっての愛とは、何でしょう。
貴方は「苦しいだけ」と仰いました。「好きも嫌いも思っていないはづき様を満たしたかったのですか」と。察するに、貴方にとっては……「少なくとも好いてくれている相手を満たす」方が愛を感じる、ということでしょうか。
おかしな所は何も。しかし……好かれる、とは何でしょう。優しくされたら。親切にされたら。それは、好かれているのでしょうか。
『無碍に扱うと怖いから』とか、『礼儀として』とか。そういった
この
ですので、我は『無関心で無いなら
貴方はどうでしょう。そのような経験はおありで?
●万愛器のアイする貴方
毒を扱いながら、人柄は毒ではない貴方。それゆえに、毒には敏感でもあるのでしょうね。やはり、毒の関係する依頼は気になりますか。花の毒を扱っておいででしたから……植物の方にもご興味が?
我も植物には縁がありますから、多少は草花について理解できるつもりですよ。
植物は身を守る術として毒や棘などを有するものもありますが、自ら意思を持って敵を害するものではなく。害意を持って近寄るものから自らを守るために、それを使うのです。
我が言うまでもありませんが、貴方の毒は、貴方と貴方の大切な方のために。守るために、生きるために使われるのが良いのではと、我は思いますよ。
さて、貴方への
本日は貴重な機会を頂き感謝を。
次は……ご一緒に花など
おまけSS『優しさの意味』
●もう一度貴女に
過去の思い出に縋るわけでは無いけれど。
必ず、望んだものが見えるわけでも無いけれど。
『ジョシュア。どないしたん?』
「はづき様、無理は承知ですが……あの池は、今はありませんか」
小さな社に辿り着いたとき、その主へ前置きも無くそんな事を聞いてしまった。
――優しくされたら。親切にされたら。それは、好かれているのでしょうか。
(僕の毒だけが目当ての人達もいた。彼らは別に優しくなかったけど……。でも、優しくしてくれた人は。あの時、今、僕に優しい人達は)
『池……ああ、『夏送り』のな。実はあれ、一晩だけ『再現性さんさあら』のヴァイタラニ河を
「……では、もう」
愕然とする。
過去の幻でも、思い込みでも。あの人の姿を見ておきたかった。
貴女の優しさは偽りではないと信じたくて――でもどこかで、あれが偽りだったなら相応しい罰だとも思えてしまって。
けれど、もしそうなら、この世のどこに本当の優しさがあるのかと。
『んー。ちょお待っとってなぁ』
狐面の主が宙へ手を広げると、色も形も様々ないくつもの葉が落ちてくる。その中でひとつ、紅茶色の葉に朝露が溢れたものがあった。
『多分、今のジョシュアの思い出の中で、結構綺麗な方とちゃうかな。望みのもんが見えるかはわからんけど、ええもんは見えるんとちゃう?』
「いいもの、が……」
願うような気持ちで、差し出されたその葉を恐る恐る手に取る。
瞬間、目蓋の裏に焼き付いたのは――温かい紅茶。持参した菓子が並ぶテーブル。笑う彼女。
花が咲くことはなかったけれど、向けられた優しさも、包んでくれた愛情も、溢した涙も命も、全て確かにそこにあった。
「ここに見える、ものは……幻ではない、んですよね……」
『生まれた後に経験した事実しか、そこには映らへんよ。記憶とはちょっとちゃうこともあるかもやけど、どない?』
「……ありがとう、ございます」
『ん』
狐面の主は短く満足げに応えただけで、それ以上深い事情を聞かなかった。
(一番最初の優しさは……貴女の愛は本物だったと信じていいですよね。エリュサ様……)
きっと、魔女の彼女も。そして、優しくしてくれる仲間達も、願わくば。
まだ全ての優しさから疑問を拭えたわけではないが、いつか――この違和感とも、和解できたら。