PandoraPartyProject

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辺獄もいつかは

登場人物一覧

マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形

●昔日の話
 遂行者サク――彼のことを、マッダラーはどうしても諦めきれなかった。
 『遂行者』とは、その背後に冠位傲慢がある一行であるらしい。しかし、マッダラーが関わってきたサクという少年はまだ人間味が強く残っている気がしたのだ。本人がどれほど諦めていても、マッダラーの目にはそのように映った。
 何より、彼の帰還を強く望む少女がいる。そのために、裏切りの罪悪感に苛まれながら少女は助けを求めたのだ。
 彼女が涙する結末は――何としても、避けたい。

「サクの、話……?」
 少年の足取りを追い続ける少女トキを発見したのは、リンバスシティと化した街の近くだった。彼がここへ入っていくのを見たが、ここから先は追うのが怖くて途方に暮れていたという。
「俺も、サクには戻ってきてほしい。しかし、俺の気持ちだけでは今の彼に届かないと思った。……戦いは、これからも激しくなっていくだろう。今みたいに、トキが行けない場所でサクと戦うことになるかも知れない」
「…………」
「もしそうなっても、俺は最後までサクの言葉を聞きたい。付き合うと約束したからな」
 そのためにも、今の自分が知らない、トキが知るサクの話を聞きたいのだとマッダラーは問うた。
 絶望する前の、本来のサクの人となりを。その思い出を。

「……あのね」

 まず話してくれたのは、かつてのアドラステイアで「オンネリネンの子供達」として過ごしていたサクのことだった。いつからいたのかまでは覚えていないが、彼女はある時から彼を知るようになったという。
「サク、すごかったんだよ。キシェフのコイン、よく貰ってたんだけど。時々なぜか無くしてて」
「確か……アドラステイアの魔女裁判で『魔女』を告発した子供に与えられるコイン、だったか」
 子供達が自らの信仰のために、あるいは単純により良い生活をするために、我先に求めたらしいコイン。それをよく貰っていた、ということは――率先してそのような行為をしていた、ということになる。
 マッダラーの表情が僅かに翳ると、トキは可笑しそうに笑った。
「コインを無くすと怒られたし、ティーチャーから鞭で打たれる時もあったんだけど。本当は無くしてなくて、そのコインこっそり他の子にあげてたの。私も貰ったよ」
「それは……サクは大丈夫だったのか? そのティーチャーとやらを誤魔化し続けるのも難しいだろうに」
「うん……アドラステイアが解放される直前くらいかな。流石にばれて、もうコインを分けられないように薬を飲まされる……っていうところで、あの街の神様が消えちゃったんだけど。
 サク、何かうまいんだよね。告発したがらない子を見つけて、その子の代わりに告発してた感じ?」
 しかし、良くも悪くもアドラステイアは解放され、「オンネリネンの子供達」も実質解散となった。
 まだ生き残っていた「オンネリネンの子供達」は、アドラステイアから他の土地へ引き取られていく者も多くいた。他の土地なら魔女裁判も薬もない。冬の寒さに震えることも、肩を寄せ合った仲間を告発せねばならないこともない――きっと、暖かくて安心できる何かがあるのだと、信じて。
 ……信じた、のに。
「私は……隠密の技術を磨いてたから。引き取られた先でも、突然いて心臓に悪いとか。普通に歩けないのかとか。色々、気味が悪かったみたいで。居場所がなくて結局抜け出して、お腹が空いて……あてもなく迷ってたら、サクと再会できた」
「そうか……。その時の、サクは」
「……アドラステイアで最後に見た時より、やつれてたかな……。お互い、再会できたのは嬉しかったけど、なんで私達だめなんだろうねって。サクも色々あったんだと思う」
 サクの引取先での話は、トキも聞いたことがないらしい。ただ、再会した二人は自分達のように『変われなかった子供達』を探すという目標を立て、少しの間天義を共に旅していたようだ。
 自分達には何も無くとも、居場所が無い子の還る場所になろうと。
「でも……マッダラーさん達と会うひと月くらい前、かな。突然、いなくなって。次に会った時は、あんな……」
「『遂行者』を名乗るようになっていた、か」
 頷くトキ。
 その後はマッダラー達も知る通り――なのだろうが。
「サクは、恐らく今も変わっていない。怖がらなくていいぞ、トキ」
 遂行者となって実際に人智を越えた手段を手にしてしまったことを除けば、彼の根本は変わっていないのだ。
 アドラステイアで、他の子の代わりに率先して罪を重ねたのも。
 居場所が無い子の還る場所になろうとしたのも。
 今、遂行者となって『苦しみが生まれない世界』を目指しているのも。
「でも、サク……知らないところへ行っちゃいそうで……」
「心細いかも知れない。だが、これ以上サクに道を外させない。……ここは、俺達に任せろ」
 丸まった細い背中を優しく叩くと、マッダラーは覚悟と共に目の前のリンバスシティを見上げるのだった。

  • 辺獄もいつかは完了
  • GM名旭吉
  • 種別SS
  • 納品日2023年10月08日
  • ・マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376
    ※ おまけSS『とある終天の、少し前』付き

おまけSS『とある終天の、少し前』

●喜べなかった再会
 ……もうちょっとだけ、話すとね。
 サクと一緒に、居場所がない子を探してた頃なんだけど。
 一人、二人。そういう子が見つかる度にね。サク……笑わなくなっていって。
 子供達の前では元気そうにしてたよ。でも……なんで、どうしてオレ達はだめなんだろうって。
 その頃は、私もその気持ち、よくわかったんだよ。
 同じ時期に引き取られた子でも、その先で幸せにやってる話も聞いたりして……なんで、私達は、って。
 多分、今のサクが「トキならわかる」って言ってくれるの、その頃のことかもしれない。

 それに……今、実を言うとね。ちょっと、つらい。
 この間、サクに「そうだろ」って言われて、何も否定できなかった。その通りだって、思っちゃったから。
 サクは今の形になって、「なんで自分達がだめなのか」っていう答え、見つけたんだよね。
 私達が、本当は生きてるはずがなくて……間違って生きちゃってるから、こんなに苦しいなら……。

 ……ああ、ううん。私は、サクみたいな怖いのにはならないよ。
 持ってないもん、あんな力。サクも、昔は持ってなかったと思うんだけど……使ってなかっただけかな。
 そういうのには、ならないつもり……だけど。
 もし、サクが本当に世界を終わらせるつもりで。怖いことを止められなくて。
 その最後にって、私を残してるなら。

 多分、いいよって……受け入れちゃうな、私。怖いけど。

 ……だめだね。豊穣にいる子達に約束してるのに!
 サクのこと、お願い。
 私も、できる限りは追うけど……せめて、見失いたくはないんだ。

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