PandoraPartyProject

SS詳細

蛇呪

登場人物一覧

茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

 夜毎、夢に見るのだ。
 眼前に一人の女が座っている。長く伸ばした黒髪がだらりと垂れ下がっている。やや前のめりになって居るのだろうか。表情は伺うことは出来ない。
 濡れそぼった白襦袢に身を包んでいる女は三つ指をつき、秋奈の枕元に座っている。
 髪は鮮やかに広がって居るが、そちらも濡れているのだろう。湿った香りが鼻先をつんと吐いた。
「どうしたの」と秋奈は眠気眼を擦りながら毎日のように問う。女はしくしくと涙を流すだけだ。
「濡れてたら風邪を引くぜ」と揶揄いながら声を掛けるが、タオルなどを渡そうと動かそうとした身体は満足な自由を得ていないようだ。
 まるで布団の中に身体が固定されているかのような倦怠感。指先一つ動かすだけで酷く疲弊するのだ。
「てーか、私ちゃんに用事だよね。誰?」
 問うた時にのみ、女の表情が良く分かった。
 ゆっくりと顔を上げた女の口は歪に裂けておりその中から舌がぞろりと覗く。長く伸びたそれは蛇を思わせた。
 笑っている。唇は確かに笑っているのだ。目は見開かれ、眼球がぎょろりと動く。引き攣った声を漏した秋奈は眼前の女に対してそれ以上言葉を発することが出来なかった。
 否、言い換えようか。言葉を発そうとも声が出ない。掠れ、絞り出したのがようやっと漏れ出でた引き攣った声音それだけだったのだ。
 女の濡れた掌が伸ばされる。秋奈の頬に触れてから、だらりと暖簾のように垂れ下がった髪が秋奈を覆ってからようやっと女の顔がはっきりと見えた。
(ああ、なんだ――)
 その時に漸くそれが何者であるかが分かった。有柄。アリエ様。そう呼ぶべきだろうか。
 彼女は護島の人間にとっては異形そのものだったのだろう。人間とは、五体が満足であり決して獣の要素などを身には持たない。大勢と違った個性は厭われるものなのだろう。特に、それが再現性東京という場所では。
 故に、彼女は厭われた。厭われ、疎まれ、呪いの子であるとされた。元となった娘はただ、それだけで合ったのに尾ひれが付いて疫病の扱いを受けた彼女は二度とは生まれてはならぬ存在の化身として島に祀られ屠られた。幾つもの巫女達の恨み嫉みが造り上げた異形が彼女そのものなのである。
 斯うしてみれば彼女は普通の女性だった。ただ、姿の変容は怪異になり果てた者らしさが滲んでいるが秋奈からすれば寧ろそれも可愛らしい個性の一部である。
 まじまじと顔を覗き込む彼女と視線が交わった。秋奈は満足に動かすことの出来ない体を揺すってから唇を吊り上げる。
 笑って見せて恐怖心などないと示すかのように辛うじて動く事の出来た顔面の筋肉だけを動かしたのだ。
 ずるずると何かを引き摺る音がした。ふっと視界が明るくなったかと思えば、倒れ伏している四肢に重みが感じられる。有柄が這っているのだろうか。
 いいや、女の気配は頭上にある。体の上に這い蹲るのは無数の蛇のようだった。その息遣いが複数感じられ、体中にそれらが這い回る気配がある。
 そうしてから、それは首にまで到達した。頸部の上に乗りかかった蛇はぎゅうと首を締め上げる。呼気の苦しみに呻きながらも秋奈は女の気配を探った。まだ、頭上に居るのだろうか――体を揺れ動かすことなど出来ないまま。
「――ねえ」
 唇を震わせた。締め上げられる喉とは違い、それだけはハッキリと発音出来る。頸部に乗りかかっていた蛇の気配が和らぐ。
「あの、さ」
 咳き込み、呻きながら秋奈の瞳がぎょろんと動いた。ああ、見付けた。其処に立っている。此方を見下ろして、水の気配が身を包んでいる。
「仲良くしようぜ。私ちゃん、別に、有柄っちを否定してないってか……さ、ほら、一緒でいいじゃん」
 体を明け渡すのには慣れっこになってしまった、と言えば彼女は怒るだろうか。先輩。けれど、それでも構わないだろうか。
 ああ、こういう性格だからこそ弟子にしてくれたのか。巫女となれと囁いたのは安易に怪異に体を明け渡さぬ為だったか。
 秋奈は先輩の苛立ったような表情を思い浮かべてから、小さく笑った。また叱られるかも知れないけれど、これが最適解だ。
「一緒に居てあげるからさ」
 秋奈の囁きに満足したかのように女の顔が近付いた。頸部へと伸ばされた指先が今一度、締め上げる。呼吸など忘れてしまうかのような力強さ。
 取り殺されてしまうのだろうかと脳裏によぎった言葉を振り払ってから秋奈は目の前の女を見ていた。
 彼女は笑っていた。何処か楽しそうに、そして、悲しげに涙を一粒落としてから消え失せる。

 目が醒めたとき――体に残されていた蛇の這いずる痕と鱗を見てから秋奈は一人息を吐いた。
 残されていた痕に鱗に、侵食される気配と共に身を起こした。近くから蛇の這いずる音が響くのだ。それはずるずると着いて遣ってくる。
 足をピタリと止めれば向こうも止まる。それは秋奈にしか聞こえない、彼女との秘密なのだ。

  • 蛇呪完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2023年10月15日
  • ・茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862

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