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赤き竜鱗の耳飾り
登場人物一覧
ムラデンが水天宮 妙見子へと送ったバースディプレゼント。
竜形態のムラデンの、指の辺りからとった鱗を加工したものらしい。
ちなみにどの指から採ったのかは、ご想像にお任せするとのこと。
ムラデンからしてみれば、ニンゲンの友人などは初めてである。そのため、何をあげればいいのかもよくわかっていなかった。それに、竜が(というか、ストイシャとザビーネが)もらえば喜ぶものはわかるが、人間がもらって喜ぶものなどは、まったく、考えたこともなかったのである。
知的生命体がもらってうれしいものはおそらくさほど変わりはないだろうが、そのあたりが、あくまで竜である傲慢さ故か。というわけで、今日一日、ムラデンは割と本気で悩むことになった。一日抱き着かれてそれで誕生日プレゼントになるならそうした方が楽かな、と思うくらいに、結構本気で悩んでいた。
「ストイシャはさぁ、女の人がもらって喜ぶものって知ってる?」
「私は新しいオーブンっていうのが欲しい」
「オマエが欲しいものじゃないよ」
「お姉さまはなんでも喜んでくれるよ」
「おひいさまの欲しいものでもないよ」
「……?」
「……?」
二人で首を傾げたりもした。そこは勘弁してあげてください。
結局ああでもないこうでもないと二人で悩んだ結果、人の女性の機微にまだ近いのはストイシャであったから、
「服に合うようなアクセサリーがいいと思う。ローレットのニンゲンもつけてる人がいたよ」
と答えることができた。
「ネクタイピンみたいなやつか」
「服装が固定されちゃうから、直接体に着けるやつ。ピアスとか」
「なるほど。よくわからないけど、それにしよう」
お忍びでフリアノンに行って、シンプルなピアスを一つ手に入れてきた。そこに、ストイシャの助言を聞いて、自分の鱗を不格好に加工して作ったのが、本品に当たる。
結局、ムラデンは『妙見子が何をもらったら喜ぶか』なんてわかっていない。でも、男の子は、女の子が本当に欲しいものなんて、結局わからなくて当然なのかもしれない。ただ、誰かに何かをあげる、という事に、ムラデンは割とまじめだった。『自分が誰かにあげられるようなもの』を持っているとは思っていなかった。だから、ムラデンは『自分があげられるようなもの』である、自分の一部である鱗を加工してあげることにした。真なる竜種の鱗である。何らかの、魔術的なお守りになるだろう、と思っての事だったという。