PandoraPartyProject

SS詳細

私の手を取らないで/Game over,continue?

登場人物一覧

有原 卮濘(p3p010661)
崩れし理想の願い手
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

・夕焼けの空は赤茶色
 サラ。サラ。サラ。細い指が紫の髪を漉く。頭を撫でる。ほう、と息を吐く。膝に乗せた・・・ソレを見る目は何かを憂いている。
「──どうした卮濘」
 ゆるりゆるり。瞳を閉じたまま、床に寝そべるクウハは枕に問いかける。半ば拉致のように連れてこられた彼は、数えるのも億劫になる程こうされている。時計もない。人も来ない。動くのはその指先だけ。ようやっと聞こえた声へ敏感に反応したが。
「んー」
 枕は口を一文字に閉じたまま首を振った。少なくともクウハにはそう感じられたが、やはりそれだけ。何も変わらない、退廃的なイマが再び流れ始めた。幸いなことに、二人はロクな人体構造をしていない。文字通り、いつまでもゆったりとした時の運行に身を任せていられる。要するに、半ば強制的ではあったが、クウハは今『暇』なのだ。
「……そうか」
 心地はいい。それは間違いない。頭部は柔らかな腿と優しい手に挟まれているし、左半身は床に沈んで、右半身も毛布に包まれている。気も、力も、意識さえも、唯一分かる手櫛がなければ簡単に薄れてしまいそう。言葉の一つだってありはしない。シリアスな様子の『有原卮濘』に袖を引っ張られ、気づけばこの屋根"裏"部屋にいた。
「ん」
 "いつもの"子供らしい振る舞いは形を潜め、卮濘はただひたすらに腑抜けた甘々な存在へと堕落させてくる。コレまでのことも。ツギからのことも。考えることそのものを否定する奉仕。記憶を奪ってゆく優しい簒奪。誰に咎められない静かな処刑。
「本当に、なんでもないの」
 この『野史If』へと干渉できるのは、認められた"登場人物"だけだから。クウハの撫でる手が止まらない限り、変わることはない。変わりたくない。逃したくない。この『部屋SS』の外は、クウハにとってツラい事が待っている。
「だから、気にしないで」
 何も知らないまま、何も覚えてないまま、苦しみもなく。"次"に至るまでのながい、長い、永い時を、蕩ける微睡みの中で、一緒に。
「このまま、寝ちゃってよ」
 身に憑いた経緯も、関係も、名前も。あらゆる因果、あらゆる関係が薄れて消えてしまうまで。真っ新に生まれ変わって、物語をゼロから始めなおそう。
「ね?」
 『新しい目覚め』を迎えるその時までは、隣にずっといて、ずっと守ってあげるから。縋り付くように頭を抱きしめた卮濘に、クウハは眠たげな瞳を薄ら開いて答える。
「今ァ、夕暮れか」
 光の差し込む出窓から微かに見える空色は卮濘の髪と同じ赤茶色。夜という一日の終わりの直前。人々・・が寝静まるべき時はもうすぐ。その認識は間違っていない。
「……そうだけど」
 表面上は平静を保ちながら、質問に質問で返したクウハを解放する。だらりと身体を起こした彼は、一つ大きな欠伸をして、卮濘の暗い瞳を正面から見据える。
「なら、まだ"眠る"ワケにはいかねぇよ」
 そして、クウハもお返しにと卮濘の頭頂部へ手を乗せた。手入れのされていない、傷んで軋む髪の毛を、わしゃわしゃと乱暴に掻き回す。
「俺は"悪戯幽霊ポルターガイスト"だぜ?」
 人を嘲笑う悪霊は、いつかの始まりのように笑って卮濘を諭す。まだ、『オマエ』を使うべき時ではないと。
「なら、今寝る訳にいかねぇよ」
 御生憎様、幽霊という存在は夜に暴れ回るもの。それをみすみす見逃せる筈がない。
「卮濘ならわかるだろ?」
 ──オマエは、俺よりも賢いんだからよ。
「……」
 わざわざこんな部屋まで作って、断れるように"お願い“までして。
「全く、不器用で奥手なんだよオマエは」
 フッと現れたかと思えばいつの間にか消えて。どこにでもいてどこにでもいない。いなくても同じこと。普段から当然のように『有原卮濘』は宣うが。
「私を選んで、もう一回さっきの続きを…しよう?」
 本当はどうなのだろう。泣きそうな顔で、無理に笑って、膝をぽんぽんと叩く『彼女』はどうありたいのか。それはきっと、自分自身がわかっているはずだから。
「悪ィ、そこには行けねえ」
 クウハはその奈落の慈愛に満ちた誘惑を跳ね除ける。卮濘はいつか言っていた。『クウハの在るが儘を見ていたい』と。
「だから、卮濘が俺の傍に来ればいい」
 頭から手を離し、両腕を広げ。守りなんてない、胸の中に飛び込んでこい。
「俺は、オマエにいて欲しい」
 それじゃ、ダメなのか?

 

「あぁ」

 それは。

「ううん」

 とても。

「嬉しい」

 貴方傲慢らしい。



「もっと強く、強く抱きしめて。私が、私のままでいられるくらい──!」
 ぎゅぅぅぅぅっ。救うはずが救われる側に。善なる終末は、少し先送り。今は、浪漫という与太話を楽しんでいよう。
「ほんっと可愛いな、オマエは」
 無邪気に笑って頭を擦り付ける卮濘。それを受け入れ抱擁するクウハ。この奇妙な関係は、もうちっとだけ続くのだ。


・夜空の色は紫色
「……ありがと、クウハ」
 一頻り寄り添った後。顔を真っ赤に腫らした卮濘はクウハから離れた。照れ臭そうに頬を掻いて、ばつの悪そうに目を逸らす。
「どういたしまして。これくらいなら幾らでも付き合ってやるよ」
 空がまだ焼けていた頃に感じられた得体の知れなさ、或いは意識の解ける心地良さは失せ、目前の人物キャラクターはただの厨二気質な少女にしか見えなくなった。いつも通りの『有原卮濘』だ。
「じゃあ、もう一回膝枕を……」
 女の子座り。曲げた膝の上に手を置いて。チラッとクウハの顔を見る。
「それはいい」
 勿論返答はツッコミ脳天チョップ。割と痛い。ふかふかの床へもんどり打って転がりまわる。
「ひどくない!?マジで許さんが!?」
 なんとか起き上がった卮濘は速攻で詰め寄って胸ぐら掴んでぐわんぐわん。
「ハハっ、じゃあどうするんだ?」
 いつもの調子が戻ってきた卮濘を見て満足げなクウハは余裕綽綽な笑みを浮かべ煽る。ぐぬぬと唸る彼女がフィンガースナップをキメると何もなかった空間からゲーム機が現れた。
「最近ゲーム配信とかやってるならっ!楽しい楽しいパーティーゲームで勝負じゃおるぁっ!」
 投げ渡されるは紫のコントローラ。電源ボタンポチッとな。タイトルコールは連打で飛ばしてステージ→キャラクターセレクト。卮濘はボクサー、クウハは仮面の剣士。
「殴り飛ばしてやるから覚悟しろォ……」
 開戦の合図と共にダッシュ入力。突撃あるのみ。対してクウハはそんな突撃癖を見抜いているからマントを被って回避、そして反撃──にカウンター。FAは卮濘。
「スカしてんじゃなぁーいっふぅーっ!」
 吹っ飛ばした所に追撃のアッパーカット。吹き飛ぶクウハの剣士は画面外……に行きかけるも耐え、翼を広げてホバリング。
「ほらほら殴りにこいよ、怖えのか?」
 足場に着地してさらに煽るクウハ。地上戦は負けたが高低差を生かした空中戦なら勝てる気しかしない。
「誰がクウハなんか……クウハなんて怖くねぇ!」
 そして卮濘は煽り耐性0%。有利不利関係なく、"誘われた"ら、"行く"だけ──!
「野郎ぶっ殺してやるッ!!」
 ジャンプ、空中ジャンプ、空中攻撃
「ほい、ほい、ほーいっと」
 をしようとしたのにクウハに簡単に狩られて崖外まで運搬、そのままメテオで死。ゲームセット。
「?」
 わからせられた卮濘は宇宙を背景に疑問符を浮かべた。あっという間の決着に現実感が薄れたらしい。
「もう一回!」
 そんな再戦願いは、夜が明けて次の朝になるまで繰り返されたのだった。

  • 私の手を取らないで/Game over,continue?完了
  • NM名わけ わかめ
  • 種別SS/IF
  • 納品日2023年09月20日
  • ・有原 卮濘(p3p010661
    ・クウハ(p3p010695
    ※ おまけSS『……おつかれさま/Good night.』付き

おまけSS『……おつかれさま/Good night.』

・おしまい。
「おやすみ、クウハ」

PAGETOPPAGEBOTTOM