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けいこく~ゆめのようなひとときにごようじん~
登場人物一覧
「お兄さん、誰かお探しですか?」
下手な店なんかに行ってそれを“解消”するぐらいならば――命を懸ける覚悟があるなら行ってみろと勧められて入った裏路地という奴で。
そこで出会った女は――まぁ、美人というか可愛いというか。
年の頃は20かそこら、肩までの銀髪に少し珍しい金色の瞳……胸は、まぁ、普通。
もしかしたらその女がそうなのだろうか、いやしかし、それは無い――こう言っては何だが俺は大きな乳が大好きだ。
彼女が命と引き換えにできる程の“凄い”ものかと言われると違う……のだが、不思議と彼女に俺の眼は釘付けになってしまっている。
「きっとあなたのお役に立てると思うんです」
何の役に立てるというのだろう。
しかし不思議と漂う彼女の甘い匂いと、リラックスさせてくれるような甘い響きは、俺の口から自分でも驚くほど自然と言葉を引き出す。
普通に考えれば、いきなり初対面の女性に言うのを憚られる、男の御楽しみを求めてやってきたなどと言う言葉を、彼女は嫌な顔一つせず聞いている。
「ふむ、ふむ。成程、それを探しに来た、と」
「あ、はい。へ、変ですよね? 初めて出会ったばかりの女性に、そんな」
「大丈夫ですよー」
だが、その時点でおかしいと気づくべきだった――!
――尤も、ただの人がそれの誘惑を前に警戒を保つことなど出来ないのだから。それは、種としての限界を超えた要求なのだから。
「良くわかったわ、あなたの欲望――」
どうしてこの女は、不意に宝石を取り出したのだろうか。
そんな疑問も考えられないほどに、俺の眼はその宝石の、刺激的な桃色に釘付けになっていた。
この宝石がどうなるのか、そう考えていたら女の中にサラサラと溶け吸い込まれていく――そうすると、女の頬が宝石の色を取り込んだみたいに紅に染まる。
微かに舌を出したその表情、それだけで大抵の男はノックアウトされてしまうんじゃないだろうか。
「あふんっ……あ、ぁっ……!」
突如として、女が艶やかな声を挙げてビクンッ!と背を反らした。
するとどうだろうか、平均的な胸のふくらみがまるで仕込まれた風船が膨らんでいくように、女の服を押し上げていく……。
余りにも異様な光景で、おかしいと感じて逃げる暇すら……いや、寧ろ、膨らんでいくこの胸に触りたいとすら思ってしまう。
文字通り胸を膨らませる、とはこの光景を言っているんだ……膨れ上がった胸はもう、女の頭を優に上回るほどに。
重そう、というよりも、ぼんやりとした頭では「このまま服が内側から破けてくれたら……」と思ってしまう。
考えていたら……ああ、やっぱり。
ビリビリと音を立てて彼女の服が内側から破けていく、胸の部分だけではなく、全体的に……という所まで頭が回らなくて。
それすら些細な程に、内側から新たに現れた彼女の変わった服装に――何と言ったら良いのだろうか。
腰の周りを頼りなく、非常に過激な布面積のV字のパンツ……俺の大好きな膨らみを包むというか、支えるというか……どこか、大きな掌が後ろから支えているようにも見える胸当て。
「んぁ、ぁあっ……っくぅ……!」
その次に生じた“とある変化”を見過ごしてしまうほどに、彼女が艶めかしく悩ましい声を挙げる。
露わになった太腿から下腹部を一撫ですれば、ヘソの周りに非常に艶やかなピンクの……角の生えたハートマーク?というのだろうか。そういった紋様が浮かび。
そこからハートマークの中が青い液で満たされたように、紋様の内側だけが青く染まって……そのまま、女の肌が一気に目も覚めるような青に変わっていく!
おまけにどうだろう、全体的に肉付きも良くなれば頭部に巻いたような角が生え、背中からは蝙蝠のような大きな翼……おまけに、思わずこっちもと思うほどに重たげな丸みを帯びた臀部のその上部、尾てい骨の辺りからは尻尾が生えている。
真っ直ぐに見つめてくる眼は真っ黒――さっきからの白から塗り潰されたような、光沢のある黒。
少しだけ……甘ぁく濡れたような輝きを帯びていることだけを除けば、変わらない金色の瞳。
にも関わらず。
白目が黒に変わっただけなのに、黄金が如何に人類を狂わせてきたものなのか思い知らされる。
蛇に睨まれた蛙なんてものじゃない、魂の奥底まで見透かされるような、出会ってはいけない何かだ!!
「お、お前が……!?」
「あらあら、気付いてなかったの? 間抜けな餌ねぇ、いひひ♪」
何よりも俺の眼を惹く、彼女の頭よりも大きな“それ”を彼女は自分で持ち上げ、長く伸びた舌を見せつける。
その周りに甘い――肌の白かった時よりも濃密で、はっきりと薄靄として見えるほどに刺激的な桃色の湯気が、官能的に俺の頭を狂わせる……!
「んん? 触らないの? 今さら我慢なんて、ネェ?」
――最初に“それ”に触れてしまうのは憚られた。
それに触れてしまったら最後、全てを奪われる……それは死ぬよりも酷いことになりそうだったからだ。
だが触らずにはいられない、それはもう、男としてこれに触られない――けど触ったら恐ろしい! 触りたい! 怖い!!
欲望と理性の葛藤の末に、俺が選んだ道は彼女の頬……しかしこの微かな頬の膨らみと曲線、不気味さすらも感じる青い肌の手触りは甘やかで、それだけで俺の何かが弾けてしまいそうな気すらする。
知らない者のような触り方、しかし蛇のように長い舌が俺の手を触れるか触れないかの位置で煽るようにうねる。
にも関わらずその舌より感じる彼女の熱と、揮発する唾液よりの刺激が頭を蕩かす。
もう、我慢できない。
伸ばしてしまった。彼女が重たげに支えている、その立派な、と言う言葉では収まらない膨らみに。
どうなるか知りながら、伸ばした掌に返ってくるものは。
目の前がチカチカして、ただ、この五指だけが動く――ああ、これなんだ!
これこそが、命と引き換えにできる覚悟に与えられる、頭が焼き切れてしまいそうな快感なんだ!!
漸く合点の言った俺が夢中で指を動かしていると、女が甘ったるく囁いてくる。
「さぁ……叶えてあげる? あなたの夢を、全部、ゼェンブ♪」
このまま叶えてくれるのならば命だって惜しくない。
彼女の腕が俺の腰に回る、身体が引き寄せられ、俺の求める一番の立派な柔らかさと温もりの中に招かれる。
背中が翼で押さえつけられる、尻尾が太腿を縛り付ける……伸びる舌が俺の頬を妖しく這う……命というものが飴みたい溶かされていく。
触れた頬より削ぎ取られるような、けど甘美な刺激が肌の内側から俺を犯してくる――!
どうせ、このまま抗えないっていうのなら。
「いひっ……♪」
女のそれに掌を押し当て、返ってくる質感に頭の奥から二十の指先までに、甘い痺れを満たしつつ。
目の前を彼女の纏う薄靄のようにピンク色に染めながら、唯一勝っていた背の高さだけで、彼女に体重を掛けて――!
それから。
漆黒の夜空に妖しく煌めく三日月を目掛け、形容し難き男と女の入り混じった悍ましくも甘美な声が響く。
そして闇の眷属の時間が過ぎ、太陽の輝きが人の時間を告げれば、路地裏に居たのは。
ありとあらゆる水分が抜けてやつれたような男が、大層に幸福感に満ち溢れた顔で涎を垂らしながら横たわる光景であり。
ただ一つ分かるのは……ここに一人、夢の虜となり現を吸い取られた男がいる、ということだった……。