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SS詳細

不凍港ベネクトにて

登場人物一覧

ソルベ・ジェラート・コンテュール(p3n000075)
貴族派筆頭
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽

 不凍港ベネクト。
 先のグレイス・ヌレ海戦での海洋王国と鉄帝国の停戦協定を経て、輸送ルートとして使用権を得たその地は鉄帝国特有の厳しい寒さに晒されながらも『凍る事無く』美しき青い海を望んでいた。
 輸送ルートとして貸し与えられたその港へと商船の護衛として同行したカイト。
 海洋王国で生まれ育った彼には船乗りの友人や知己は多く居り、敵国であった鉄帝へ向かうのは少し怖ろしいという彼らのサポートとして『暇つぶし』としても同行したは良いが、ベネクトからの帰路は数日後となれば暇を持て余すというものだ。
(この港は来たこともなかったからな……面白いものはあるかなー?)
 空を駆け、カイトはぼんやりと眺める。一人、あまりに知らぬ土地で過ごせと言われるのもどう過ごせばいいかも分からない。土産でもあれば父や母も喜ぶだろうか。しかし、ベネクトの土産物として何がいいのかをカイトはあまり詳しくない。ある意味で『ちょっかいをかけてくる敵国』の視察状態なのだから、観光地としてのニーズは求めてこなかったからだ。
「……あれ?」
 見下ろせば、鮮やかな蒼が見える。ぴん、と伸びた背筋は気持ちいい程で、橙と赤の混じった羽を持ち、質の良い衣服に身を包んだ青年の事をカイトはよく知っていた。
 一気に急降下し、青年の傍らに降り立てば瞬間きょとりとした顔をした後に――「おや」と柔らかな笑みを浮かべている。
「よっす! お疲れ様だ……――ッ、じゃなかった、本日も大変オヒガラ良く?」
「ふっ――はい。ご苦労様です。『お日柄も良い』ですね?」
 何時も通りの気さくな口調を咎め、窘めるような護衛の視線を受けて、カイトはちぐはぐで不慣れな敬語を口から滑りださせる。明るく快活で、幼い子供の様に風に誘われ歩むのがカイトだ。戦闘能力が上がったとしても教養に関してはちょっぴり甘いのだ。
 そんな気さくな彼に小さく笑みを溢した青年――ソルベは常の通り楽し気な態度で返答を一つ。明るい態度ではあるが、その声音はいつもとは違い疲労の色が滲んでいる。
「ソルベ? 大丈夫か。ちゃんと肉食ってるか?」
「おい――」
 護衛がコンテュール卿になんてことをと窘めようと口を開いたそれを留めてからソルベは「食べてますよ。勿論」と小さく笑う。
「それとも、私は肉が食えない病弱な男に見えますか?」
「いや? でも、微妙な年齢……だろ? 兄ちゃんが言ってたけどさ」
 微妙なん礼と言われてしまうとちょっぴり『複雑』な三十代ではあるがカイトは無礼を働いた訳ではなく、心配しての言葉である事をソルベは翌々理解し、その心遣いが嬉しくもあるのだ。
(……鉄帝との海上戦争とその尻拭いで疲れてるんだろうな……。
 折角戦争も終わって絶望の青に繰り出そうって段階なんだ。少しでも楽しませてあげられたらいいんだけどな。それから、疲労も少し取れたらいいけど……)
 じい、とソルベを見詰めるカイト。その視線に護衛は「どうした」とシャルラハ家の青年を眺めているが――ソルベはと言えば『何か面白い事があるのだろう』と言った様子だ。
 海洋王国でもその呼び声高い名声を持ったカイトはその父が軍部に所属していることがじんわりと周囲にも伝わりつつある。それもあってか、ソルベの護衛となれば彼の父の事を思って頭が痛くなる。(海洋に戻ったら彼の父に礼儀作法について教育するようにきつく言いつけよう、と護衛とて考えていた)
「……そうだ、視察の間は俺も護衛してようか?」
「おや。それは良いですね。イレギュラーズの護衛なんて光栄です。
 この辺りは余り来たことがないでしょうし、私もまだまだ視察の途中です。付いてくるとなれば、それはそれは大変でしょうけれど?」
「はは、ソルベについていくってなりゃ面白いだろ!」
 ソルベがそう言えば、周囲の護衛達も何も言えない。カイトはソルベの承諾ににんまりと笑って、ソルベの話を聞きながら見て回りたいと彼の背を追い掛けた。
 勿論、博識で内外にも精通しているソルベはこのベネクトの事もよく調べている。銅像や港の特色などを紹介するソルベをじいと見つめながら横に立ってみて改めてその背丈に気付いた。
「そういやソルベってちっちゃいよなー。あ、俺が大きいだけかもしれないけどさ……。
 細っこいし、疲れてそうだし。やっぱりちゃんと肉食ってるか? あそのこ屋台の焼き鳥でも食うか?」
 店舗の前に備え付けてあるであろう屋台より漂うかぐわしい香りを感じ取りながら、ソルベはじいとカイトを見た。その視線は『そんなにも細く、頼りなく見えるのだろうか』と言った意味だったがカイトからすれば『焼き鳥=自分たち』という公式が成立してしまったのだ。
「ソ、ソルベ? ……もしかして共食いって思ったのか?
 いやそもそも猛禽類って鳥も喰うぞ? 俺が焼かれるのは嫌だけどな!」
「勿論。私だって飛行種と言えども普通に食事はとりますし、飛行種と食用の鳥は違う存在ですからね。しかし……ふむ、成程。じゃあ私も君にとっての食糧ですか」
 くすりと笑ったソルベにカイトはぱちりと瞬いた。勿論、鳥の種類で言えばソルベは捕食の対象ではあるが、そんなことをするわけないだろうとカイトは笑う。
「ソルベを喰ってもあんまり腹持ちよくなさそうだよな……」
「まあ、そうですね。自分自身としてもあまり味には自信はありませんしね」
 小さく笑ってから、ソルベは自身の護衛に目線を送る。何か軽食でも出来る場所を探せという意味だろう。
 にこにこと笑いながら「あれはなんだ?」と首を傾げるカイトに「ああ、あれはこの港ではよく見られるものですね」と解説を続けていく。
「それにしても寒いよな……」
「そうですね。しかし、貴方の場合はイレギュラーズなのですから、神託の少女の『ご加護』を受けて移動すれば寒い土地に居付ける必要はなかったのでは?」
「まあ、折角来たからには観光もしていきたいし――それに何よりソルベを見かけられたのはラッキーだろ?」
 にんまりと笑ったカイトへとソルベはゆるりと頷いた。さて、そう言われれば嬉しくもある。
 冷ややかな空気の中、護衛が用意したという温かなスープを店内で食べようとソルベがカイトを誘う。「いいのか」と首を傾げるカイトにソルベは「私は貴族ですからね」とふふんと笑って見せた。
 そうしてみれば近所の何か凄い面白いお兄さんなのだが、彼自身は頭が切れ、有能な貴族である事は鉄帝国との講話やグレイス・ヌレでの様子を見れば分かる。
(いつも『有能なコンテュール卿』であってもとっつきにくいってもんかな……)
 オニオングラタンスープにバケットを沈めて食べるソルベの横顔を見ながらカイトはぼんやりと考えた。
 彼は何時だってソルベ・ジェラート・コンテュールという明るい青年であろうとしてくれている。その様子を見れば心も踊る――というものだが……さて、『本来の彼』はどちらなのであろうか。看取す事のできない横顔を眺めながらカイトは温かなスープにスプーンを差し入れる。
「お口に合いませんか?」
「ん? ああ、いや。そんなことはない――けど、ソルベはこういうのが好きなのか?」
「そうですね、何だって好きですよ。ああ、けれど妹――カヌレはこうしたものが好きですね」
 妹が幼い頃、熱を出せばスープが飲みたいと駄々をこねたとソルベはまるで友人に話すように告げる。そうした会話をカヌレ・ジェラート・コンテュールが聞いたならば拗ねてお叱りの言葉の一つや二つ飛んでくるだろうが、今日は彼女はこの場には居ない。
「へえ? ソルベって良いお兄ちゃんってやつだったんだな」
「さあ、どうでしょうか。余りに妹に構ってやれない兄だったかもしれませんよ。
 何分、貴族の世界というのは傍目から見るよりも泥に濡れた場所ですから――妹にはできればそうしたものには触れず天真爛漫に生きていってほしい物です」
 静かな声音でそう言ったソルベにカイトはぱちりと瞬く。
 どちらが『本来の彼』であるかは関係ない。肩の荷を下ろして、彼自身がやりたいように話をしてくれるのならば――それが一番なのだ、とさえも思えた。
「なあ、ソルベ」
「なんですか?」
「この後もどこか食べ歩きでもしながら視察しようぜ。それから土産をカヌレに持って帰ってやろう」
「ああ、いいですね。何があったか……調べながら歩きましょうか」
 スプーンで掬い上げた亜麻色の玉ねぎが喉を通り落ちていく。鼻から抜けたその香りに一心地をついてから、ソルベはゆっくりと立ち上がった。
「さて、『護衛』さん。いきましょうか」
 柔らかなその声音にカイトは頷く。さあ、まだまだベネクトの視察は続くのだ。

  • 不凍港ベネクトにて完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2020年02月07日
  • ・カイト・シャルラハ(p3p000684
    ・ソルベ・ジェラート・コンテュール(p3n000075

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