PandoraPartyProject

SS詳細

夢から覚めたら。或いは、もう今は、どこにもいない…。

登場人物一覧

咲花・百合華(p3p011239)
白百合清楚殺戮拳

●白昼の夢
 凛々しく、華蓮で、それでいて不思議と広い背中を覚えている。
 きっと、いつまで経ってもそれを忘れることは無いだろう。
 咲花・百合子の、その名の通りまるで咲き誇る白百合の花のような美しい笑顔も、鈴が鳴るような笑い声も、自然と思い起こされる。
 目を空ければ、彼女は今でもそこに居る。
 そんな気がしていた。
 
 唯一抜きんでて並ぶ者なし。
 まさに美少女の究極完成体。
 生きる戦神、或いは、大衆を先導する果て無き求道者。百合華の目から見た咲花・百合子という存在は、誰よりも鮮烈な輝きを放ち、誰よりも先を歩き、そして誰もを導く者であっただろう。
 彼女は後ろを振り返らない。
 彼女は誰も待ったりしない。
 だが、誰もが彼女の後ろを歩んだ。その可憐な後ろ姿に追いつきたいと、必死に研鑽を積み、彼女の背中を追いかけた。
 彼女はいつも、道なき道を歩んでいるようだった。
 彼女の前に道はなく、彼女が歩んだ後には白百合の咲く道が出来る。
 人々は、白百合の花畑を辿り、百合子の後を追いかけた。
 そんな彼女は、もういない。
 2度とその声を聴くことは叶わず、2度とその微笑みを見ることは叶わず、そして、2度と追いつけない。
 手の届かない高みへと、彼女は皆を……百合華を置いて、行ってしまった。

 気が付けば、百合子の死から数日の刻が過ぎていた。
 その間、起きていたのか、眠っていたのかさえ定かではない。すっかり涙は枯れ果てて、喉は張り付き、口の中には血の味がしている。
 ふと窓の方へ目を向ければ、幽鬼のような己の顔が映っていた。
 一瞬、それが自分の顔であることも分からないほどにやつれ果てた酷い顔だ。
 これが美少女の顔か。
 そう思うと、笑えて来る。
 笑えて来るはずなのに、窓に映った百合華の顔はほんの僅かも笑んではいない。精神に体が追いついていない。まるで心と体が切り離されたかのような不安定な喪失感だけがあった。
 あぁ、そうだった。
 自分はずっと泣いていたのだ。
 泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、喚いて、泣いて、怒鳴って、嘔吐て、そしてまた泣いて、声の限りに泣いて、喚いて、狂うほどに吠えて、そして気を失った。
 気を失って、目を覚まして……あの日の話が、百合子が死んだという報が嘘であったなら、夢であったなら、それはどれほどに幸せだったことだろう。
 だが、嘘でない。
 夢ではない。
 最愛なる美少女は、孤高に咲く白百合の戦乙女は、もうこの世にはいないのだ。

 自分も後を追いかけようか。
 そんな考えが脳裏をよぎる。
 自分の手を見下ろした。白く、か細い美少女の手だ。
 この手であれば、自分の喉を掻き切るぐらいは造作も無い。
 それとも、腹を捌くのが良いか。
 後を追いかけられるのなら、死に方なんてどうだっていい。
 あの世に馳せ参じ、再び、百合子の背を追いかける。そんな日々が訪れるのなら、今生にもはや未練など無い。
 未練など、無い……そのはずなのに。
「本当に?」
 自問自答。
 答えは出ない。
 答えは出ないが、その時、百合子の声が聞こえた。
 幻聴だ。
 過去の記憶を、かつて耳にした声を、百合華の脳が想起したに過ぎない。

『ただ強くある方法しか分からなくて、ずいぶん時間がかかってしまったけど、こんな舞台に立てたのは、貴女が最初に人としての見本を見せてくれたから』

 百合子の結婚式の日の記憶だ。
 あの日、自分は百合子の顔を見ることが叶わなかった。自分が酷く醜い存在に思え、終ぞ、百合子の前に姿を現すことが出来なかった。
 そんな自分に、百合子は何と言っただろうか。
 思い出すまでも無い。
 百合子の言葉を、一言一句、違わずに今も記憶している。

『ありがとう百合華。憧れる貴女はまだまだ遠いけど、これからも貴女が示してくれた道を進みます』

 そう、百合子は言ったのだ。
 憧れる……と。
 私が示した道を……と。
 ただ、百合子の背を追うばかりだった自分を、百合子はそのように評価してくれた。認めてくれた。誇りに思ってくれた。尊敬してくれた。
 そんな資格が自分にあるのか。
 今の自分は、百合子の前に胸を張って立てるのか。
 否。
 断じて、否だ。
 今も、今までも、そしてこの先も、自分は百合子に届かない。
 生きているのなら、届いたかもしれない。
 生きているのなら、追いつける。
 けれど、死んだ者に追いつくことは出来ない。
 ここで自死を選んだとして、百合子は自分を再び迎え入れてくれるか。
 否。
 鮮烈に輝き、生き抜いた百合子の隣に立つ資格が、今の自分にあろうはずがないではないか。
「生きなくては。再び、いずれ、逢うために」
 百合子が憧れた百合華に、百合華は至らなければいけない。
 百合華は前歯で親指の腹を食いちぎる。
 溢れた血を、そっと唇に塗った。
「咲き誇るところを、お見せしましょう。孤高に咲く白百合の姿を」

  • 夢から覚めたら。或いは、もう今は、どこにもいない…。完了
  • GM名病み月
  • 種別SS
  • 納品日2023年07月28日
  • ・咲花・百合華(p3p011239

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