PandoraPartyProject

SS詳細

【RotA】麻薬密売組織を制圧せよ

登場人物一覧

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
日向 葵の関係者
→ イラスト


 ある日、練達某所。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
 人が行き交うコンクリートジャングル……再現性東京の街中を走る男性が一人。
 緑のメッシュが入った黒髪セミロング、オッドアイのクールな青年。
 元居た世界ではサッカーにてチームのキャプテンで、ポジションがMFだった【紅眼のエースストライカー】 日向 葵 (p3p000366)である。
 生憎と、混沌世界におけるサッカーは練達においてさえ部活やサークルといったレベル。
 それもあって、エースストライカーという肩書は何の役にも立たない。
 そんな葵は混沌にイレギュラーズとして召喚されてからローレットに所属する。
 かなり早くからローレットに所属していた葵だ。
 混沌中の依頼、紛争解決と様々な依頼をこなしてきた彼は、その合間に混沌出身かつ在住の者達、ローレットの所属のあるなしにかかわらず同じイレギュラーズとして召喚されてきた仲間とも交流を深める。
 その1人が金髪でやや子供っぽさが残る青年だ。
 頬の傷が印象に残る閃洞 光は葵と同じチームに所属しており、FWとして俊足を活かした活躍を見せていた。
「ったく、フラッシュのやつ、どこ行ったっスか……」
 その光……葵は元居たチームメイトとフラッシュと呼んでいたが、街を駆け回って彼を捜す。
 葵と光はとある依頼を受け、街中で情報収集に当たっていた。
 なんでも、この練達にて麻薬を売買を行う組織があるらしく、その調査依頼が葵達へと舞い込んだのだ。
 とはいえ、裏社会のことはそう簡単に情報が得られる物ではない。
 葵も心当たりのある場所を片っ端から当たり、聞き込みを行ったのだが……。
 かろうじて、密売現場から麻薬らしきものが入った入れ物などを回収できたが、売人や客に繋がる情報は得られず。
 目立った成果を上げられなかった葵だが、光の方はどうなっているだろうかと情報共有すべく彼と合流しようとしていたのだ。
 駆けていた葵はあちらこちら店が立ち並ぶ通りへと差し掛かったところ、通り過ぎたのは動物カフェ。
「ん……?」
 何気なく窓から見える店内に視線を走らせた葵は、見慣れた顔がいた。
「おー、よしよしよしよし」
 にやけた顔をした光が多数の猫に囲まれて至福のひと時を過ごす。
 ただの猫と侮るなかれ、もふもふ大好きなケモナー達からすれば、猫に囲まれるだけでとてつもないエネルギーがうんぬんかんぬん。
 光は人目もはばからず、片っ端から猫の腹へと顔をうずめて思いっきり息を吸い込む。
 おそらくは、いや、きっといい匂いに違いない
「ぷはー、やっぱり猫はいいね……猫は全てを解決してくれる……」
 猫の手も借りたいとは言ったものだが、本当に猫が解決してくれるのなら、自分達に依頼など舞い込んでくるはずもない。
 そんなツッコミを心の中で入れつつ、葵は店へと入る。
 カウンターで店員へと簡単に事情を説明し、一応利用料金も支払ってから葵は一直線に光るの元へと向かう。
「…………」
 無言で近づいてくる葵に、光はようやく気付いて。
「あ、キャプテン!? 大丈夫だよ、サボってないよ!」
「猫を吸いながら言うセリフじゃねーんだよオメー」
 ジト目で告げる葵の言葉を受け、光はようやく猫から顔を話していた。

 しばらく、2人はジュースを飲みながら集めた情報を交換する。
 回収した物品を出そうとした葵だが、周囲の猫達のことを考えて話に留めた。
 一方の光は……。
「えへへ……」
 一応は動物カフェに当たりをつけて調査を考えていたようだったが、無類の動物好きである光は入った店ですぐに猫に囲まれて動けなくなったらしい。
 葵の話を聞いている間も、光はずっと猫に癒され続けていた。
 終始、笑顔でいた光に、葵もすっかり呆れ顔だ。
「動物好きは別にいいけどよ、少しは状況を考えて欲しいっスね」
「えへへ、ごめんごめん。ここからはマジメにやるからさ」
 悪びれる様子もなく謝る光に、頭を振る葵。
 そこに、2人の話へと聞き耳を立てていた店長が近づいてくる。
「静かに」
 やってきたのは、立派な髭を蓄えた中年の男性だ。
 しっかりと手入れされていて清潔感を感じさせる見た目であり、コーヒーの匂いを漂わせる喫茶店のマスターを思わせる。
 渋さを感じさせるイケメンダンディではあるが、店内の猫が近寄ってくれば表情を緩ませるところ、やはり動物カフェの店長だと感じさせた。
「あんまりここでその話はしてほしくないかな」
 そう前置きした店長はこっそりと2人に耳打ちする。
「君達が欲しがっている情報、提供しよう」
 もっとも、それなりの代金は頂くけれど、とちゃっかりしている店長だったが、ほとんど収穫なしだった葵と光にとっては渡りに船だ。
「「マジかよ」」
 2人は呆気に取られて顔を見合わせてしまうのだった。


 動物カフェ店長のタレコミによれば、再現性東京外れにある倉庫街に、麻薬密売人のアジトがあるという。
 日が落ち、葵と光は人通りが少なくなったのを見計らい、そのアジトへと近づいていく。
「本当に僕達だけで大丈夫?」
 光が臆するのも無理はない。
 こちらは現状2人だけであり、密売組織のアジトへと突入するには戦力的にはかなり心もとない。
 対する相手がどれだけ危険な相手か、現状分からないのだ。
 葵も自分達だけで制圧できるか、正直はかりかねていたのだが。
「最悪、撤退してからローレットに話を回せばいいっスよ」
 出直して準備を整える間に逃げられる可能性もある。
 ここは踏み込むべきだと2人は判断し、一気に正面から飛び込む。
 倉庫の扉を開いた2人は、ゆっくりと倉庫中央へと歩いていく。
「見ない顔だな」
「新顔か?」
 取り囲んできたのは何れも若いヤンキー風の男達。
 にやけながら歩み寄ってきた若者1人ずつに葵も光も拳や蹴りを叩き込み、あっさりと伸してしまう。
「「野郎!!」」
 一気に警戒モードが高まった密売組織の構成員達はすぐさま身構える。
 中には、光り物を抜く者の姿も……。
 ただ、葵も光も荒事には慣れている。
 光も長剣を抜いて刃を持つ構成員へと飛び掛かり、刃を叩き込む。
 構成員も所詮は下っ端。
 本当に組織の為に働いているという感じでもない相手とあって、光は峰打ちで叩き伏せて相手を昏倒させる。
 勿論、葵も負けてはいない。
 彼の攻撃手段は、緑色の吹き荒ぶ疾風が描かれた灰色のサッカーボール。
 愛用のそのボールをシュートすると、弧を描いて構成員複数を叩きつける。
 ボールは葵の元へと戻り、さらなるシュートで構成員を叩き伏していく。
「こいつ、ローレットの、ひゅ……日向 葵だ!」
 ローレットとしての活動の長い葵のこと、組織の末端員にも彼の名を知る者がいたようだ。
「さすがはキャプテン!」
 こんな下っ端にすらも名前を知られているキャプテンこと葵を、光は誇らしく感じていたようだ。

 次々に構成員を倒していく葵&光の快進撃は止まらない。
 2人はアジト奥へと進んでいき、親玉とその取り巻きのいる奥の部屋へと駆け込む。
 そこにいたのは……。
「「…………?」」
 葵も光も、内部の光景に目を見張る。
 練達……特に再現性東京は混沌へ召喚されたことが認められず、元居た世界での生活と求めた者達が集まる為、基本的に旅人が多い場所として知られる。
 だが、彼らと接触を試みる混沌出身の民も多い。
「「んだぁ……?」」
 アジト奥の部屋でくつろいでいた親玉も取り巻きもその全てが獣の因子を感じさせる獣人、あるいは完全に獣化した者ばかりだった。
「おい、余所者を勝手に通してんじゃねえ!」
 牙を剥いていたのは白狼の因子を持つ親玉だった。
 彼らは何れも獣種であり、ラサや鉄帝などから流れてきた者達だと思われる。
 そんな彼らがこの再現性東京にまで手を出してきたことに、葵は少なからず怒りを覚えていたのだが……。
「君たちが何を企ててるか分かんないけど……もふもふさせてくれたら、とりあえず黙っててあげるよ!」
 前方を見回す光の目は、なぜかギラギラと輝いていた。
「……ん? おいフラッシュ、今何て?」
 光の呼びかけに、相方の葵だけでなく、密売組織の上層部である獣種達ですら呆気に取られてしまう。
 確かに親玉を筆頭として、取り巻きらも全身に生えた毛はかなりのモフみを感じさせる。
 無類の動物好きである光にとっては、先程の動物カフェと同じような楽園にも似た空間だったのだろう。
「え? だからもふもふさせてくれたら秘密にするって……」
「少しは状況を考えろつったろ!」
 だが、密売組織の構成員達はそうは思っていない。
「チッ、ローレットに知られたら、仕事ができなくなるぞ!」
 親玉がそれとなしに子分達にだけ通じるように呼び掛けるが、それが麻薬であることは明白。
「取り押さえろ!!」
「「ウオオオオオオオオ!!」」
 親分の一声で、取り巻きどもが一斉に吠える。
 そして、高く跳躍した彼らは葵と光に襲い掛かってきた。
 これまでの構成員らはどうやら練達在住のさほど力を持たぬ旅人ばかりだった。
 ただ、組織上層部は荒事慣れした者ばかり。
 おまけにフィジカル面に秀でた獣種であり、高く跳躍し、発達した膂力で拳を振り上げ、刃を振りかざしてくる。
 無謀に挑んだ者は返り討ちにあい、その身を引き裂かれてしまいかねない。
 とはいえ、その獣種達も相手が悪すぎた。
 練達の裏社会でこそこそと利益を貪るような相手と、混沌中を股にかけて活躍するイレギュラーズとでは力の差は明らか。
「もふもふっ!!」
 動物カフェも愛嬌あってよかったが、こちらはなんと無料でもふもふを堪能できるとあって、光は嬉々として飛び掛かってきた構成員を片っ端からも振りまくる。
 最初こそ、構成員は狂暴さを全面に出し、見た目素朴そうな少年に見える光に襲い掛かっていたが。
「ぴこぴこ動く耳、大きく揺れる尻尾、柔らかそうなその毛、たまらないね!」
「「ヒッ、ヒイイイイイイッ!」」
 次第にこれでもかともふってくる光に恐怖すら感じて、逃げ惑うようになってしまう。
「てめぇら、真面目にやれ!」
 そんな不甲斐ない取り巻きどもに、親玉も怒り心頭になって叫ぶ。
 ただ、一度恐怖を覚えた相手に挑むのは非常に難しい。
 その親玉には、取り巻きの半数をのした葵が相手になる。
「年貢の納め時だ。観念しろ」
「クッ……」
 名前の知られた相手となれば、さすがの親玉も二の足を踏むが、それでも組織を守る為と鋭い爪を振り下ろしてくる。
 しかしながら、葵は悠然と距離をとり、地に置いた愛用のサッカーボールを一蹴すると、大きくカーブしたボールが親玉の爪をへし折ってしまった。
「まだだ!」
 それでもなお牙を剥く親玉が一気に葵との距離を詰めようとしたが、真横から光が飛び掛かってくる。
「もふもふ、もふもふ!」
 いかに恐ろしい組織の親玉だろうが、動物大好きな光にかかっては形無しのようだ。
 取り巻き同様、親玉もまた光が心行くまでもふられることに……。
 最初から無類の動物好きの光に振り回されていた葵だったが、まさか相手を圧倒するほどとは……。
「わ、分かった。麻薬にはもう手を付けない。本当だ! だから、や、やめ、あっ、アオオオオオオオオオン!!」
 親玉のあられもない姿に、取り巻き達からも憐れみの視線が……。
 やれやれと頭を振る葵はある程度光が満足するまでその様子を見守る。
 しばらくして、ぐったりするほどに疲弊した親玉へと、葵はゆっくりと歩み寄って。
「とりあえず今回は黙っててやるが、次に表立った時は確実に潰す」
 潰すといった葵はオッドアイを煌めかせる。
 吸血鬼の血を僅かに顕現させた葵から発せられるプレッシャーに、構成員らは皆毛を逆立て、仰向けになって服従のポーズをみせた。
 葵もそうだが、爛々と目を輝かせる光も、構成員にとっては畏怖すべき存在。
 もはや、彼らに抵抗の意志など微塵もなく、アジトにあった麻薬も全て集めて降伏する。
「俺達が持ってる麻薬……マタタビンはこれで全てだ。……本当だ!」
 必死になる親玉に、取り巻きどもも揃って頷く。
 ともあれ、密売組織のアジトを制圧できたし、問題のブツも取り押さえた。
 後はローレットから増援を呼んで事後処理を行えばよいだろう。


 ある程度事後処理が完了した頃には、日がすっかり落ちていた。
 丸一日、街を駆け回り、アジトの攻略と忙しなかったが、光は肌をてっかてかにするほど動物を堪能する一日だったようで。
「満喫したっスか? フラッシュ」
「うん! もう最高!」
 その気になればまだまだもふりたいと言わんばかりに、光は鼻息荒く答える。
「それで、何て報告するつもり、キャプテン?」
 とりあえず、所持している麻薬は抑えた。
 流通経路についても調査を進める形となるだろうが、今回の密売組織が再度活動することはないだろう。
「あー……テキトーに『反省して二度としないと約束したから見逃した』つっとけばいいだろ」
 再び動こうものなら、2人がまた目を光らせる。
 葵の威圧感、そして、全てを蹂躙されかれぬ光に、獣種達が再度抵抗することはないだろう。
 ――この後は、2人だけでささやかな打ち上げを。
 ともあれ、今日は依頼達成ということで、葵と光は満足気に報酬を受け取りに依頼主の元へと向かうことにしたのだった。

  • 【RotA】麻薬密売組織を制圧せよ完了
  • GM名なちゅい
  • 種別SS
  • 納品日2023年07月08日
  • ・日向 葵(p3p000366
    日向 葵の関係者
    ※ おまけSS『【RotA】新たな行きつけのお店』付き

おまけSS『【RotA】新たな行きつけのお店』


 その後――。
 ローレットイレギュラーズ中心とした活躍もあって麻薬シンジゲートが一斉に検挙され、マタタビンが流通されることはなくなった。
 なんでも、一部幻想の貴族まで拿捕されたというから、思った以上に大きな組織となっていたのだろう。
 その末端員に至るまで、拘束されていたというが、あの時、葵達が見逃した獣達が捕まることはなかった。
 彼らがどうなったのかというと……。

「いらっしゃいませー」
 あの日、光が訪れた動物カフェに姉妹店ができたらしく、そこでスタッフとして働いているという。
「わふう、わふふう」
「あおおおん」
 中には、動物になり切り、再現性東京に住む動物好きをもてなしている。
 彼らの就職を斡旋したのは、先の渋い店長だというから、どこまで事情通だったのかが気になるところだ。
 さて、その姉妹店の店内にはもちろん、光の姿も……。
「もふもふ、もふもふ!」
 犬に引っかかれて頬に傷を残す光は、犬だけは少しだけ距離をとって接するが、それでもすぐに纏めてもふり始める。
 再現なく動物達を愛でる彼を、同行していた葵は冷えたジュースで喉を潤しつつ呆れて見つめるのだった。

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