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【RotA】狂気+鉄帝主義=死

登場人物一覧

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
日向 葵の関係者
→ イラスト


「なんつーか……最近は依頼も下火っスねえ。大きな依頼はあるけど細々したヤツがなんとも」
 ローレットの掲示板を飢えから下までくまなく眺めてから、日向 葵 (p3p000366)は深々と溜息を吐いた。ここ暫く、海洋や練達、豊穣などで相次いで起きる事件に代表される『散発的な事件』は細く長く、混沌全体を覆うかのように発生していた。それに限らず細々とした仕事はあるのだが、とみに増えたイレギュラーズの母数に対して依頼の数は頭打ちの様相を呈している。そこに加え、依頼には向き不向きというのがある。無作為に受けているだけではデメリットばかりを撒き散らしてしまう……彼ほどの実力なら瑣末事ではあるが、やはり選り好みというものがある。
「葵さん、お仕事をお探しですか?」
「げっ、クルミ……?」
 と、悩める葵へと差し伸べられた手と声。思わず振り向いた葵の前には、クルミこと風上 狂実(かざかみ くるみ)の姿があった。
 げ、と彼が呻いたのも無理はない。彼女は基本的にはお淑やかで大人しく、謙虚で物静かな性質を持っているのだがその本質は召喚時に大いに歪んでしまったようで。『提案』をした際に突飛な案が飛び出してくるきらいがあった。
 まあそれもごく限定的な話。普段の彼女は一事が万事で異常な依頼ばかりではない……筈だった。
「それでは、鉄帝から舞い込んだ頼まれ事を幾つかお願いしたいんですが」
 そう切り出した彼女の『提案』は、実に簡単なものだった。
 古代遺跡から出てきた小型機動物の進行を止めるための方策、酒場に常習的に現れる暴漢の対処、酒癖の悪い相手をどうにかこうにか暴れる前に酔い潰す手伝い、これまた古代遺跡の周囲に延々と吐き出される爆発物を延々発射3秒以内に投げ返し続ける仕事……などなど。まあなんだろう、個々の仕事は簡単、単純作業、イレギュラーズなら容易いレベルなのだろうが、かかる時間と手間と集中力の持続に難があった。
「……という感じです、お願いしますね」
「オッケー了……ん? いや多くないっスか!? 多いっつーか最後だけなんかおかしくねぇか?」
「大丈夫ですよ、根回しはしておきましたから」
「いやそういう問題じゃなくて!」
 了解と言いかけた、オッケーと言ってしまった。言質を取られた形で口を滑らせてしまった葵だったが、なんか雲行きがどんどん怪しくなってきた。これは断ったほうがいいのではないか、そう彼が口にしようとした時、背後に異様な気配を感じた……そう、敢えて言葉にするなら「断ったらハムにされそう」な圧。よもや葵と狂実、二人だけの会話にそんな異物が挟まる訳はないが、彼は確かに感じ取ったのだ。その狂気を。
「わかったっスよ、そこまで言うなら受けるしかないっスね」
「有難うございます、頑張りましょうね!」
「頑張るのはオレだけだけどな」
 斯くして、葵は狂実に引っ張られるままに依頼をこなすため移動することになるが、彼女は一番大事なことを言っていなかった。
 ……この依頼、『全部合わせて一日で』解決しないといけないのだ。


「出てくる機械はまっすぐにしか移動できず、身長以上の段差は登れないようです。そして木板程度の障害は壊して進行するので、進行方向の木造住宅ばかりの家は被害をうけるか撃退するしかありません、つまり」
「つまり?」
「入り口の周りを岩で覆い尽くして、岩も突破できないようにセメントで固めてしまえばいいんです! はい火山灰!」
「固まるまでのこと考えてるっスか?」
「押し返せば大丈夫です!」
「ふざけんな少しのズレも命取りじゃねえか!」
 普通に考えればかなり無茶な作戦だが、機械の出口がなんとかギリギリ葵の体で押さえつけられるサイズだったことが幸い(災い)した。延々数時間、少し暖かくなってきた鉄帝で力仕事。なお一般的なコンクリートは5度以上で強度発生まで4時間だが火山灰は知らん。

「思うんですけど、暴漢は暴れる動機と暴れる力があるから暴れるんですよね」
「なんだその胃袋があるから腹が減るみたいな」
「ですから手の腱を切って腕を動かなくするとか、足の腱を切ってひきこもりにするとか」
「スプラッタが好きなのはわかるけど幾ら何でもやりすぎじゃねえか!? 社会復帰のために軍警察に突き出すとかあるだろ!」
「でも復興中でそこまで手が回ってませんよ? 社会復帰の前に餓死にさせてしまえば……あっ来ましたね暴漢」
「無茶苦茶すぎる!」
 暴漢とはいえ一般人である。場合によって命を奪うことはあるが、酒場に出る程度の暴漢を社会復帰が絶望的になるような負傷を与えるのは非人道的すぎる。狂実の好きな映画では一般的な拷問だが、この依頼でやるとオーバーキルだ。

「酒癖が悪いってくらいだからそれなり強いかもしれませんし、完膚なきまでに酔い潰してしまえばいいと思うんですよね。つまり葵さんがサシ飲みに引き込んで飲み勝負で酔い潰せばいいと思うんです」
「オレがどれだけ飲めば終わるんだよそれ。っていうかどんだけ強い酒呑ませる前提なんだよ」
「大丈夫です、ショットガンで白黒つければ酔ってる自覚がないうちに相手が倒れる『はず』です」
「全く大丈夫じゃないしオレも自覚しないで倒れるが? このあとも依頼があるっスよ?」
「それはまあ、『葵さんなら』『理論上可能』だと判断しました」
「実質無理っていってんじゃねえか! やらねえぞ!」
 狂実の(かなり無茶苦茶かつ後先考えてない感がある)提案をすげなく断った葵であるが、ちょっと寂しそうな顔をする彼女を見て逡巡してしまう。というか、そのやり取りを聞いていた酒場のマスターが大柄な体に似合わぬ小動物めいた表情をするのを見ると、どうしても断りきれるものではない。
「ああもう、やりゃいいんだろ、やれば!」
「助かるよ……健全な酒場にしたいからね……」
 マスターの申し訳無さそうな言葉に、葵は「健全な酒場はショットガンなんてやらせねえんだよなあ」と思った。

「爆発物はだいたい20秒周期でここを起点に左右20m幅にランダムに飛んできます。着弾してから3秒ほどで爆発するのですぐに拾って投げ返せば、遺跡に当たって爆発します。少しでも遅いと遺跡に爆風が届きませんので、遺跡に爆風が……ちょうど直撃レベルで100発は当たらないと壊れませんかね?」
「反復横跳び通り越して40mシャトルランになってるじゃねえか! 落下予測まで含めて全部やるのかよ!」
「でも、『理論値では』『100回連続も無理ではない』と思いますが」
「理論値はアテになんねえっスよ! っていうか投げ返せなかったらオレが爆風に巻き込まれて怪我するんじゃねえっスか!」
「大丈夫です、遺跡に100回当てて壊せる威力だったら爆風に煽られる程度なら数百回受けても倒れない『はず』ですし、爆発の直撃も数十発なら耐えられ」
「耐えられるかどうかより痛いか痛くないかで考えてほしかったなあそこは! あと酔っ払いにさせる運動じゃねえよ!」
 半ば(どころではなく)酔っ払ったうえで、遺跡爆破チャレンジを強いられる葵という地獄絵図がそこには体現していた。最大40mの横移動、それを最小100回、期待値は多分200~250回。
 後半になるほど体力が削られ精度が落ちるからそれ以上にもなりうるし、そうなった頃には葵は倒れているはずだ。そんな行為を強要されるのはマジでどうかと思うのだが、狂実は成し遂げられると信じている。
 なお、この期に及んで背後からは謎の威圧感がチラついているのだから冗談じゃない。あいつ暇なんじゃねえの?
「畜生、やってやるっスよ! 監視するぐらいなら手伝えばいいだろうが!」
「誰がですか?」
「クルミ以外の誰かさんかな!」
 ……現実は、彼が常々「その相手」に苦手意識を持つがゆえの幻覚幻聴の類だと思われるがさだかではない。

 なお。
 これで仕事が終わりなわけもなく、日没まで延々と仕事が重なっていたのだが今は夏。そう、日没はまだまだ先なのだ!


「つ、疲れた……なんなんっスかこの依頼量……」
「でも全部解決しましたね。依頼人の皆さんも喜んでましたよ、『依頼として受けてもらえない程度の依頼だから助かった』って」
「そこが絶妙っスよね、クルミは……」
 狂実の言葉に偽りはない、それは葵が一番よくわかっていた。
 再構築中の軍も、警備機構も、あの程度の依頼では動かない。動いたとしても被害が拡大したあと、おっとり刀で駆けつけるのだろう。それでは全て遅すぎた。
 だからこそイレギュラーズとしての行いは正解だったが、草の根レベルは依頼にはなり得ない。そういう意味で最適解だったのかも、と彼も思う。
 ……思うのだが限度というものがあろう、限度が。狂実は優秀なマネージャーだし、倒れない程度の限度をもって誘導していたが、それ以上を求める影とかを感じ取ったのは確かである。
 それが私怨に基づく幻覚であったにせよ、葵は強要されたと感じる事実だけはどうにも変わらなかった。……涙、拭いていいぞ。

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