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ハシバミの霊樹
登場人物一覧
名前:ハシバミの霊樹
特徴:ハシバミの樹、歪んだ願望器
混沌世界のどこかにあるとされる美しい大樹。
いわゆる『ハシバミの木』であり強い魔力を帯びている。
祈りを捧げた相手に祝福を与えると伝わる。
それはどこかの世界における灰被りの姫が亡き母の墓の近くに植えた物のように。
しかしながら願望器を利用する者は必ずしも善性とは限らない。
――それならばまだ、良かった。
だが実際のところ、善性を持つ者達は往々にして祈りを捧げても願いはしないもの。
善き者は祝福に縋らず、悪しき者は祝福を利用する。
長い、長い時が経った。その間、ハシバミの木は悪意を帯びた人々の、欲望にまみれた人々の願いを叶え続けた。
美しき霊樹、聖なる力に満ちた大樹は欲に塗れた人々の悪意ばかりを汲み取り続けた。
それを発散する場所もなく、粛々と、淡々と叶え続けた。
だからだろう――いつの頃からか大樹は塗れた欲望を穢れに変えていた。
それでも霊樹は祝福を続けていく。
霊樹には人の善悪など判らぬ。
霊樹には人の願いの好悪など存在せぬ。
ただ、願われたことを願われたままに叶え続けるのだ。
愚かな人間の愚かな願いは変わることはなく。
穢れはその祝福の根幹まで浸透し、幸福の霊樹を歪めてしまう。
霊樹は歪み切った願いを叶え続けている。
ただただ、自らの下に訪れた人々の願いを受け入れ、それを叶え続けている。
――だが根幹に至るまで歪み切った大樹が果たす願いが真っ当なままであるはずもなく。
結果として、人々の願いは歪曲して叶えられる。
あぁ、けれど決して霊樹を恨むなかれ。
霊樹は願われたままに叶えるのみ。
霊樹は求められたままに祝福するのみ。
そこには他意などありはしない、悪意など、敵意などありもしない。
――そもそも、大樹は所詮、大樹でしかないのだから。
大樹に、意思などありやしないのだから。
だから、ただ粛々と願いを叶えて行く――それを身勝手にも人は『暴走』というのだろう。
――とはいえ、である。
『本当に』大樹に意思が無いのだろうか。
長き時を経た大樹、祝福を与える霊樹である。
どこかの世界で灰被りの姫が育てた大樹が時代を経て魔女に移り変わったように、意思という物が生じてもおかしくはない。
そうなれば美しき霊樹は『端末』とでも呼べる精霊のようなものを生んでいる――かもしれない。