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My Dear, is love in action.
登場人物一覧
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惨めったら、ないわ。
抱き竦められて、子供を
こんなわたしの戀の形も大嫌い。
びゅうびゅうと冷たい風が吹いて雪が散らつく程に寒いのに、此の男と来たら上着を小脇に抱えてちょっと汗の匂いがする。息を切らして
実際、走って来てくれたのであろう事は嘘偽りの無い事実だった。けれど、何事も無ければ今頃ふた月以上前には今日と云う特別な日の為に予約をしていたお洒落なレストランでディナーをしていた筈なのに。待ち合わせ場所と定めた時計台の短針が一つ右に動いた時点で彼女が全てを諦め、更に長針が半分動いた辺りで『もう、帰っちゃおうかな』と立ち上がったのと夏子が遣って来たのが同時。其れが狡いったらなくて、散々に誹り続け――彼の腕の中で漸く落ち着きを見せ始めた頃には、予約の時間をたっぷり二時間過ぎ。
『如何して他の女の人の会ってたの』
『そういうのイヤって言ったのに』
『わたしと
と、口から
如何して此の人の事を好きになっちゃったんだろ。
此の戀は如何かしてるんだ。
こんな事云いたくないしあなただって聴きたくないでしょうから、云わせない様にしてってわたし、何時だって。
「折角のシャイネンナハトなのに……、」
「あ、おかあさん、さっきのおにいちゃん!」
「……え?」
夏子にとっての救いは『
「まあ、
「ほらやっぱり――……!」
「あ、あの……先程は娘を見つけて下さって、面倒を見て頂いてしまって。矢張りお時間には間に合いませんでしたよね……?」
此の状態で察せない程鈍くも無いのだろう、狼狽する女性が
「あーいやっ娘さん、良かったですよぉ。お礼なんてそんなっお姉様ッ! 笑顔で良いシャイネンをね〜。
パイパーイ! なんつって……こ、此れで誤解は解けましたか」
「女の人って……困った人を助けてたの? なら最初に言ってくれればいいのに! ……はぁ」
まるで絵に描いたが如くタイムの頰肉が溶け、猛烈な脱力感が押し寄せて『はあぁ……』と亦、溜息が漏れる。彼が素直に、事実を結論から言ってしまったが故に余計に事が拗れたが、要は迷子を保護した夏子は一緒に母親探しをしていたと、唯其れ丈の事らしい。言葉で武装した彼女に詰め寄られ、其の烈火の如き怒涛の怒りで釈明の余地が見当たらなかった事については最早
「でもね僕、待たせてる事も――臆、エット。待っていてくれる事も判ってたから来たの。だからごめんね」
酷い言い草なのに、そう嬉しそうにされて、心臓がぎゅうっと鷲掴みされたみたいに為る病気を知ってる?
『惚れた弱味』ってやつよ。
『男の趣味が悪い?』――最近否定し切れなくなっているわたしが居るわ。
「うん――其れでも遅刻は遅刻! わたし、すっごーい寒かったんだから! お腹もぺこぺこ。
取り敢えず。此の後如何するの?」
「いやホンごめんね埋め合わせはってかいやまだ2人のシャイネンコレからだし、
えっ店っあ、其処に見えます大衆酒場でお一つ興じてみちゃ〜……」
「今日はイヤ」
「あれっ、うんそ〜だよねダメだよね〜? じゃあえっと取り敢えず何時もの喫茶店で甘い物とか……」
「んんー……」
「其れともワンチャンに賭けて一度あのお店迄行ってみるとか……」
「夏子さん、彼処わたしが何時から予約してたと思ってるの、御免なさいはしに行かなきゃだけど……」
「あっ……人気店だものねえ!? ほ、ホントにゴメンね?
何時もなら『彼が誘ってくれるなら』と二言返事で承諾する場所も、今日は何れも心に響かず霞んで見える。今直ぐにでも暖かい所へ入りたいのは確かだったが、両腕を寒さを防ぐかの様に
「えーどーしよ、イケる、か?……こーしよう! 其の……僕でよければ何か創るけど、一緒に、召し上がって頂けますか……?」
「え」
「アッ、やっぱり嫌だよね、チョット待ってね……考え直――」
「……――食べたい」
「えっ」
苦し紛れに出された手作りの提案に、然しタイムの萎れて消極的になり落ち込んだ気持ちにぽっと火が灯る様な感覚がした。今迄食べる機会の無かった彼の手料理という案にもう一度『食べたい』と、小さな、其れでも確固とした意志で頷いて返すと夏子の顔も綻んだ。
「うーん、まあ、アレよ。所謂男飯ってヤツなんですが、ホントに其れでイイ!?」
「うん」
「材料何が残ってたかな、チョット何時もより遠回りしてお肉屋さんとか寄って平気?」
「……うん!」
お家デートに心が晴れやかに躍ったタイムの手に寄ってどっさりと余計なものまで買い込んだ紙袋を下ろしていざいざ調理開始。
「
「茶化さないで~? まあ、まあ、定番を抑えてシャイネンナハトっぽくね、設えてみますよ。
アッ、タイムちゃんは如何か座って座って。今日は僕が全部やるから。あ、そーだ何かお酒出す?」
「えっと、じゃあ頂いてようかな」
「お酒なら幾許かストックもあるし、BAR夏子、此処に開店ってね」
「……レストランじゃないの?」
「そうだった……!」
白ワインで作る女性でも飲み易く、甘い
肉がじゅうじゅうと焼ける音。油がぱちぱち跳ねる音。ぐらぐらとスープが煮える音。色んな音と匂いが耳や鼻を擽って、何時の間にかすっかり炭酸の抜けた曹達水みたいに
「……――ムちゃん、タイムちゃん」
「ん、ん……ごめんね夏子さん、わたし寝ちゃって、って、わぁ……!」
「ふっふーん、改めてレストラン夏子開店です、どうぞ」
✼――お品書き――✼
・存外あっさり出来ちゃうローストビーフ
・ガーリックバターソースでショートカットしたガーリックトースト
・ほっこりブロッコリーと卵の温サラダ
・鶏は外せない! 手羽元のフライドチキン
・出来合いだけど追いチーズでとろとろマルゲリータピザ
・昨日の残り……二日目の味染みビーフシチュー
・ほろほろやわやわ、蕩ける牛肉の赤ワイン煮
・
・サクサクオニオンリング
・八百屋の息子が選んだ拘り冬野菜のシーザーサラダ
「美味しい! こんな事なら
「そう? 其れは不幸中の幸いというか……。こんなので良ければ何時でも作るよ」
「此のソースは?」
「アッ、其れはセレクトショップで買った美味しいヤツ。一本多く買ってあるから持って帰る?」
「はー、お腹いっぱい。全部食べちゃった、ご馳走様でした」
「はーい、お粗末様でした」
「少し酔っちゃったかも。さっき買ったハーブティー淹れよ……」
「あああ、待って! 此処は僕が淹れて来るから。ね!」
「あ、勿論後片付けもお願いね!」
「はいはい、今日はとことん尽くさせて頂きますとも」
「……えっと、其れから、其れから、」
「ん?」
「沢山甘やかして。今日は散々だったんだもの、是位は言っても良いでしょう?」
「甘やか……、……いや。良いね、任せてよ」
「うん」
「処でタイムちゃん、其れってベッドの上でってコ……痛ッ! 今のキックは効いた、い、痛ぁ……!?」
「そういうのは言わずが華ってモンでしょう! もう!」
「うん」
「……――うん」
「うん」