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【RotA】死のSoccer Match

登場人物一覧

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
日向 葵の関係者
→ イラスト


 暗い夜。ネオンの光が街を彩る。クロノテック・インタラクティブ社が入る高層ビルのファサードにもネオンの輝きが反射して、幻想的な光景を作り出していた。
 虚木 空太郎がビルを見あげる。
「ここが例の……デスね」
 日向 葵(p3p000366)は空太郎の肩を押した。
「行くっスよ、ロギ。面会の時間に遅れる」
「ヒヒヒ、そんなに慌てなくったって。真面目デスねぇ、葵チャンは」
 まだニュースにはなっていないが、あるオンラインゲームのプレイヤーたちが謎の連鎖死を遂げていた。
 息子が死んだのはぜったいあのゲームが原因です。皆さんの力で突き止めてください。
 ローレット経由で亡くなったプレイヤーの家族からの依頼を受けた葵たちは、とりあえず件のゲーム開発元を事情徴集することにして、いまここにいる。
 葵たちは広いロビーに足を踏み入れた。
 エレベーターの前に戸惑いと不安を顔に浮かべた男が2人たっていた。恐らくCEOの秘書と、ゲームの開発責任者だろう。
 執事めいた雰囲気の男が慇懃に口を開く。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
 エレベーターが音もなく開き、明るい光をロビーに伸ばした。
 最初に開発責任者がエレベーターに乗り込んだ。続いてイレギュラーズたちが、黙って乗り込む。最後に乗り込んだ秘書が、タッチパネルを操作してドアを閉めた。
 てっきり上にいくものだと思っていたら――。
(「へえ……地下デスか。テロでも心配しているデスかね、CEOサンは?」)
(「黙ってろ」)
 ドアが開いた先の部屋は真っ暗だった。エレベーターから光の道が一本、すうっと遠くの方まで伸びている。
 イレギュラーズだけを降ろすと、秘書はエレベーターのドアを閉めた。
「降りたのはオレたちだけっスか?」
 真っ暗闇のなかで葵が響く。
 反響の具合からしてかなり広い部屋だ。天井も高い。
「秘書サンたち、降りてないデスね」
 他の仲間たちとも互いに手でふれあい、イレギュラーズだけが残されたことを確認する。
 イレギュラーズたちの正面に、冷たい笑みを浮かべたゲーム会社のCEOの顔が映し出された。奥の壁がスクリーンになっているようだ。
「ようこそ。まずわが社のゲームで遊んでくれ。話は君たちがゲームをクリアしたあとだ。生きてクリアできるとは思えないがね」
「どういう――」
 葵がCEOに詰め寄ろうとした瞬間、世界が暗転した。


「……う」
 頭をあげるとくらくらと目が回った。
 葵は反射的に目を閉じた。背中がチクチクする。この手触りはもしかして。
「ロギ、無事か?」
「葵チャンの方こそ。それよりなんデス、ここ? まるでサッカー場みたいデスけど」
 まるでではなく、サッカー場だ。緑の芝生が美しく広がり、スタンドには観客たちの歓声が響き渡っている。
 葵たちは無人のゴール前で倒れていた。
「どういうことだ」
「たぶんCEOサンが言ってたゲームの中じゃないデスかね。それより葵チャン、他の仲間たちの姿か見当たらない」
「罠か。やられた……」
 葵は空を見上げて、深呼吸した。
「しかしなんだ、まさかオレたちに2人だけで試合をしろと?」
 空太郎はにやりと笑って立ち上がり、葵に近づいた。
「ヒヒヒ、そりゃいいデスね。葵チャン、やりましょうよ。お客サンも沢山いるし」
「馬鹿をいえ。この広いフィールでワン・ツー・マンやっても、見ている方は楽しくないだろ」
「そこはホラ、おれっちたちの熱いプレイで盛り上げる」
 葵はドシ目で空太郎を睨みつけた。
 が、すぐに「まあ、そうだな。ここはいったいどんな試練が待っているのか、確かめるしかないな」と笑った。
「それでこそ葵チャン」
「で、ボールはどこッスか。ないならオレのワイルドゲイルGGで始めるしか――」
 その時、スタンドからの歓声が高まり、フィールドに突如として敵が姿を現した。
「おー、ようやく相手チームのご登場デスね。あ~、でも、葵チャンとの勝負がお預けになって残念」
「ふざけてろ。ロギ、敵の数は?」
 空太郎が葵に手を差し伸べ、立ち上がりを助ける。
「解ってるくせに……11人デス。フォーメーションは1-4-5-1」
「1-4-5-1っスか」
 葵はフィールドに展開している敵たちを見回して、少し考え込んだ。
「オレたちは厚い中盤を突いていくしかないっスね。ところでルールはサッカーでよかった?」
「おれっちに聞かれても……あ、葵チャン、あれ!」
 いつのまにかボールが中央サークルに置かれていた。
 どこからともなく主審の笛が鳴り響き、なし崩し的に試合がスタートする。
 敵チームの選手が敏捷な動きで先手を取り、ボールを奪った。
「ンン?! それはずるいデスね」
「ロギ、急いで上がるっスよ!」
 葵たちがゴール前から上がっている隙に敵のミッドフィルダーがパスされたボールを受け、ドリブルで前進を開始した。
 葵と空太郎はそれに即座に反応し、テクニックと知識を駆使して敵ミッドフィルダーにマーキングをかける。
 空太郎は敏捷な動きで相手の足元をカットし、葵は相手に密着して動きを制限しながらパスコースを塞いでいく。
 しかし、敵ミッドフィルダーは巧妙なフェイントやドリブルで葵たちのマーキングをかわすと、猛然とゴールへ向かった。
「しまった」
「あの選手、上手いデスね!」
「感心している場合っスか。気を引き締めて対応するぞ。ボールを奪うっスよ!」
 敵チームの選手たちはボールを縦横無尽に動かし、葵たちの陣地に迫っていく。葵たちの執拗なマークに対しても鋭敏に反応し、スキを突いてシュートのチャンスを作り出そうする。
 葵と空太郎は敵フォワードと対峙し、ボールの奪取を試みた。
「集中してゴールを守るっス!」
「相手の動きを予測して、一気にカットするデスよ!」
 激しい攻防が続く中、葵と空太郎は相手チームの攻撃を阻止しようと必死に奮闘する。
 葵と空太郎は執拗なマーキングと敏捷な動きで相手の攻撃を封じようとした。
 葵は的確なタイミングでステップアップし、敵フォワードの進路を遮る。空太郎は素早く敵フォワードの背後に迫り、彼のボールコントロールに集中する。
 敵フォワードは驚くべきテクニックと俊敏さでボールを操っていたが、葵と空太郎の鋭い視線と的確な動きによって完全に包囲されている。2人のしつこいマーキングに、敵フォワードの集中力が途切れ、足さばきが揺らいだ。
「葵チャン、いま!」
「解ってるっス!」
 葵はタイミングを見計らって素早くボールを奪おうとした。が、敵フォワードは巧みにボールを保持したままかわし、背後にいた空太郎との接触を避ける。
「諦めるなロギ!」
「それ、おれっちのセリフ!」
 葵と空太郎が次の一手に備えていると、チャンスは意外に早く巡ってきた。
 ボールがフォワードの足元から少し浮く。
 葵はその一瞬を見逃さずにスライディングタックルを敢行した。同時に空太郎もボールに向かって飛び込む。
 絶妙なタイミングで行われた葵のスライディングタックルと空太郎の飛び込みが実を結び、見事ボールを奪い取った。
 一瞬の沈黙ののち、スタジアムに歓声が沸き上がる。
「攻めるっスよ」
 葵と空太郎は奪ったボールを確実にキープし、互いに正確なパスを繰り出しながら中央まで攻め上がった。
 素早く自陣に駆け戻った敵チームは、ミッドフィルダー が5人がかりで葵たちにアタックを仕掛ける傍ら、ディフェンダー4人でゴール前を固める。
 彼らの堅守を前に、葵たちはなかなか敵陣の奥深くまで切り込むことが出来ない。
「ク……葵チャンにパスを……」
 ボールのコントロールに集中して、空太郎はディフェンダーの1人が上がってきていたことに気がついていなかった。
「ロギ!」
 空太郎はパスを通す空間を作り出すため、囲いから強引に抜けたところでディフェンダーにボールを蹴り飛ばされてしまった。
 すぐさま敵のミッドフィルダー がボールをキープ、敵フォワードへロングパスを放った。
 パスを受け取った敵フォワードはそのまま狙った位置からシュートする。
 ボールは鋭く直線に飛んで、無人ゴールのネットを揺らした。
 スタジアムが歓喜にわく。
「くっ!」
「油断したデスね……。でも、次は絶対に取らせないデス!」
 悔しさをばねにして、葵と空太郎は集中力を取り戻した。
「ロギ、急いで中央に――!?」
 2人がまったく予期していなかった事が起こった。
 フィールド全体に強烈な高圧電流が流されたのだ。


 突如としてフィールドが明滅し、強い電気の音がスタジアムに響き渡った。まばゆい閃光とともに葵と空太郎は電撃を浴びる。
 身体が激しく痙攣し、トゲのような痛みが全身に広がってゆく。数千ボルトの電流に肉体を貫かれ、声を上げることが出来ない。
 葵と空太郎は身体の自由を奪われ、地に倒れ込んでしまった。
 2人は苦痛に顔を歪ませ、電撃の余波によって意識が朦朧としていくのを感じていた。それはまさに異空間に放り出されたような不気味な体験だった。骨身に染み渡った電撃の衝撃が、体力を奪い去っていく。
「負けてたまるッスか!」
「ククク。なんという鬼畜ルール。これはもう、やり返すしかないデスね」
 強力な電流によるダメージを受けながらも、葵と空太郎は強靭な精神力で試合に復帰した。
 主審の笛が鳴り、試合が再開される。
 相手チームの選手がボールを巧みに転がしながら、陰険な微笑みを浮かべて葵と空太郎に迫ってきた。
 コントロールされたボールが芝の上を転がり、敵ミッドフィルダーの足元でクネクネと踊るように動く。まるでヘビが獲物に忍び寄るかのような、滑らかさと緻密さだ。
「気をつけろロギ。やつら何か企んでるっス」
「電撃の他にまだ何か……。勘弁して欲しいデスね」
 空太郎は一瞬眉をしかめたが、自信を込めた声で葵に言った。
「とりま、任せてクダサイ」
 空太郎はボールが自分の位置に近づくのを見計らい、勇敢に飛び出した。
 敵ミッドフィルダーが巧妙なタッチでボールを蹴る。
 ボールは一直線に空太郎の胸に向かって飛んでいった。
 葵は時間の流れがゆっくりになり、周囲で騒音が遠のいていくのを感じた。
 空太郎が身体を緊張させ、目を見開く。胸に迫るボールの速度を見極め、正確な位置で受け止めるために。
 ボールが空太郎の胸と接触した瞬間、爆発的な衝撃と共に、火花が散り、煙が立ちこめた。熱と爆風が空太郎を包み込みこむ。
「ロギッ!!」
 空太郎は息を荒げながらも、決意に満ちた表情で応える。
「平気デス。まだまだやれマスよ。この試合……絶対勝ちマス!」
 空太郎がメラメラと逆襲の炎を燃え上がらせる横で、葵は敵の攻撃を冷静に判断した。
「ルールは理解っス。同じ理屈が当てはまるなら、向うのゴールがこのゲームのボスっスよ。シュートして壊せば、試合に勝利しゲームをクリアできる!」
「いい読みデスね、禿同デス」
「オレがやつらより先にボールを取っス。すぐパスを回すから、思う存分走って。フォローする」
「ヒヒ、ではお言葉に甘えマス」
 宣言通り、3度目の正直にして敵より先にボールを奪った葵と空太郎は、チームワークを発揮し、敵チームの選手たちをドリブルやパスで巧みに交わしながら攻め込んでいく。
「おれっちのハートを込めたボール、受け取ってクダサイ」
「気持ちの悪い言い方をするなっス」
 葵はパスされたボールを足元に受けると、敵チームの選手たちが迫る中でドリブルを展開した。華麗なボールタッチと俊敏な動きは、まるで風を切り裂くような速さで相手のディフェンスを翻弄する。
 空太郎は葵のドリブルに合わせてスペースを作り、ここぞというタイミングでパスを要求した。空太郎の視野の広さと読みの正確さは、まるでチェスの名人のようだ。
 葵のパスは鮮やかなアーチを描き、正確に空太郎の足元に届いた。直後、ステップオーバーやフェイントを駆使し、相手のマークを振り切る。
 敵のディフェンダーが近づくと、空太郎はスピードとテクニックで相手をかわし、反対側サイドを走る葵にパスを出した。
 葵はボールを受け取ると、敵に囲まれた狭いスペースでも冷静に判断し、ドリブルで敵のディフェンスをかわした。
 ボールが葵と空太郎の間を行き来する。2人の連携プレーはまるで息を合わせたダンスのようだ。ワンツーパスを繰り返しながらゴールに迫る。
 互いのプレースタイルを完璧に理解し合っているからこその快進撃。相手ディフェンスは手も足も出せず、葵と空太郎に防衛ラインを突破されてしまう。
 葵が相手ディフェンスの最後の1人をドリフトでかわすと、空太郎が抜群のタイミングでパスを出した。
 敵チームの選手たちはボールを奪い返そうと必死になり、身体を投げ出して葵の進路を阻もうとした。
 しかし、葵は冷静に相手の動きを読み取っていた。ボールを山なりに軽く蹴って敵の後ろに落とし、瞬間的にスピードを上げて2枚のディフェンスの間を走り抜けたのだ。
 敵チームの選手たちは空しく葵を追いかけるが、葵のスピードと敏捷さには敵わず、徐々に引き離されていく。
「イケイケ葵チャン!」
 目の前にいるのはゴールキーパだけだ。
 葵は自身の左足に力を込めてシュートを放つ。
「くらえ、フロストバンカー!」
 左足がボールに触れる瞬間、周囲の気温が一気に下がったかのように冷気が漂い始めた。凍りつくような寒さは一瞬であたりに広がり、空気そのものが絶対零度の氷に包まれたかのようになる。
 葵のシュートは氷の杭と化し、ボールは驚異的なスピードと破壊力で飛んだ。白い冷気がボールと共に舞い上がり、凍結した塵が尾を引いていく。
 キャッチしようとしたゴールキーパーは、絶対零度の冷気に襲われ、抵抗もままならず吹き飛ばされてしまった。そのままゴールネットを押し潰し、スタジアムの壁に激突して穴を開ける。
 スタジアムの観客たちが息を呑む。
 静寂のち、大歓声と拍手が沸き起こった。
 葵の見事なゴールによって、観客は喜びに包まれ、興奮と感動が最高潮に達する。
 空太郎はがっくりとうなだれている敵選手たちの間を走り抜けると、葵に抱きついた。
「葵チャン!」
「ロギ、素晴らしいパスだったっス。左にずれていたけど」
「葵チャンのシュートも最高だったデス。蹴るまでに随分時間がかかってマスけど」
 悪態交じりにお互いのプレイを褒め称え合っていると、あたりが急激に暗くってきた。


「無事か!?」
「11対2でよく勝てたな」
 目を覚ますと、仲間たちに囲まれ見下ろされていた。
「オレたちは……そうだCEOは?!」
 CEOは葵たちがゲームに勝った瞬間、賭けを放棄して逃亡しようとしたらしい。
 自由を取り戻した仲間たちが取り押さえ、一足先に警察に引き渡したという。
「何を賭けていたんデス?」
「僕たちの命。CEOは自首」
「ヒヒヒ、馬鹿サン。おれっちたちがサッカーで負けるハズないデス。ね、葵チャン?」

おまけSS『後日談』


 数日が経ったある日。
 日向 葵と虚木 空太郎は喫茶『ノワール』でコーヒーカップを手に、先日の試合の思い出に浸っていた。
 ちなみに喫茶『ノワール』のオーナーは葵である。
 だから言う訳ではないが、空太郎は驕りを期待してコーヒーの他にホットケーキも頼んでいる。財布事情が厳しい中、万が一があると困るので、フルーツのとトッピングはガマンしたが。
 葵たちは思い出に浸りながら、プレーの細部を振り返った。熱い闘い、努力の結晶となったプレーが胸に蘇り、2人の顔に満足と誇りが溢れる。
「あの試合、本当に熱かったッスね。相手のプレースタイルとゲームのローカルルールの悪辣さは予想以上だったっスけど、ロギのディフェンスは最高だったっスよ。何度も抜かれてたけど」
 空太郎は少し照れながら頷いた。
「葵チャンもすごかったデスよ。あの氷のシュート、最高の一撃だったデス。ゴールが破壊される音を聞いた瞬間、鳥肌がたちマシタね。実際にシュートが撃てるまで、おれっちが何度もサポートしマシタが」
 葵が少し顔を引きつらせながら、「次にまたやるとしたら、今度はロギとは別チームになってプレイしたいっスね」と言った。
「ヒヒヒ、奇遇デスね。おれっちもそう思っていたところデス。それなら足を引っ張られることなく、ノビノビとプレイできるんじゃないデスかね」と空太郎が応じる。
 2人は揃って顔に歪な笑顔を浮かべ、今後の目標や戦術について語り合った。『ノワール』の中には熱気が漂い、他の客たちも2人の熱いトークに耳を傾ける。
 彼らのサッカーへの情熱は尽きることなく、これからも成長し続けるだろう。
「ところでロギ、それのお代はちゃんと払ってもらうっスからね」
「ぐわっ! 葵チャンの悪魔!」

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