PandoraPartyProject

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ランドウェラ・バニー!

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
バルガル・ミフィストの関係者
→ イラスト
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー

●俺はバニーになんてならない(決め顔カメラ目線)!
 ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788)はグラスを傾けた。丸くピックされた氷がグラスの中で揺れ、ブランデーが美しく水面を煌めかせる。
 そこに映ったのは、濡鴉の黒髪と左右でことなる瞳。彼は何かを想うように瞳を閉じて、グラスに口をつけるのだった。
「思い出を語ろうか」
 誰にともなく呟くランドウェラ。
 流す視線は、遠い過去へ向いたものか。
「あれは……今のように『ここ』へ来た時のことだった」
 煌びやかな内装。バニーガールやバニーボーイが歩くその『社交場』は、竜宮城の一角であった。

 竜宮城という、特異な地があった。
 かつて『絶望の青』と呼ばれ誰も生き残ることの出来ないはずだったその海の、海底深く。結界によって守られていたその場所は、ふらりと訪れた愛深きウォーカーによってある種の楽園となっていた。
 街にはバニーガールやバニーボーイが溢れ、『クラブ』は煌びやかに飾られ、シャンパンがグラスタワーにして注がれる。それは側面的かつ局所的ながらも、正しく夢の光景であった。
 そして竜宮城の民たちは、それを正しき幸福の姿であるとして絶え間なく受け継いできたのである。
 そんな『由緒正しき』クラブの一角、スナックと呼ばれる店がマイスター通りに建っていた。
 語源こそあやしいが、小さな店舗に僅かな店員がおり、酒やつまみを出すだけの店だ。しかし店員と客の距離感は近く、どこか奇妙な高揚と安堵がその空間には詰まっている。そう、これもまた側面的かつ局所的な楽園の姿なのだ。
 そんな店の、ソファに腰掛け向かい合うバルガル・ミフィスト (p3p007978)とランドウェラ。
 バルガルはその不吉そうな顔面に笑みを浮かべ、ランドウェラを見つめていた。
 暫し酒をあけ、世間話などをたしなみながら向かい合う時間が続く。
 店を一時的に任されていたビバリーは、そんな二人を察して背景のごとく気配を消し、水割りを作っては二人のグラスに注ぎ続けている。
 時間は水滴が落ちるように少しずつ、静かに、そして確実に流れ。
 やがて、ランドウェラはグラスを片手でつまみ上げるように持ったままきりだした。
「僕を指名したということは、相応の意味がある……ということだよね」
 それこそ天気や世界情勢の話をしたあとのこと。まるで脈絡がないような切り出し方だが、しかしバルガルは笑みをいっそう深くして答えた。
「ええ、貴方以外にありえない。ランドウェラさん」
 バルガルが懐に手を入れると、一枚の封筒が取り出される。それまでの話はそれこそ前座にすぎなかったのだろう。これこそが本命。いまにも人を殺せそうな、冷徹で鋭いまなざしをしたバルガルが、封筒をテーブルに置いた。
 そして続けて懐へ手を入れ、紙幣がピンによって纏まったものを取り出し封筒の横に並べる。
 ローレットで長く活動してきたランドウェラにはわかる。時折発生するご指名の依頼というやつだ。一人きりで遂行できる難易度でありながら、その性質ゆえに信用を要する。
 それだけの信用を獲得したのだという喜びと誇り、同時に失敗した際にそれらを裏切るかもしれないというリスク。
 それぞれが肩にのしかかったが、ランドウェラはあえて笑みを浮かべて見せた。
「わかった。引き受けるよ」
「中身を見なくてもよろしいので?」
 表情を壱ミリたりとも変えずに言うバルガルに、ランドウェラもまた表情を変えない。
 この状況で『依頼の中身を見る』など、内容次第では受けないという姿勢の現れでしかない。それは相手からの信用を疑う行為であり、恥ずべき行いだ。
 ランドウェラは小さく首を振って、前金となる紙幣の束を自らの懐へと収めた。この依頼を引き受けるという意思表示である。
「さすがは、ランドウェラさん。信じておりましたよ」
「今更だよ」
 二人は微笑みあい、そしてグラスを小さく翳し合う。
 グラスを半分まで空にしてから、ランドウェラはやっと依頼書に手を付けた。
 もう引き受けてしまった依頼だ。スナックの片隅で行われた会談であるとはいえ、ビバリーという目撃者を横におきながらのもの。
 ここで断るなど、信用に関わる問題だ。故にどんなものが出てきても笑顔で挑む覚悟を……封筒の封を破りながらランドウェラは抱いた。
 スッと紙片を滑り出させる。
 三つ折りにされたそれを開けば、書かれている内容は短い。

 依頼内容
 ランドウェラさんがバニーボーイとなって接客を行うこと
 (衣装と諸費用は依頼人が用意するものとする)

「どういうこと!?」
 ずばーんとテーブルに依頼書を叩きつけるランドウェラ。
 何が『恥ずべき行い』だ。今度依頼書を出されたら真っ先に開いてやる。ランドウェラは心の中でそう叫ぶのだった。

●バニーボーイっていいよね
「これからこの店へやってくるドルガスキー男爵から『バドルディ封書』を盗み出すこと。それが我々に課せられたミッションです。厳密には、『自分』にですがね。
 封書の内容は知らされてはおりません。重要なのは、自分たちがそれを達成できる人間であるか否か。そこで自分は考えました。信用する仲間であるランドウェラさん。あなたの協力があれば必ずこのミッションを達成できると。
 そう、ここでのあなたの役割はバニーボーイとしてドルガスキー男爵の注意を引き、私が封書を盗み出す隙を作り出すことなのです」
「ごめん話が全然頭に入ってこないや」
 鏡の前でうさ耳を装着したランドウェラは、大鏡に映った自分の姿に困惑していた。
 俗にバーテン服といわれる服装に黒手袋をはめ、そこへくわえて黒いうさ耳と白いわた尻尾を装着している。
「このバニーボーイはこの店での標準的な接客衣装なのです」
「生まれて初めて聞いたかも」
 騙された、と思ったランドウェラだが、着慣れないながらもこの清潔でどこか可愛げのある衣装に興味が無かったかといえば、実はそうではない。
「お似合いですよ、ランドウェラさん」
「そ、そうかな……」
 えへへ、と照れ笑いを浮かべるランドウェラ。
 その様子を横目に、バルガルは目を僅かに大きく見開いた。
 脳内で『コングラッチレイショオオオオオオオオオン!』て叫んでいたが、表に出さないのはさすがバルガルである。そう、ここまでの流れで大体お察し頂いているかもしれないが、バルガルは無類のバニー好き。美形でちょっぴりミステリアスな魅力をもつランドウェラにバニーを着せたらぜってーエクセレントだなって思ってこの配置と依頼を決定したのである。
「さあ、参りましょうか」
 眼鏡をくいっとやってから、控え室の扉に手をかける。
 ひらくとそこにはある種の楽園が広がっていた。

 金色のシャンデリア。清潔で高級感の溢れるフロアには上品なジャズミュージックが流れ、バニーボーイたちがそれぞれ洗練された接客を行っている。
「そろそろの筈……ランドウェラさん、あちらを」
 テレパスでメッセージを送ってくるバルガルの声。それに従って入り口を見ると、全部の指に金色の指輪を付け葉巻をくわえた恰幅のいい男が店へ入ってくるところだった。
 事前情報の通り、間違いない。ドルガスキー男爵だ。
「いぃーらっしゃいませぇー!」
 気前よくすっとんでいくバルガル。変装した彼は両手をすりあわせんばかりにドルガスキー男爵へと接近すると、『今日のお勧めはこちらでございます』とついさっき撮影したばかりのバニーボーイランドウェラの写真をメニューブックめいたボードに開いて見せた。
「……ほおう」
 照れ笑いを浮かべ手袋の裾をひっぱるその姿にえっちさを感じたのか、ドルガスキー男爵は目をギラッと光らせた。
「ではこのボーイを指名するとしよう」
「あぁーりがとうございまぁーす!」
 変装しキャラまでも変わったバルガルがヒュッとランドウェラの隣へとやってきて肘で小突く。
「頼みますよ。フゥーウッ!」
 もしかして内面が出てるんじゃないかと思ったが、今は仕事。ランドウェラはあえて心を切り替え、接客スマイルを浮かべるのだった。
「いらっしゃいませ、バニーボーイのウェルです!」
 えへっと照れたように笑う彼の眉の形がえっち。
 目の下の赤くなった頬がえっち。
 長く伸ばして胸元にたれた髪がえっち。
 照れ隠しみたいにひっぱる手袋の裾がえっち。
 長い髪をまとめた後ろ襟にかかるリボンがえっち。
 そんなえっちさ全開のランドウェラに、ドルガスキー男爵はビッと親指を立てるのだった。

●そして思い出となる
 ランドウェラは当時を振り返りながら、ブランデーのはいったグラスを空にした。
「ロウス、あんた……なかなかやるね」
 もう一杯のブランデーが差し出される。顔をあげれば、ビバリー・ウィンストンが微笑んでいた。
 よく考えたらこの人なんでいるんだろう。ランドウェラはちょっとそんな疑問を抱いたが、ここはあえて言葉にのっておくことにした。
「ありがとう。けど、もうやらないからね」
「そうかい? ミフィストのやつは、機会さえあればまた頼むつもりでいるみたいだけどね」
「冗談じゃ……」
 新しいグラスに手を付けて、その水面を見つめる。
 左右異なる瞳の色が、ブランデーの水面を僅かに揺れていた。
 煌びやかな世界に交じり、耳と尻尾を揺らして歩く。その姿は誇り高く、そしてどこか淫靡だ。新しい世界の扉が開かれたような、そうは認めたくないような、なんともいえない気持ちになりつつ、ランドウェラはブランデーに口をつけるのだった。

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