PandoraPartyProject

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奇跡の塔 1.5F:螺旋に描かれる天使

登場人物一覧

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ユーリエ・シュトラールの関係者
→ イラスト


 天義某所。
 地平線の彼方まで広がる草原の中央に聳え立つ白い巨塔。
 それは、天をも貫かんとする異様なまでの存在感を示し、天義の人々を中心に圧倒させた。
 ――この塔は神の奇跡だ。
 信心深い者が多い天義という土地柄もあってそう信じる者が後を絶たず、白く荘厳なるこの巨塔は『奇跡の塔』と呼ばれた。
 だが……。
 内部調査が始まると、この塔の実状が明らかになってくる。
 大いなる欲望の残滓が天義の大地へと突き刺さったそれは、大罪の魔種が残したとされる大罪の塔だ。
 後に、塔を登る者はこう呼ばれることとなる。
 ――塔破者と。

 天義よりこの大罪の塔の調査を、命じられたのは幻想出身、白髪の人間種で研究家のハルトヴィン・ケントニスだ。
 混沌世界に存在するアイテムの使い方、作り方などについて纏めた年刊誌『幻想道具図鑑』の著者として、その筋では知られている人物である。
 かつて、ハルトヴィンは混沌中を飛び回って様々な道具について調べており、それを知っていた天義の有識者によって白羽の矢が当たったものと思われる。
「私も若いころはねぇ、夢に向かって走り続けたモノだ……!」
 それが口癖の彼は日頃から、幻想のローレットや酒場に出没して思い出話を語っている。出入りする場所の都合もあってか、特異運命座標イレギュラーズとも交流がある。
 ただ、御年65歳のハルトヴィンは寄る年波には勝てないと判断していたのか、混沌に存在する全ての道具を本に記すという夢の実現に限界を感じていたようだ。
 それでも、彼は依頼と合わせ、自らの知的好奇心が抑えられないのか、二つ返事でその調査依頼を受諾し、天義に向かうことに決めたのだった。


 そんなハルトヴィンは奇跡の塔の調査を開始するに当たり、ローレット、特異運命座標イレギュラーズ達へと協力を依頼する。
 その折に、一行は1階層にいたおびただしい数の骸骨の討伐を完了させ、水銀の詰まった水晶玉を回収している。
 水銀はかつて、不死の霊薬と言われた物質。
 話し合いの結果、その場に立ち会っていなかったハルトヴィンに預けようという話になり、骸骨討伐に参加していた特異運命座標イレギュラーズの1人が保管することにしていた。
 また、中央に浮かぶ青い石板について調べることで、上階層へと続く螺旋階段が現れている。
 ただ、そちらは依頼の対象外とあって、その時の調査は終了している。

 前回、ローレットを通してきたその調査協力依頼は昨年10月のこと。
 それ以来、毛先が赤くなった銀髪の少女『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)はローレットの依頼へと参加するのを止め、この奇跡の塔の現地調査に当たり続けている。
「うーん……ほかに手がかりはないのかな」
 彼女はフロア中央、床に描かれた魔法陣の上へと向かう。
 普段は茶色の髪のユーリエだが、自身のギフトの影響もあり、吸血鬼化している状態。その背には、可愛い一対の黒い羽根を生やしている。
 魔法陣の真上に浮かぶ青い石板。
 そこに書かれた文字を、ユーリエはいつものように解読する。
 ――我等は永久の命を求めし罪人なり――
 ――故に知己は失われ、死して屍拾うもの無し――
 古代文字で書かれたと思われるのだが、混沌各地を巡って調べたどの文献にも乗ってはいない不思議な文字だった。
 先日、1階層を踏破した地点で、この文字は雰囲気のみ把握できる状態ではあった。
 調査を進めるうちに文字に関連性があるらしく、それぞれの形が母音、子音の役割を持っていることまでは分かってきている。
 ユーリエは次に、フロアの外壁に沿って上階へと続く螺旋階段の方へと移動し、1段ずつ登っていく。
 それらには何らかの模様や象形文字などが描かれており、ヒントになっているのだろうと推察はしていたのだが、まだ解析には至っていない。
 上を見上げても、この位置からでは2階層の様子はわからない。
 向かうだけであれば、このまま登れば問題ないだろう。
 ただ、明確な情報もなしに次の層へと進むのは危険も危険。
 そう判断したユーリエは持てる知識を総動員させ、塔の調査に当たっていた。
「おーい……」
 その時、下から声が聞こえてきて。
「おーーい! ユーリエくーん!」
「…………!」
 調査と思考に夢中となっていたユーリエはハッとして、その声に気づく。
「……全然気づかなかった……!」
 どうやら、その声の主はこの塔へとやってきてから、ユーリエが塔内部へと設置した捜索拠点で休憩していたらしい。
「はーい! ようこそいらっしゃいました!」
 フロア中央の空間へと身を乗り出し、ユーリエは声の主へと手を振って自分のいる螺旋階段に呼ぼうとする。
 しかし、彼女はその人が息切れしながら階段を上り始めていることに気づいて。
「あっ……、私が下りて行った方がよさそうかな」
 ユーリエは申し訳なさそうに階段を下りていく。
「……ふぅ、ふぅ。なかなか上るのも大変だ」
 途中まで階段を上ってきていたのは、塔の調査の依頼主ハルトヴィン・ケントニスその人。
 さすがに、還暦を過ぎた彼に上下運動は堪えるようだった。

 ハルトヴィンはユーリエと酒場で出会った際、夢について語り合い、彼女の「皆を笑顔にする」という夢に感銘を抱いたらしい。
 ユーリエが幻想の町外れに「Re:Artifact」というアイテムギルドを立ち上げる時にも、ローレットに手回しをしてくれたのがハルトヴィンなのだ。
 ユーリエはその後、ハルトヴィンを先生と慕い、アイテム研究の助手としてアイテムの知識や作り方のノウハウを教えてもらっている。
「どうだい、調査の方は順調かな?」
 ハルトヴィンがわざわざ現地まで足を運んできたのは、それだけ調査の進捗が気になってのことだろう。
 ユーリエは合間に各地の図書館、資料館などを巡りつつ、率先して奇跡の塔へと足を運び、この1階層部分をしらみつぶしに調べた。
 調査の度にハルトヴィンに状況を伝えてはいるが、今回も大きな進展はなく、ややしょんぼりとした態度でユーリエは問いかける。
「……ここで得られる情報はもうなさそうでしょうか」
「うむ……」
 息を整えたハルトヴィンは一つ唸ってから、一度フロアを見回す。
 フロアの床には魔法陣が描かれており、中央には今なお青い石板が浮かんだまま。
 ハルトヴィンとて、自身の目で出来る範囲で幾度も確認はしている。
 未だに文字や模様の解析は進まぬことから、彼もまた上階を目指すべきではと考え始めていた。
 ただ、下手に上階に踏み込めば、また大量の魔物と出くわす可能性だってあるし、罠で動けなくなってしまう可能性も否めない。
 できるなら、2階層より上の探索は人を集めてから当たりたいところだ。
 小さく溜息をついたユーリエは道具袋から、依頼で骸骨を倒した後に回収した水晶玉を取り出す。
「結局、この水晶には、中には水銀が入ってることくらいしかわからなく……」
「ふむ……、少し貸してもらえるかな」
 水銀には毒性があることで知られる。
 ハルトヴィンの呼びかけに、ユーリエは割ってはいけないと慎重になりながらもその水晶玉を差し出す。
「これは…………」
 受け取ったハルトヴィンは徐に、その水晶玉を階段に描かれている模様へと近づけていく。
 すると……。
 水晶玉が光り輝き始め、それに呼応して階段に描かれていた模様もまた光を伴い、宙に浮かび上がって動き始めた。
 その光景に目を丸くしたユーリエは、師の方を見つめる。
「先生! 一体これは……!?」
「ふむ……やはり、この水晶玉は情報端末としての役割を持っているようだ」
 ユーリエの視線を感じ、ハルトヴィンは己の主観を語る。
「見たまえ、あの模様を」
 ハルトヴィンはさらに、ユーリエへと前方を見るように促す。
 髑髏模様ともいえるそれらには大きな罰マークがついており、その上には天使の羽根やエンジェル・ハイロゥとも呼ばれる輪っかとも取れる模様が浮かぶ。
「これはもしかすると……、次の層のヒントになるのでしょうか?」
 ここにきてようやく得られた手がかりらしきものに、ユーリエは期待を寄せながらもハルトヴィンに問う。
「うむ……アンデッドときて次は天使か……」
 ただ、1階の骸骨の群れの後だ。もし、次に出るのがこれだけの天使であるなら……。
 ハルトヴィンは新たな情報の分析が必須だと判断して。
「私の方で調査し、対策をしておこう。君は仲間を集めて、ここの拠点へ集まってくれるかな?」
「はい!」
 調査に大きな進展があったと実感したユーリエは歓喜が混じった声で返事をし、螺旋階段を駆け下りていく。
「やっぱり、先生はすごいなぁ……!」
 さすがは、アイテム研究の第一人者とも称されるだけある人だ。
 上機嫌になりつつ、幻想へと戻る手はずについて考えるユーリエ。
 そんな彼女の姿を微笑ましそうに見つめていたハルトヴィンは、再度水晶玉を掲げて階段の模様に向ける。
 再び、宙へと浮かび上がる天使を思わせる模様。
「……生と死をつかさどる者……か?」
「……ん?」
 そう呟いたハルドウェンに一度視線を向けてから、ユーリエは奇跡の塔を後にしていったのだった。

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