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まだ知らぬ世界へ
まだ知らぬ世界へ
登場人物一覧
「行人は何でも知ってるのだな」
出会った頃より随分と目線が近づいてきた遮那が、それでも背の高い行人を見上げながら笑顔を零す。
世界を渡り歩いている行人の話を、遮那は興味深そうに聞き入った。
北の地の吹雪は身体の芯を凍えさせ、砂漠の国に舞う砂塵に肌の水分が奪われ、深き森の泉の精霊は意外とお喋りだと告げる行人に遮那は目を輝かせる。
「面白いのう、他には無いのか?」
「じゃあ、この糸を指に巻き付けてごらん」
「こうか?」
行人から受け取った糸を指に巻き付ける遮那。不思議そうに遮那は行人を見つめた。
「これで指輪の大きさが測れる」
「なるほど……行人はその様な事も知っておるのだな」
行人は遮那に『世界の綺麗な景色』から『俗物的な話』まで……多少オブラートに包んではいるが、様々なものを語る。それは遮那にとって魅惑的で楽しげなものに映っただろう。
「所謂、下品とされる物事を全く知らずに育つのは『健全』ではないからね。きちんと知った上で選択をする方が見えてくる道も広がるよ。君にはそれが必要だ」
天香家を継ぐ者としても、行人の知識は魅力的に映った。
「そうだな。行人よ、これからも私に色々な事を教えてくれるか?」
「勿論、俺でよければいくらでも語り聞かせるよ」
お伽話から魅惑的な話まで、知りたいと思うその心を咎める者は居ないと行人は優しく微笑んだ。