PandoraPartyProject

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世界を耕す緋い鳥/世界を食らう緋い鳥

登場人物一覧

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
カイト・シャルラハの関係者
→ イラスト


 矮小である/という夢を見ている。
 責務がある/と心から信じている。
 自由である/等と思い込んでいる。



 ふと、身じろきをする。
 些少の動作に対し、驚きの声を上げたのは周囲の『虫』たちである。それらは自身の身を縛っている「と思い込んでいた」荒縄を容易く引き千切り、身体を伸ばすように悠然と翼を広げる我が身に瞠目し、恐怖し、或いは狂乱にすら陥っていた。
 意識は未だ、微睡みに近い。自身は何者か、何故ここに居るのか、眼前に立つ『虫』は何者か。疑問を次々に思い浮かべてはそれらをゆっくりと解きほぐしていく。

 ――嗚呼、思い出した。

 それは、この身にとっての日常……空を飛び、餌を喰み、風を受けながら気ままに生きる日々に加えた、些細な娯楽。
 自らを敵視する『虫』のほど近くで。弱ったふりをして、眠る姿を見せて、隙だらけの姿を晒すことで彼らを誘き寄せようと言う、童子の如き稚拙な遊び。
『虫』にとってすら明らかな罠であろうそれに、しかし彼らは結局釣られ、目を覚ました自身に無様を見せるその姿は、この身にとっては何とも滑稽に映り、故にこそ愛おしい。
 変わり映えのせぬ日々に齎された、些細な変化。
 その一端を担った『虫』達に感謝を告げて、この身は『虫』の介さぬ言葉を口の中で呟く。

 即ち、「いただきます」と。


 自身が「こう」である理由も、原因も。この身は一切気に留めていなかった。
 頭部には三対の瞳。尾羽にはそれとは異なり、赤色をした『虫』の如き瞳を覗かせる模様が在る。
 異彩を放つ紅色の巨鳥。それこそが、この身が有する姿形で在った。

「――――――、」
「――! ――!!」
「――? ――――――!」

 自身には、数多くの敵がいた。
 正確には異なる。この身を敵視する者は確かにこの世界のほぼ全てであったが、それに対してこの身が敵であると認識できるものは唯の一つとして存在しなかったためである。

「――――――!!」

 それは、今も同様に。
 先の遊興から幾許を経てか。空を飛んでいた我が身に向けて、『虫』の一匹が金属の筒を振りかざし、赤くはじける玉を打ち出している。
 けれどもこの身体にとって、それは何の痛痒も無く。燃え残る炎ですら羽の一つ、体毛の一本とて焦がすことも出来ぬ代物であった。
 それもまた、今まで過ごしてきた日常の一つ。効かぬと知って尚も抗おうとする『虫』に、我が身は呆れ交じりの視線を向けて、歯向かってきた『虫』の元へと降り立ち、啄んだ。

「――――――!!」
「――――――!!」

 周囲に居た『虫』が、狂乱の声と共に逃げ出していく。
 食らった『虫』を呑み込みながら、この身は地上からソラを見上げる。

 ――また、すこし広がった。

 この身は、自らが今の姿である理由を知らない。
 生まれついでの姿形と力を持ち、比するものも無く、だからこそ『虫』を喰って自由に空を飛ぶ。そんな日々を謳歌していた。
 今も未だ、この日常に不満はない、けれど。

 ――このソラは、一体どこまで広がるんだろう?

 自身は、ある日気づいてしまった。
 無限にも広がるような空に、けれどこの身体が飛べる限界が存在し、その先へと往くことも、昇ることも出来ないことを。
 それは即ち、鳥籠の中の箱庭と同義だ。突如として知らされた不自由に我が身は苦悩し、思考し、様々な方法を以て事にあたり……そうして終ぞ、それを広げる、若しくは打ち破る方法を見出した。
 それこそが、即ち「『虫』を喰い続ける」というもの。
 闇雲に試した方法の内の一つであった。腹を満たすためでもなく喰った『虫』の数に応じてソラはその飛べる範囲を広げ、この身が更なる場所へと飛び立つことを許してくれたのだ。
 それを知った後、自身は以前よりも「大食い」になった。ソラの拡大を焦ることはせず、少しずつ広げる程度に食らう『虫』の量を増やしていったのだ。
 弊害が無いとは言えない。自身らがより喰われていくと自覚した『虫』達の反抗は無為であっても目障り、耳障りではあり、またそれが延々続くようならば気も滅入ると言うもの。

 ――それでも。

「それでも」、と。
 この身は、新たなソラを舞う憧れを止められない。
 見果てぬ世界の先には何が在るのだろう。そこに在るのは新たな喜びか、或いは脅威か、絶望かも知れない。
 けれど。この身は知ろうとすることを止めない。止めることは、出来ない。
 ……静かに、眼下へと視線を向ける。
 食らってきた『虫』の死骸は様々であった。光彩の異なる小人の少女。青い髪が特徴的な優男。その他にも、「遭ったことが無いはずなのに、どこか既視感を覚える」者たちを。
 この身は、それに何度でも「ありがとう」を言う。
 糧となってくれてありがとう。更なる世界へ行かせてくれてありがとう。どこまでも利己的な願いでありながら、しかしそれを諫める者も止める者も居ないこの世界に於いて、だから、自身はその行いを止めることは無い。

「――――――!!」

 無心で空を舞ううち、何時しか迎えていた夜。
 眼下から照らされた光と共に、今再び効くはずも無い玉が何度も身体を打ち付ける。

 ――さあ、夕餉の時間だ。

 我が身は笑う。笑うかのように地に降り、再び襲ってきた『虫』を食らうのであろう。
 全ては、この世界の果てに辿り着くため。
 或いは、此処とは異なる、新たな世界に辿り着くために。

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