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追記(――――――乃至、補遺)
登場人物一覧
情報:『以上のことから、患者は現在リハビリ、投薬治療に対して比較的前向きな姿勢を見せている。
今後の経過については進展があるたびカルテを更新し、また治療方針も患者との入念な意思疎通を取っていく』
設定:――一枚のカルテに、クリップで新たに止められたメモ書きが見えた。
『意外にも(という書き方も、失礼であろうが)。
昨今に於いて患者は、嘗て私が提示した治療と、それに伴い回復していく身体機能に慣れるためのリハビリに意欲的な姿勢を示している。
とは言え、その「姿勢」を見せるまでにかかった時間もあって、機能が生体として完全な形での復帰を見せるのは当分先のことになるだろう。』
『何より、彼女が何故治療方針に対して意欲的な姿勢を見せたか。それ自体が一つの問題ともなっている。
……元々は、然る依頼にて刻まれた「烙印」。放置することにより世界に徒為す存在と成る一種の呪いを受けたことが原因であった。』
『「そんな終わり方はしたくないの」と。
「潰えるのであれば、費やすのであれば、それは僅かにでも、誰かの一助となって尽きてしまいたい」と、彼女はそう言って、己の身体を最も効率的に使い潰すため、その機能の復帰を志したのである。
要は、治療を拒んでいた頃から現在までに於いて、彼女の自己犠牲を前提に置いた精神は、何の変化も見られていないと言うことなのだ』
『それは、つまり。我々と彼女が、その身に求めるものの違いも指している。
健康な肉体を取り戻し、存分に生を謳歌してほしいと願う私に対し、彼女は「その時」の為に必要な機能のみを取り戻すことを目的としている。
――既に、その齟齬は目に見える形となって表れ始めている。
以前よりも痩せた身体に、最低限の筋肉、何より時折炯々と光るその眼差しは、正しく「一回限りの消耗品」として最適な能力を獲得しつつある。』
『救えなかった過去が彼女を苛み、ゆえに、何を犠牲にしてでも救うと言う代償行為を以て、彼女は自らを許そうとしている。
けれど、私個人の観点から言えば、それは何の慰めにもならない。
彼女にとって本当に救いたいものが救えなかったと言う事実は、仮にそれを為したとしても覆りはしないからだ。
……なればこそ。
それを「穴埋め」する必要は無いのだと、誰か、彼女に教えてはくれないだろうか』