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芝桜が咲く頃
芝桜が咲く頃
登場人物一覧
遮那は悩んでいた。
今年の鹿ノ子の誕生日の祝いはどんなものを送ろうかと。
これまで様々なものを送って来たが、どれも大層喜んでくれた。
遮那も鹿ノ子の笑顔を見るのは嬉しい。
きっと、どんなものでも喜んでくれると、これまで紡いだ絆を以て自負する所はある。
「故に、悩ましいのだ……のう望よ。街に探しに出てみるか」
遮那は使い魔の望を連れて街に繰り出す。
街は春の陽気に満ちていた。
誰しもが温かくなり、桜舞い散る景色に心が踊っているのだろう。
遮那も何時になく楽しい気持ちが胸に広がる。
大切な人への贈り物を選ぶ時間というものは、其れだけで楽しいのだと実感する。
「何が良いかの……ん?」
遮那の目に止まったのは美しい扇だ。
この季節は桜や梅といったものが描かれていることが多い。
されど、遮那は美しい薄紅色の『芝桜』が描かれた扇子を手に取る。
「これにしよう……喜んでくれるだろうかのう」
その淡い色合いが鹿ノ子の髪に似ていると思ったのだ。
これから蒸し暑くなる季節。これで仰げば清涼にもなるだろう。
今日は鹿ノ子の誕生日。
「あ、遮那さん」
愛しき笑顔を向ける鹿ノ子への贈り物を懐に忍ばせて。
遮那は少年のような笑顔で手を振った。
――誕生日おめでとう、鹿ノ子。
おまけSS『扇の余韻』
アイテム名:薄紅花扇
アイテム詳細:薄紅色の芝桜が描かれた花の扇。鹿ノ子を思い遮那が選んだ。遮那から鹿ノ子への誕生日の贈り物。