遊びにいこう

登場人物一覧

　本屋の紙の匂いが好きだ。
　少し冷たいような静謐さを感じる。
　普段はお喋りな子供達も本を探す時だけは静かになるだろう。

「お、昼顔じゃん」
　振り向けば友人の澄原龍成が手を振って近づいて来る。
「珍しいね。龍成氏ひとり？」
「いや、いつも一緒に居るわけじゃねーけど」
「誰とは言ってないんだけど……」
　彼が思い浮かべる人は決まっているのだろう。照れたように背中を小突く仕草が龍成らしい。

「龍成氏のお求めのものはコレですか」
　結婚式場カタログを手渡せば「ちげぇ」と元に戻す龍成。
「専攻じゃねぇけど、一応学術書は一通り読どこうと思ってな」
「ああ、医者になるんだっけ」
　姉と共に医学の道を進むと龍成は決めたのだと聞いていた。
「まあ簡単じゃねえけどな」
「龍成氏なら大丈夫だよ……多分」
「いや、そこはちゃんと背中押せよ」
　思わず突っ込む龍成に昼顔は目を細める。
「物事に絶対は無いからね」
「それはそうだけど」

　こんなやり取りも、彼が忙しくなれば出来なくなるのだろうか。
　少し寂しいなと昼顔は思ってしまう。
「また、遊びに行きたいね」
「そうだな。海とかも行きたいし花火とかもしたい」
　友達と一緒に遊びたい。それだけあれば、もしかしたら遊べるのではないか。
　笑顔で行きたい場所を並べる龍成を見ていたら昼顔もそんな気がしてくるのだ。