動乱の中で

登場人物一覧

　エーヴェルトを倒し、アルエットの最後の声を聞いたギルバートはその場に立ち尽くしていた。
　これまで己の内で戦って来た数々の怒りや悔しさが溢れ出し頬には涙が伝う。
「ギルバートさん……」
　ハンカチを差し出すジュリエットにギルバートは笑みを向けようとして歯を食いしばった。
　怒りや悔しさを抱えてきた分だけ感情が抑えられないのだ。

　アルエットやリブラディオンの人達を失い己の無力さに嘆いた日々。
　誰よりも強く在らねばならないと急いた事もあった。
　怒りを抑えきれず魔種の声に迷った事もあった。
　それでも、アルエットを送り出すことができた。
　――イレギュラーズが居てくれたから。
　命がけで共に戦ってくれたから。一人では決して成し得なかった。

「ありがとう、ジュリエット」

　ギルバートは満身創痍でジュリエットを抱きしめる。
　涙を零しながら、嗚咽と共に虹の姫に縋り付いた。
　格好いい騎士などではない。
　ただの男が、愛する人に向ける心からの安堵。

　良かったと、ギルバートは零す。
「君が居てくれて、本当に良かった」
　ギルバートにとってジュリエットは心の拠り所なのだ。
　理不尽への怒りが渦巻いていたギルバートの心を、愛で解きほぐし本当の意味で前を向かせたのだから。
「帰ったら……聞いて欲しいことがあるんだ」
　鉄帝の動乱はまだ続いている。だから、ギルバート達はまだ戦わねばならない。
　この戦いが無事に終息を迎えた時にはヴィーザルにも春が訪れるはずだから。

　――その時には、この想いを伝えようと思うのだ。