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    黒豆と黒曜と桜
  
黒豆と黒曜と桜
  登場人物一覧
 きゐこの足下を黒い子犬がてこてこ歩く。
 少し目つきの悪い所が燈堂の黒曜を思わせる使い魔の子犬だ。
「黒豆、今日は天気が良いから桜でも見にいくのはどう?」
 きゐこはフードの下から黒豆に問いかける。
「わん」
 犬のように鳴いた使い魔を連れて春の陽光が照らす道を歩くきゐこ。
 あたたかな風がきゐこのフードを揺らし、愛らしい顔が露わになった。
 慌ててフードを被り直したきゐこは誰にも素顔を見られていないかと周囲を見渡す。
「何やってんだ?」
「わ!?」
 真後ろから声がしてきゐこは肩を振るわせた。
 男の声に振り向けば燈堂の黒曜が怪訝そうな顔で立って居る。
「風が吹いてきたのよ」
「別に隠さなくてもいいんじゃねえの?」
 背の高い黒曜の視点からだとフードを被ったきゐこの顔は余り見えない。
「もったいない。笑顔もむくれた顔も、もっと見たいけどなあ」
「……また冗談ばかり言って。誰にでもそういうの言ってるんでしょ」
 照れた顔を見られたくなくてフードをぎゅっと握ったきゐこ。
「桜見に行くんだろ。俺も行くかな」
「それだけ背が高いと桜も間近で見れていいでしょうね」
「じゃあ肩車してやるよ」
 けらけらと笑った黒曜の腰にきゐこは拳を入れる。
 身長差があり過ぎて腰じゃないと良い感じに入らないからだ。
 冗談ばかり言うこの『友人』をいつか驚かせたいときゐこは考えを巡らせる。
 桜の花弁が風に乗ってきゐこの視界を横切っていった。 

