PandoraPartyProject

SS詳細

Deus nos iunxit

登場人物一覧

ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶

●Deus nos iunxit(神様が私たちを結びつけてくれた)
 胸に。胸の奥に『何か』が突っかかっている感覚は――いつからあったのだろうか。
 ハリエットはベッドで毛布に包まりながら思考の海の中にあった。
 最近、一人になると考える事があるのだ。そう――
(――『あの時』だ。あの時、助けて貰ったから今の自分があるんだ)
 あの時とは初めてギルオスと出会った日の事を……思い返してしまう。
 路地裏での出会い。最初は、私みたいなのに声を掛けるなんて物好きなと思っていたけれど。

 ――他人を信頼できない、煩わしいからと遠ざけるのは。
 ――『煩わしくなければ、心地よいのなら信頼したい』という逆の想いを同時に抱いている者が大半だよ。
 ――君は、どっちかな?

 ……出会った時に貰った言葉が、歩くきっかけを作ってくれた。
 世界を見渡す心の余裕をくれたんだ。
 ずっとずっとその日しか見てなかった。ずっとずっと目の前しか見れていなかった。
 なのに。あの日食べたサンドイッチの味から――
 世界が広がってみえたの。
「んっ……」
 寝返りを打つ。瞼を閉じても、思い浮かぶあの人の顔。
 ……言葉をかけてくれた人はいつも忙しそうで。ローレットの作業室で動いていて。
 でも時間を作って私の勉強を見てくれて。文字も一杯教えてくれて。
 人がいいにもほどがある。と思っていた。
 どうしてそこまでしてくれるんだろう。
 ……情報屋を目指そう、と思ったのはその辺りからだった気がする。
 恩を返そう、と初めは思った。『一人でも生きている』事を証明するのがきっと良いと。そうしたらあの人に――苦労を掛けさせないで済むから。でも、そうしてもあの人はきっと変わらない。忙しさの中で埋もれてそのままいつも通りの笑顔なんだろう。
 だから、その重さを少しでも背負えればと思って。
 その背姿に追いつければとおもって――情報屋の道を志し始めた。

 ……そこからは、忙しない日々が続いたなぁ。

 でも。だからこそ発見もあった。
 一緒に過ごすうちに。いつも穏やかで優しい人だけれども。
 時々どこか寂しそうな……
 人を一定以上近寄らせないような所があるんだって。
 ……ソレを肌に感じたのは、あの酒場に訪れた日。
 ギルオスさんが酔いに呑まれた日――そしてこの手で運んだ日――
 手袋の下の、余人に話してない過去を席で聞いて、それから、えっと。
 ……一緒に同じ部屋で朝を迎えた際に、きめたこと。
(この手の傷をこれ以上増やさせはしない。うん、絶対に)
 ――傍に居ることで、それを証明したい。
 眠りにつくあの人の手を恐る恐る握りしめながら、きめたこと。
 あぁ。思えば、サンドイッチをくれてローレットに案内してくれただけ。
 出会いはたったそれだけの事なのに、どうして。
 あの人の事が気になるのか。
 いつも傍にいたいと思うのか。
 その心が穏やかであるようにと常に願うのか。
(私は――)
 何故ギルオスさんの事をこんなに想うのか。
 そうだ。そこからだ、胸の奥に何かを感じたのは。
 分からなくて、たくさん本を読んだ。図書館にいって、本を毎日読んで……
 そうしたら思慕であるとか、執着であるとか、刷り込み(インプリンティング)であるとか。恋であるとか。愛であるとか――色んな人が、色んな事を書いていたんだ。難しい言葉が沢山並んでて、でも。
 でも結局、どれもピンとこなかった。
 ホントなのかな。こういう事があるのかなって、どうしても思ってしまうんだ。
 もしかしたら全部ただの勘違いかもしれない――
 けれど、けれども。
「もしもこの気持ちが」
 恋の類であるならば。
 本に書いてあったような気持ちが、この胸に宿っているのなら。
 あぁもしも本当にそうであるのなら……

「恋をするなら、ギルオスさんがいい。ギルオスさんじゃないと、やだ」

 ハリエットはそう――言の葉を零すのだ。
 心の底から吐露した想い。
 ……きっとその日。彼女の中に、新芽の様に芽生えた感情が一つあったのだ。
 或いは芽生えていた存在に気付いた日、かもしれない。
 どちらだっていい。だって……
 この気持ちに偽りはない。
 胸の奥が確かに暖かくなった、彼女の中の――真実なのだ。
 ……眠ろう。目の奥が段々と熱を帯びてきた。
 微睡む意識の中で、彼女は充足の中にある。
 明日もあの人に会えるかな、なんて思えば、ほら。

 また、胸の奥が温かくなってきたから……

  • Deus nos iunxit完了
  • GM名茶零四
  • 種別SS
  • 納品日2023年03月26日
  • ・ハリエット(p3p009025
    ※ おまけSS『どこにいたでしょうか』付き

おまけSS『どこにいたでしょうか』

 ――やがて眼が覚める。ハリエットの顔に、陽光が降り注いでいるのだ。
 窓から零れ入ってきたモノだろうか。『んん……』と、眠たげな声も漏れれ、ば。

「やぁ、起きたかい?」

 よく『知っている声』が聞こえてきた。
 ――えっ。アレ?
 ぼんやりとした思考の中で周囲を見渡してみれば――
「よく眠ってたね。ああでもまだ約束の時間には早いから寝ててもいいよ」
「あ、あれ、れ? ここって……ローレット?」
「そうだよ。昨日も一緒に作業してたじゃないか。もしかして覚えてない?」
 あの人がいる。目の前に。
 ――待て。てっきり自分の家に帰って寝ていたと思っていたが、ここはローレットだったのか? ちょ、っと。待て。待って? 眠る前に考えていた事、口に出していただろうか? えっ。えっ――?
「あ、あの。ギルオスさん?」
「んっ?」
「い、いや、その……な、なんでもないよ」
 多分、きっと、恐らく、思考の中だけで完結していた筈。
 そう信じて、信じ込んでハリエットは毛布の中へと再度潜る――
 まずい。心の臓の鼓動が早い。眠気? そんなものはどこかに吹き飛んでいた。
 あぁ――胸の奥がまた温かくなってきた。
 張り裂けそうな、程だけど!

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