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ようこそモミジーヌの館へ
ようこそモミジーヌの館へ
登場人物一覧
「いらっしゃい。ここはモミジーヌの館。迷える子羊たちの安寧と休息の場所」
橙色の縦ロールを揺らし、メリッサへ朗らかな笑みを零すのはモミジーヌ夫人だ。
メリッサは夫人に誘われるまま豪華な部屋の柔らかなソファに腰掛ける。
緊張した面持ちのメリッサを気遣うように紅茶とお菓子をテーブルに置く夫人。
一般家庭に生まれたメリッサはこういった貴族との対話は緊張してしまうのだ。
「今日のお茶はサクラの香りがするものなの」
「良い香りですね」
視線を落せば桜の花びらがカップの底に沈んでいた。砂糖漬けにしたものらしい。
一口飲めば、口の中に薄紅色に咲くサクラの香りが広がる。
「そういえば、アトリエに貴女の絵があったのを見たわ。どれも愛らしくて素晴らしいものだったわよ。最初の白い衣装を身に纏ったものは貴女の魅力を一番引き立てているわね。それと赤い袴を履いたものも好きね。儚げな表情といい、大変好ましいわ」
矢継ぎ早に褒められメリッサは頬を赤くする。
「そういう恥ずかしがりな所もぐっとくるわね。私の一押しは手紙を差し出している絵ね。ヴェールから覗く柔らかな笑顔が好きよ」
照れたように微笑むメリッサを見つめ、夫人は「愛らしいわぁ」と笑みを零した。
サクラの香りに包まれて。
暖かな春の午後が過ぎて行く――