智の遊戯

登場人物一覧

「うーむ」
　ローゼンイスタフ城の談話室でベルノがうなり声を上げていた。
　テーブルの上には盤が置かれ、向かいの席には美咲が座っている。
「ここを取ればどうなる？」
　黒い駒を一つベルノが勧めれば、美咲が思考の外にあった場所からその駒を奪った。
「へ！？　何でその駒でここに来れるんだよ」
「この駒は斜め方向に進めるんです。最初にお伝えしましたが……」
　美咲の言葉にベルノは「クソッタレ！」と頭を抱える。
　確かに最初のルール説明の時に美咲は駒の役割を教えてくれた。
　それを頭に入れてなかったのはベルノの落ち度だ。
　緊張感のあるローゼンイスタフ城でのこの一幕。何も『遊んで』居るわけではない。
　駒を軍勢に見立て、大規模な戦場を頭に思い描く訓練を兼ねているのだ。
　己の『武』を信じるからこそ、美咲のような『智』に一目置く。
　少しでもその才能を吸収せんとする。強欲な王だと美咲はベルノを見遣る。

「少し甘い物を入れてみてはいかがですか」
　テーブルの上に置かれたのは2センチサイズの小さなチョコの包みだ。
　表面にはアーカーシュマークの刻印がある。
「ああ、これは染みるぜ、ありがとな美咲。……よし、もう1回だ」
　チョコを頬張りながら盤に視線を落すベルノ。
　ならば、次の手は……と美咲もチョコを食みながら駒を進めた。