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おみやげ
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登場人物一覧
幻想国の南西、ヴァルツァーレク領にほど近い港町にウィリアムは足を踏み入れた。
海から吹いてくる暖かな潮風が、この辺りの気候風土が穏やかなものだと示してくれる。
森の中に棲んでいたウィリアムにとって潮の匂いがする風は何度味わっても新鮮だった。
町並みを眺めながら海へ向かって歩くウィリアム。
港町はいつも活気があり、旅人を迎え入れてくれるような気がする。
保守的な森の民とは気質が違うのだろう。そこもウィリアムにとって興味深いものだった。
何方が良いと優劣を付ける物では無い。
ただ、その違いに人々の営みが深く関わっているのが深く探究心をそそられる。
はしゃぐ子供の声がウィリアムの横を通り抜けた。
暗い路地を抜けて。
宝石のように白く輝く水面が眩しくてウィリアムは目を細める。
青い海と荷物を載せた船。船員達の荷下ろしの声が聞こえた。
ウィリアムは砂浜をゆっくりと歩きながら海の音に耳を傾ける。
響き続ける波の音。
妹のライラにも聞かせてやりたいと思い立ち、ウィリアムは貝殻を拾い上げた。
耳に当てると誰も居なくなった貝の住処に響く漣が聞こえる。
きっと、ライラは喜んでくれるだろう。
妹の笑顔を思い浮かべながらウィリアムは青い水平線をしばらく眺めていた。