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SS詳細

スー・リソライトが地下室でひどい目にあう本。

登場人物一覧

スー・リソライト(p3p006924)
猫のワルツ

●はじめに
 この同人誌『スー・リソライトが地下室でひどい目にあう本。』は同人サークル"S号さんと歩道橋"による二次創作です。実際の人物団体、およびふわふわの白い猫耳美少女(103歳)や毒花聖女とは一切関係ありません。

●堕ちた踊り子
 明けない夜はなく、暮れない朝もない。
 師が教えてくれたこの言葉に、何度も私は救われた。

 だって、諦めたくない。
 後悔するくらいなら、この身体が動く限り全身で、全霊で、踊り続ける!

 あぁ、なのに……今はもう、指先のひとつも動かせないや。
 真っ暗な闇の中で泣きじゃくる私を、優しい声が毒のように蝕んで。
「怯えてるのね、可愛いスー」
 このまま堕ちたら楽になる、なんて――。

 どうして、こうなっちゃったんだろう。

●魔本の罠
 さかのぼる事、数時間前。
「今日もいいダンスだったよ、スー!」
「えへへ。ありがとうっ!」
 私は今日も境界図書館でライブノベルの世界をひとつ助け終わった所だった。

 どんな世界も一度降り立てば、そこは私のダンス・ステージ!
 心のままに気持ちをステップに乗せて踊れば、世界を越えて"思い"は通じる。
 それがすっごく嬉しくて、旅立つ先が決まる度に、どんな世界か思い描いて振り付けを考えるんだっ!
「よーし、次も頑張ろうっ!」

 もっといろんな世界を知りたい。好奇心を原動力に頑張ってきたからこそ、私はソレを見逃せなかった。
「あれっ? 一冊だけとび出てる」
 普段は境界案内人ホライゾンシーカーの皆が整理して、きっちり陳列されてるハズなのに……。
 少し高い位置にあるけど、背伸びすれば届きそうな位置。
「慌てて本棚に入れたのかなー? よいしょ」
 つま先立ちはバレエの基本だし! 余裕だよねっ!
 くっと踵を浮かせて、背表紙を押したら本が棚に収まる――。

"おいで"

「えっ?」

 尻尾の毛並みが逆立ちそうな、背中を這う低い声。
 突然の事にびっくりして目を瞬いている間に、気づいたらもう闇の中!
「にゃあああぁーー!?」
<物語の娘>の世界だって、こんなにひどい落下はしないよ!
……ってくらい自由落下を楽しんでも、まだまだ先は見えなくて。
 上も、下も、右も、左もわからない。ただ暗いだけの空間で。
「なん……何これ……」
 いつしか私は気を失っちゃったんだ。

●地下の毒花
 ぴちょん、ぴちょん。
 雫が落ちる音が、どこか遠くで反響してる。
「うぅん……」
 目が覚めても目の前は真っ暗闇のままだった。
 さっきと違うと分かったのは、それは周りが暗いから見えない訳じゃなくて、布か何かで目が塞がれてるって事。
 落下の感覚がなくなった代わりに、椅子か何かに縛られてるみたいだって事も……。
 逃げようと身体を少し身じろがせても擦れる鎖の音が響くだけで、
 冷たい空気に震えながら、それでも私は足掻き続けた。
「寒いよ……うぅ。誰かいないの?」
 猫耳をへちょりと垂らしたまま心細そうに呟いたら、返ってきたのは聞き覚えのある声で。だけど――。

「面白い娘。この状況で誰かいた方が、恐ろしいのではないかしら」
「……ロベリアさん?」
「覚えてくれていたのね、スー」
 冷徹な嘲笑。……違う。これは私の知ってるあの人じゃない。だってあの人は。
『スーさんに軽く踊って戴いた時、畳みかけるように素早く次の振りつけに変わるのが魅力的で』
『その踊りについていける衣装が相応しいと思いましたの』
 異世界へ踊りに行く私を、あんなに嬉しそうに元気づけてくれた人だもん!
「あなたは誰?」
「今に分かるわ。いいえ――分からせてアゲル」

 耳元に囁かれた言葉はビックリするほど優しい声なのに、
 氷みたいに冷たい何かを孕んでいて。不安だけがじっとりと、私の胸に絡みついた。

●蝕むような愛
 指先が喉に触れて、輪郭をなぞるように遡る。
 顎元へ到達したそれは、ぐっと力を込めて私の口をこじ開けた。
「やだっ! やめ……んぐっ、んんッ!」
 静止の声を塞ぐように口の中へねじ込まれたのは、たぶん小瓶の口だ。
 上に傾けられると、むせ返るような甘い匂いと共にどろっとした液体が喉奥へと流し込まれる。
「――けほッ! ――ッツ!!」
 押しのけようと動かした舌が熱い。液体に振れた傍からピリピリ痺れて、身体が奥の方から熱く――。
「抵抗はおしまい?」
「ふぁ、……」
 自分の出した声にビックリしたけど、口がまともに閉じれない。
 唇の端から零れた唾液混じりの液体を拭うようにロベリアさんが掬い上げる。
 少し離れた所でチュッとリップの音がして――えっ。つまり、えっ。わ、私の唾液を舐めてる!?
「うぅ。……何を……したの……」
 身体が熱い。思考が追い付かない。
 ひどい事をされているのに、悪意を感じないのが逆に怖い。
「注いだのよ、愛を」
「あい……?」
 両の頰を包むようにロベリアさんの手が触れてくる。
 くすぐったくて顔を振ったら、身体を縛るベルトが擦れて……。
「私が境界案内人になる前、なんて呼ばれていたか話した事はあったかしら?
"解放の聖女"。そして私の紡ぐ救いは死の中にあったわ」

 元気に駆け回っていた少年も、穏やかな笑顔の似合う老婆も。
 たった一滴の雫で儚く散る瞬間は美しく、それが命を燃やすあいなのだとロベリアは思った。
 そうしなければ"おつとめ"をやりきる前に壊れてしまいそうだったから。
 聡明な彼女はそうして、自分自身を騙し続け――後に己の世界から追放されるほどの大虐殺カーネイジを巻き起こしたのである。

「怖い? 逃げたい? ふふ。安心してね、スー。
 たっぷり愛してあげたいもの。貴方の身体を火照らせている毒は、死に至らない」
 歌うように語りながらロベリアさんが私の身体を撫で上げてくる。
 太ももをまさぐって、腰をなぞって……。
「ひゃあっ! ぁ、やだ、やめてぇっ!」
「ただ、ほんの少し刺激を感じやすい身体になるだけの代物よ」
――それってつまり『媚薬』を盛られたって事だよね?
「こ、んなの……おかひぅ、なっちゃうよぉ……っ」
「もっと狂いなさい。私だけに見せて、貴方の全てを。骨の髄まで溶かすような愛で包んであげるから」
 はぁ……はぁ……と熱のこもった息が漏れる。
 悔しくて唇を噛んで我慢しても、ロベリアさんにどこを愛撫されたのか分かるくらい意識がソコに集中しちゃって、痛いほどジクジク感じるのに、気づけば尻尾が揺れていた。

「痛い? 気持ちいい?」
……どうしてこんなひどい事をするの?

 真っ暗な闇の中で泣きじゃくる私を、優しい声が毒のように蝕んで。
「怯えてるのね、可愛いスー」
 このまま堕ちたら楽になる、なんて――。

「信じているわ」

(……?)

 気持ちよさの波に溺れかけていた私の意識が引き上げられた。
 相変わらず擦れた所がヒリヒリ痛むし、身体はマトモに動かないけど……何故かその一言に、隠れていた気がしたんだ。
 ロベリアさんの本当の気持ちが。

「もっと喘いでもらわないと盛り上がりませんわ。より深いあいで満たして差し上げようかしら」
「……」

 ひとつだけ分かった事がある。
 それは私もロベリアさんも、神様から運命を決められて生きてきたっていう事だ。

 供犠の忌み猫。それが決められた私の命。
"お前は幸せ者だよ。あのお方への捧げものとして生まれたのだから"

 違う。『供犠の徒花』になりたくて、私は生まれてきたんじゃないっ!

 あの時。明けない夜がない事を教えてくれた師匠が私にはいたけれど、
 聖女として歪んだ道を歩んだロベリアさんには、そういう支えになる人がいなかったのかもしれない。
……そんなの、寂しすぎる。

「次はこれを試しましょう。一本でどれ程の幻覚ゆめが見れるかしら」
「ねぇ……ロベリア、さん」
 どこかに薬棚があるのかな。ガラス瓶のぶつかる音が遠くから聞こえてきていたけれど、その音が止まる。
「なぁに?」
「ずるいよ! わ、私も……ロベリアさんをさ。いっぱい、愛したい」
 首元の鎖がジャラリと揺れる。ほんの少し小首を傾げて、
 どこにロベリアさんがいるかは分からないけど、私なりの"これが精一杯っ!"
……ってくらいの甘える声を振り絞った。
「ぎゅってしたいよ。……だめ?」

●この世に救いがあるのなら
 椅子にガッチリ固定されていた手首が解放される。
「ン、っ……」
 外気に触れるだけで痛みが走るのは、多分逃がれようとした時に痕がついてしまったからだ。
「声、我慢しなくていいのよ」
「ゃあ! あっ。うわ、み……耳元で囁かないでぇ!」
 怒られちゃったと大して気にしていないような声でロベリアさんが笑う。
 ちゅっ。
「ひあうっ!?」
「ブルーブラッドの耳って、ふわふわで、齧りたくならない?」
 痛いのは嫌――っ! 考え事をまとめなくちゃいけないのに、
 邪魔するようにロベリアさんが私の猫耳にキスの雨を降らせてくる。
 ううぅ、これは絶対わざとやってるよ……。
「手首、痕がついてるわ。スーの白い手に映えるわね」
「ロベリアさんの意地悪」
「嫌いになった?」
「ううん」
 身を寄せたロベリアさんを、ぎゅっと抱きしめてあげる。
 どんなに深い闇の中にあっても、誰かの温もりがあれば前を向ける。
 これが私なりの信頼の証だ。そして――。

「大好きだよ。だから私は……諦めない!」

 目隠し越しでも、触れ合う事でようやく分かった違和感の根源。
 それに気づいた瞬間、私は愛刀に手を伸ばした!
《Dance of death》はただ人を傷つけるための道具じゃない。
「死を想え」と彫り込まれた一振りには、死に死を与え、生を全うする為の抗いの力が込められてるんだ!
「何をしてるの!? その剣は、……ぁあああっ!!」
 ロベリアさんとの間を一閃して、椅子ごと前のめりに倒れ込む。
「いったた……」
 手が自由になったって、受け身を取ろうにも身体が熱いまんまだし……。
 まだ動きが鈍くなりがちだけど、暴れたおかげで目隠しがずれた。

 ロベリアさんは目の前に膝をついて座り込んでいる。
 憑き物が落ちたばかりでどこかぼんやりとした顔だけど、周りを漂うもやのような黒い霧は抗いの力で少しずつ引いているみたいだ。
 目が合うと、ロベリアさんは泣き出しそうな表情かおで私を助け起こした。
「ごめんなさい、スーさん。私……本棚の整理をしていましたの。そうしたら……」

"おいで"

「この世界に憑かれちゃったんだよね」
 境界案内人ホライゾンシーカーだって、本に対して万能とは限らない。
 時には本が彼ら・彼女らを巻き込む事態も起こりえるという訳だ。
「もう大丈夫。ロベリアさんは私が守っ……」
「どうしたの? そんなに顔を真っ赤にして」
「~ッは、激しく動きすぎて……反動でっ、身体が……あっ、熱!」
 助ける時は必至すぎて媚薬なんてそっちのけだったけれど、
 今になってあのジクジクした感覚がぶり返してきたっ!
「私の作った毒だから、解毒薬はあるのだけれど」
――けれど?
「じっと薬が効くまで耐えるのは辛いでじょう。だから私が」
 ちょっと待ってよロベリアさんっ、今ドキドキが収まらなくて、声が出ないからっ!
「火照りが収まるまで気持ち悦くして差し上げますわ」
「いいよぉっ、我慢す、ひうっ! ゃ、そんなトコ触られたら、わた、私っ」
「そうね。触るだけでは収まらなそうですもの。……ン、ちゅっ」
 どこを舐めてるんですかーーっ!!

 地下室に響く悲鳴が熱を帯びた嬌声に変わる。
 絡み合う百合と儚く散った乙女の純潔。その果てに救いはあるのだろうか?

●だから関係ないってば!?
「なにこれーーー!!」
 図書館に今日一番の大きな声が木霊する。椅子に座っているスーは、真っ赤になってブルブル震えながら卓上へとつっ伏した。頭からホコホコ白い湯気が立ちのぼらせ、読み終わった薄い本を掴んだまま悶えに悶えまくっている。
「あぁ、いや違うんだ。これは赤斗がな」
「おい待て、何で俺が加担した事になってんだァ? この本は蒼矢が――」
「ロベリアさんが助かって良かったよっ!」
 論点はそこかい?
 ひとつの身体にふたつの魂。神郷2人が言い訳せずに済みそうだと息をつくと、
 ふいにその背後から黒い裾の可憐な腕が本をつまむ。
「……へぇ?」
 本の中身をパラパラ軽めに目を通し、ロベリアは見る者全てが底冷えるような笑みを浮かべた。

 次回、『続・スー・リソライトが〇〇でひどい目にあう本。』!
 来季の即売会にご期待ください!

  • スー・リソライトが地下室でひどい目にあう本。完了
  • NM名芳董
  • 種別SS
  • 納品日2019年12月29日
  • ・スー・リソライト(p3p006924

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